第47話 修学旅行⑥
「「本当にありがとうございました」」
2日目の朝、俺と祐樹は最後に改めて細野さんに感謝の気持ちを伝えた。
「いえいえこちらこそ。2人とも元気でね」
また細野さんに会えたらいいな、と思った。武志君も頑張ってほしい。俺らがいなくなる、ってわかった時に号泣しているを見ると、可愛らしかったな。
今日と明日は平和学習であったり、自由行動であったり、その他の体験など盛りだくさんの2日間だ。まぁ、色々と気まずくなることが予想されるが……
「おはよう、斗真君」
再び近くの施設で説明を聞くために、所定のところに並ぶと瑞希が話しかけてきた。
「そっちも楽しかったか?」
「楽しかったといえば楽しかったわ。でも誰かさん達のせいで大変だったけどね」
本当に申し訳ありません……
「何か変わったこととかあったか?」
カラメルに聞こえないように、小さい声で俺は言う。
「皆大変、ということかしら。ガールズトークは男子には秘密だから」
そう瑞希は言って、それ以上何も話してくれなかった。
民泊を終え、まずはホテルに移動する。日程の都合などで熊本のホテルなので、また長いバス移動だ。
「お、お、おはよう斗真」
「お、おう」
俺とカラメルも若干気まずいが、普通に話せるようになったし大丈夫だろう。また、本音で話し合わないといけない。バスの中で話しかけてみよう、俺はそう心に決めてバスに乗り込んだ。
「いや寝るんかい」
カラメルはスヤスヤと寝てしまった。瑞希や真緒も寝ている。
「うわぁ、皆熟睡してるねぇ」
起きていた東雲さんが話しかけてくる。
「そうだなぁ。まぁ落ち着けないところとか夜更かしとか色々あるんだろ」
祐樹はそう得意そうに話すが、
「いやお前も一日目寝てたからな」
ちなみに俺は人がいるところでは寝れない。イビキかいちゃうんだよなぁ、俺。
それにしてもガールズトークね……一体何を話したのやら。
「そういや知ってる? 唐沢さんの家庭の事」
東雲さんが唐突にカラメルの話題を話し出す。
「もちろん」
カラメルと少し喧嘩したときや付き合い出してからもちょくちょく話は聞いていた。“空気”を読みすぎなんだよ、とも言ったっけ。
「仲が順調なのは知ってる?」
「カラメルが気持ちを伝えてから順調って言ってたな。パパもママも元に戻って、また前のように楽しく過ごせているって」
カラメルはそう笑顔で話していた。
「私も結構唐沢さんと話したりもしてね? それで色々知ったんだけど……」
東雲さんはいつもふざけるような感じだが、今日はとても真剣な表情だ。
「それでどうしたんだ?」
「唐沢さんのお父さんって結構大きい企業で働いているじゃん? 私は経済の事詳しくないけど株とか上場とかよく聞くし」
そんな話もしてたな、と思い出す。ただ離婚した原因は価値観のずれとか言ってただけで、スペック上は問題がないんだけどね……とカラメルは冗談交じりに話していた。今となっては笑えないんだけども。
「昨日さ、民泊先でテレビ観てたんだけどね。全国のニュースで唐沢さんのお父さんが働いている企業のニュースが出ててね。内部的に不祥事? があったみたいでなんか苦しそうで」
「えっ、そうなのか!?」
昨日は、武志君とかと話したり修学旅行というのもあってスマホとかもほとんど見てなかった。俺は慌ててスマホで検索する。
「うわぁ、炎上してるなこれ」
別にカラメルの父さんは悪くないのだが、ここまで炎上しているとヤバそうだ。どうやら内部告発で色々な問題が出て、バレたのだそう。
「もしかしたらさ、これ唐沢さんにも影響出てくるんじゃないかなって思って。一応安佐川君には伝えておこうと思って」
「ああ、ありがとう」
どうして神様はこんなにもいたずらが好きなのだろう。
「斗真、どうする? そういやカラメルはこの事知ってるのか」
「多分知らないと思う。ただ、知るのも時間の問題かも」
東雲さんが言うようにいずれは絶対知る事になるだろう。
「とりあえず修学旅行中は、楽しく振る舞うしかないか」
俺は何も考えがまとまらなかった。
その後、ホテルに使わない荷物を置きこれから知覧の方へ向かう。ホテルはとても広くて綺麗で良いところだった。まぁ、そんな事は置いといて。
俺はずっとカラメルの事を考えていた。本当、神様はどうやらいたずらが大好きらしい。どうも俺に難題を突き付けるのが楽しいんだろうな。
「何事も全部丸く収まって、上手くいく理想郷はないのかねぇ」
俺は誰にも聞こえない声でそう呟いた――
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