第46話 修学旅行⑤

「うぎゃぁぁぁぁぁ」

「わあぁああぁぁああ」


 すっかり日も暮れてきて、もう夜だ。夜空が自然とマッチしてとても綺麗だな、と思う。細野さんのお子さんが帰ってきてからは本当に大変だった。


「「ねーね遊ぼう」」

 子供2人の表情はとてもキラキラしている。


「普段民泊とかしてるからですかね……お子さんも慣れてますし、元気ですね」


「そうなのよぉ。ごめんね」


 こうしてしばらく俺と祐樹は遊び相手になり、ヘロヘロになるのだった。




 その後風呂を済ませ、いよいよ待ちに待った夕食の時間だ。豚の生姜焼きにサラダ、鹿児島特産のサツマイモを使ったサツマイモポテトや味噌汁など、とても豪華な夕食となっている。

 基本、俺らの作業は簡単だったので楽しく調理できたし、とても美味しそうだ。


「「いただきます!」」

 

 俺と祐樹は疲れからきた空腹もあったのか、いただきますという挨拶をしたと同時に猛スピードで食べていく。めっちゃ美味しい。


「高校生の男子はよく食べるわねぇ」

 


「いやめっちゃ美味しんで。なっ、斗真?」

「美味しすぎます」

 箸が進むとはこの事か。



 その後、お言葉に甘えてご飯をおかわりしてしまった。俺も祐樹もお腹いっぱいになるまで食べてしまった。


「「ごちそうさまでした」」


 正直不安もあったけど、ここまで美味しい料理が食べれて、とても優しい人達で……とても大満足だ。間違いなく思い出になるだろう、そう思った。






「ねーね。お兄ちゃんは好きな人とかいるのー?」


 子供とは無邪気だからこそ怖い。夕食後、ゆっくりしていると小学二年生の武志たけし君が唐突にこう言ってきた。


「俺はいないけど、この斗真お兄ちゃんならいるぞ」


「おいこら」

 お前も一応いるだろうが。仲間を売るんじゃねぇ。


 ただこの話題は話しが進まない。カラメルの事、祐樹や瑞希の事、東雲さんとかの過去の恋愛……恋というものはとてもキラキラしているようで、実際上手く行く人は一握りだ。初恋の人と結婚しました! とか都市伝説レベルだ。



「そういう武志君はさ、好きな子いるの?」

 俺は逆に質問してみる。


「い、い、い、いる」

 武志君は、恥ずかしそうに小さい声でそう言った。とても可愛らしい。


「その子はどんな感じなの? どこが好きとか」


「え、えーとね。静かだけど勉強ができて可愛くて」

 なんと素晴らしい恋なのだろうか。眩しすぎる。


「モテ男がアドバイスしたらいいんじゃないのか?」

 祐樹は笑いながら俺を茶化す。


「えーお兄ちゃんがぁ? 見えない!」

 おいこら、正直すぎるだろ、小さい子はどうも素直だな。


「アドバイスとかないんだけどなぁ。まぁ頑張るしかないというか」


「えーつまんない」

 武志君はとても不満そうだ。


「まぁ変に強がったり、ちょっかい出したりしないことかな。なんていうかさ、自分を出していく感じというか」


 俺は頑張って伝わるように武志君に言う。特にこのぐらいの年齢の子は、よくちょっかい出しすぎたりして嫌われたりしちゃうからな。

 

「む、難しいなぁ。でも頑張る!」


 武志君は上手く行くといいな、と強く思った。



「じゃあ僕たちは1階の居間使わさせていただきます」

 

 俺たちは広い1階の居間に布団を敷いて寝ることになった。細野さん達は2階で寝るそうだが、静かにして迷惑をかけないようにしないとな。


「修学旅行、あっという間に1日目が終わったな」

 祐樹が小さい声で話しかけてきた。これも修学旅行の一つの醍醐味だろう。まぁ、夜更かしのし過ぎは良くないけど。


「そうだなぁ。すぐ終わるんだろうなぁ、修学旅行も」

 3泊4日だけど、実質1日目の午前と4日目もほぼ移動だしな。


「俺、頑張るよ」


 祐樹がそう言っているのはおそらく告白の事だろう。まぁ瑞希と話した時に色々聞いちゃったから複雑な気持ちだが。


「頑張れよ」

 これはきっとついていい嘘だろう。


「斗真はどうだ? カラメルと上手くやれてるか?」


 その祐樹の問いに俺は何て言おうか悩む。正直に言うか誤魔化すか。

 正直な話、祐樹がフラれることを知ってしまったし言ってもいいか、と思ってしまったので、俺は正直に話すことにする。


「ぶっちゃけ上手く行ってない」


「えっ、そうなのか」

 そりゃ祐樹も驚くだろうな。


「まぁ付き合ってからの価値観のズレっていう感じというか……」


「そっか。まぁそんな事もあるか」

 祐樹は意外にもすんなりと受けいれた。


「そんなすんなりと理解できるのか?」


「まぁ、な。俺もバカじゃないし、人の様子とかはよくわかるよ。斗真とカラメルの事や瑞希にどうせフラれるってことも」


「フラれることも分かってたのか」

 祐樹がそこまで分かっているとは知らなかった。


「そりゃぁ脈ありとか脈なしとか合う合わないは分かるさ。俺と瑞希じゃ合わないってことも」


「それでも告白するのはなんでだ?」


「自分の気持ちを伝えたいし、言わなきゃ始まらないからさ」


「立派だな」

 

「それに何が起きるか分からないからな。もしかしたら付き合えるかもしれないし。そしたらめっちゃ溺愛するわ」

 本当に祐樹はカッコイイ。祐樹と友達になれて本当に良かったと思う。


「そろそろ寝るか、祐樹」


「そうだな、斗真」


 少し悲しくなったので、俺たちは寝る事にする。またリセットして、明日も頑張ろう――

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