第34話 文化祭②

「それで話って……あの事についてだよね」


「あぁ」


 こうして俺は真緒に気持ちを伝える――




「まずは真緒、俺の事を好きになってくれて本当に“ありがとう”」


「そんな感謝されることじゃないよ。私はあー君が普通に好きになっただけ」


「とても嬉しかった。俺なんかを許容して好きになってくれて……本当に、ほんとっっっうに嬉しかった」


 俺の事を肯定してくれてとても嬉しかった。好きになってくれてとてもうれしかった。でも真緒の気持ちには答えられない……


「じゃ、じゃぁ」


「ごめん。真緒の気持ちには答えられない。俺には好きな人がいるんだ」

 俺は真緒を真っ直ぐみて、こう言った。


「えっ」

 真緒は今にも泣きそうな表情だった。


「俺には決めた人がいる。だから真緒、ごめん」


「私じゃ、ダメなの?」


「色々考えたし、真緒と付き合ってもとても楽しいとか思ったよ。でも、俺はとても好きな人がいるんだ」


 俺は本心を伝える。真緒と付き合ったら……きっと楽しいし、幸せになれるだろう。でもそれ以上に俺の心の中に好きな人がいる。


「……そっか。あー君は戦うんだね」


 その真緒の言葉には意味が込められている気がした。俺が初めて好きな子に真剣に挑む気持ち、そして今までの弱音と戦う気持ち。


「うん、俺は戦うよ。それぐらいさ、大好きって思ったから」


「そんな成長したあー君もとても“好き”だよ」

 その“好き”は今までとは少し違う“好き”で。


「俺も笑っている真緒が“好き”だ」


「……本当にあー君はズルいなぁ」







 1日目、午後。生徒会の仕事があるために、俺は再び第二体育館に訪れていた。午前では、真緒に気持ちを伝えることができて本当によかった、と思う。


「あっ、先輩。ちっす」

「先輩、こんにちは!」


 第二体育館に着くと、見慣れた後輩2人が話しかけてきた。小鳥遊と来間だ。


「順調すか?」

 小鳥遊が俺の進捗を聞いてくる。


「今のところは。あとは明日に告白するだけだ」


「そりゃぁ、よかったっす」


 すると、来間も会話に入ってきて


「私たちも午後から仕事頑張るので、先輩はイチャイチャしてください」

 と言う。


「いや、来間。流石にそれはダメというか、何というか。明日もあるんだし」


「そんな気を遣わなくていいすよ。先輩が色々と気を遣うのは分かります。けど私たちだって先輩の事は応援もしたいし、前も向いてます」


「そうですよ! たまにはどんどん自分を出してください!」


「小鳥遊、来間……本当に俺は良い後輩に恵まれたな。お言葉に甘えさせてもらうぞ」



 人にはストーリーがある。黒歴史もあれば、嬉しいこともあるし、現在進行形の悩みだったり楽しいことだったり……どんな天才作家にも書けないストーリが一人ひとりにもある。

 俺にもあるし、カラメルも瑞希も真緒も小鳥遊も来間にも自分のストーリーがある。人生という理不尽な中で、もう運命とやらは決まっているかもしれないけど……俺たちは前を向いて、日々暗闇を歩いている。


 皆、前を向いている。だから俺も頑張りたい。改めて俺は、強く思った。



「あっ、カラメル。来たぞ」

 俺はカラメルを見つけて、自然に挨拶する。


「うん」


「本当に文化祭にぎわってるな」

 話題を振ってみる。


「うん」


「あっ、キーワードはまだ全然見つかってないな」

 性格が悪い俺のおかげだ。


「うん」


 あれぇ、俺嫌われてないかぁ?


「あ、あのカラメルさん。怒ってらっしゃる?」

 恐る恐る俺はカラメルに質問する?


「逆にこれを見て怒ってないとでも?」

 あっやべ。めっちゃ怒ってる。


「あのー俺なんかしましたっけ……」


「べっつにー。私は付き合いの長い友達なのにーってだけだよ」


 あっ、そういえば色々なことを考えている中で、カラメルに説明したりするのを忘れてた。確かにカラメルからも1日目の午前とか一緒に回りたい、とか言われていた。

 ただ2日目の告白の件や、真緒の事はなかなか言えない。万が一バレてしまったら台無しだし。それで今にいたる。


「いや、別に俺はお前の事を忘れてないぞ。マジで」

 なんならずっと思っている。


「あっ、ふーん。それなのに、準備期間とかは瑞希と仲良さそうに楽しく話してたよねぇ。あれ、今日の午前は真緒と回ってたっりしてたなぁ」


「不可抗力だ」

 意識して避けてたなんて口が裂けても言えない。


「まっ、いいけど」


「心配すんな。この生徒会の仕事がある1日目に回っても楽しくないだろ。明日は何も仕事がないし、明日の方がいいだろ?」


「まぁ、それはそうだけど」


「明日は一日中、楽しもうぜ。2人で」

 自然に誘えたので心で激しくガッツポーズをする。


「2人で!? そっかぁ2人かぁ……えへへ」

 そのカラメルの喜んでいる表情を見て、俺は再度心の中で、ガッツポーズをする。


「だから別に蔑ろにはしてないぞ。ちゃんと大事に思ってる」


「しょうがないなぁ、斗真は。特別に許してあげる」



 そうして1日目の午後は、少し仕事をこなし、カラメルと会話したりして楽しい日々を過ごした。



 俺にとっての勝負の日は明日、そこで気持ちをカラメルにぶつける。こんなに楽しみで、ドキドキして、怖くて、待った日はない。

 おい、神様。ちゃんと見てろよ。

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