第30話 関係性

 祐樹とも無事に仲直りした俺は、思う存分に夏祭りを楽しむことにした。


「むぅ」

 カラメルがどこか不満そうだったので、


「どした?」

 と聞くとカラメルは、


「前までは喧嘩してたと思ったら、急に仲直りしててさ。それになんか変わったというか、ちょっと良い関係になったみたいな……」

 と言った。他の人から見ても、そう感じるのだろうか。


 祐樹は祐樹で、瑞希と色々話してたりして楽しそうだった。あいつもやるな、と思いつつ花火まで少し時間があるので、何をしようかと考える。


「斗真、何か食べ物買いに行こー!」

 俺の様子を悟ってか、カラメルが提案する。


「おっと、先輩。抜け駆けは許しませんよ」

 すると後輩の来間が割り込んでくる。他の女子達も同様に、あーだこーだと言っている。


「やっぱ、お前モテ男じゃん」

 祐樹にそう言われるのもまだ慣れない。キャラが、祐樹といつの間にか入れ替わってしまったようだ。俺なんかが、と今でも思ってしまう。


 そこで恨みっこなし、ということで、とりあえずペアに分かれて行動することになった。厳正な抽選というか、勝負のなか……


「よろしくね、斗真くん」

 

 俺の相手は瑞希となった。

 ちなみに他は、ハルと小鳥遊、カラメルと来間、真緒と祐樹となった。


「と、とりあえず何か食べるか?」


「そう、ね。私、夏祭り初めてだから」


 瑞希は全然外の世界を知らなかったな、と思い出す。夏祭りを実際に体験するのも初めてでワクワクしているんだろう。

 そういって出店を見ながら歩いていると、ふと瑞希が立ち止まる。


「やってみたいのか?」

 瑞希が立ち止まったのは、金魚すくいの店だった。


「う、うん!」

 どこかキラキラした表情は、とても綺麗だった。


「じゃあ、やってみるか」


 ただ、ここでまた思い出す。俺は不器用だが、瑞希はセンスが抜群という事を……








「はぁ、楽しかった」

 そう言って、満足そうに笑う瑞希。持っている金魚すくい袋には、大量の金魚は入っている。


「俺、初めて見たよ。出店の人が止めるの」

 あの青ざめた顔は、二度と忘れないだろう。


「そう、なのかな? 私は基準がよくわからないけど」


 その後も、俺らは色んな出店を回った。色々と、瑞希が言いすぎて困ったけど……


「お祭り価格? それは適しているんですか?」

「このくじ、明らかにインチキですよね」

「絶対倒れないですよね、この景品」


 などど、どこぞの炎上系動画クリエイターかと思うぐらいに、重い攻撃を連発していた。まぁ、出店の人の顔は面白かったけどさ。



「あの子、めっちゃ可愛くね?」

「あれ、彼氏? なわけないか」

「釣り合わないだろ」


 その後も歩いていると、色々な声が聞こえてくる。耳障りでウザったいと思うけど、その声は痛いほど刺さるので無視もできない。

 すると、瑞希は


「ちょっと、休憩しようか」

 と言って、休憩スペースに向かった。俺に気を使ってくれたのだろうか。


「斗真君は気にしてる?」

 瑞希は、優しく俺に話しかけてくれる。


「いや別に。俺なんかが、とは今でも思ってるしさ」

 俺はこういう性格だから、いつまでたっても自信は持てないだろうし、うじうじしているんだろうな。


「そっか」

 瑞希はそれ以上、何も言わなかった。


 そして少し沈黙が続いた後、


「あのさ、祐樹君に言われたことなんだけど」

 と瑞希が話し出した。


「そういや、どうなったんだ?」


「告白されたよ。斗真君との喧嘩もそれが原因でしょ、たぶん」


「正解だ」

 やっぱり鋭いな、瑞希は。


「真正面から向き合うから、徐々にでもいいので付き合いませんかって」

 ほう、それは漢だな。流石、俺の親友だ。


「それで返事は?」


「今回は、正直悩んでる。斗真君はどう思う?」


「いいんじゃないか。あいつは良い奴だと思うぞ」


「そっか。でも付き合い始めたらさ、皆と遊ぶ時間とかは減っちゃうよね」


「まぁ、それはそうだな。少ないにしても、多少は減るだろうな」

 やっぱりデートとかしたいだろうし。


「それで、斗真君はいいの?」

 その問いに俺はドキっとしてしまう。


「俺がどうこう言う話じゃないだろ。俺と瑞希は、たまたま知り合って友達、そして人生が嫌だとかで、共通項があっただけ」

 俺が何か言っていい立場じゃないとはずっと思っていた。


「私はさ、斗真君に助けてもらったこと、凄く感謝してるんだ。私はそれで人生を楽しめたし、斗真君にも楽しんでもらおうと頑張ったりしたし」


「それはありがとう。俺も、こんな事になるとは思っていなかったよ。美少女を無視したら青春が始まる、なんてな。夢みたいな話だ。でも瑞希を助けたのは、カラメルのサポートがあったわけだしさ。俺なんか……」


 俺なんか、俺なんか、俺なんか……ダメ人間と思っていた。


「斗真君は、そうネガティブに考えてるけど。優しいから、無駄に見捨てられないところとかさ、結局は行動するところもあるし、良いと思ってるよ。それにこの前は助けてくれたしさ。私は、色々感謝してるんだよ」


「そっか。でもそれで俺が止めていい理由にはならないだろ」


「斗真君と離れちゃうんだよ?」

 今日の瑞希は、どこか普段と違うわがままなお嬢様のようで。何かを待っているような気がして。


「……何が言いたいんだよ」


「斗真君の意地悪。本当は分かってるくせに」


「俺なんか釣り合わないし、一回無視した男だぞ?」


「それについては、わかってる。真緒さんと一緒で、色々理解したつもり。私も寄り添いたいし」

 今日の瑞希はやっぱり変だ。いつもと違って、子供のような感じで。


「じゃあ、少し考えていいか?」

 俺がとりあえず逃げようとすると、瑞希はそれを許さなかった。


「ここで答えを出してくれなきゃ、ヤダ。逃げたら、私は祐樹君の方に行くよ、って言ったら?」








 こんなわがままな感じの瑞希は初めてだ。俺は答えを迫られる。そうやって苦しんでいる表情を見てか瑞希は、


「……冗談だよ。それに斗真君は気になっている人、というか決めている人がいるんでしょう?」

 と、いつも通りの感じでそう言ってくれた。安堵、驚き、罪悪感など様々な感情が混ざる。


「……っ! いつから分かってたんだ?」


「今日までの流れ、っていう感じかな。体育祭から夏休みまでは、言ってみれば静かだった。けど、斗真君はちゃんと考えてた」


「ほんと瑞希には敵わねぇな」

 3ヶ月ぐらい悩みに悩んたりして、色々考えた。


「容姿、性格、関係性……色んな事を考えて選択しているのだと思う。まだ、最後の一人までは決めきれてないみたいな気もする」


「何から何かまでお見通しだな」

 なんで俺が“2人”で最後に迷っているの分かるんだよ。怖いよ。


「まぁ、迷うのは凄く分かるし、悪いことじゃないよ。だから、今の関係で最後に言っておくね。“頑張れ”って」


「本当にありがとう」

 瑞希にも救われてばっかだったな、と思う。


「これからの関係性は何かな? 振った女子、友達、相棒?」


 俺たちの関係を表すには、これが一番だと思っている。他にも色々表せるけど、やっぱりこれが一番だ。


「俺らにバッチリの言葉はあれだよ。“同志”だよ」


「確かにバッチリだ」



 全ては瑞希から始まったな、と懐かしく思う。

 こんなご都合主義みたいに上手く行ったことは幸運だったと思うし、瑞希にも、もちろん感謝している。

 これをたまたまだとか、運命だった、という言葉で終わらせてはいけないのだろう。それも分かっている。


 俺は人生に立ち向かうし、答えを出す。そして、自分をさらけ出して立ち向かいたい。親友や同志の力を借りながら……

 

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