第31話 本命

 瑞希との会話を終え、もうすぐ花火が始まるということで、花火を見る場所に向かうことに。


「あっ、こっちこっち」

 花火を見る場所まで行くと、カラメルが俺らを見つけて手を振っている。


「おっ、ありがとう」

 

 カラメル達がいい場所を取ってくれていた。どうやら俺たちが最後だったようで、俺が座ると右にカラメル、左に真緒が座った。


「「瑞希とは楽しかった?」」

 カラメルと真緒は、笑顔でこんな怖いことを言ってきた。


「ま、まぁ楽しかったよ」

 と俺が言うと、


「「ふーん」」

 怖い! やっぱジョシコワイ。


「ち、ちょっと飲み物買ってこようかなぁ」

 どうだ、必殺! 自然な逃亡!


「あっ、先輩。私も行きます!」

「じゃ、私も。いいっすか」

「私もー! アサ君いいよね?」


 わおぅ。ファンタスティック。



 



 カラメルと真緒には凄い目で見られながらも、なんとか逃亡出来た俺は、後輩たちを連れて飲み物を買いに行くことに。


「先輩。この中で一番良いのは誰っすか?」

 小鳥遊が急に問いかけてくる。


「うーん。後輩達は何かと怖い上に生意気だからなぁ」

 俺がそう言うと、


「えっ、アサ君。そんなこというんだ?」

「先輩? そんなことありませんよね?」

 その圧が怖いんだよ、ハルと来間さんや。


「まぁ、先輩には“本命”がいるっすからねぇ」

 ポツリと小鳥遊が一言呟く。


「……!?」

 その鋭い一言に俺は驚く。瑞希といい、なんなんだ君たちは……


「えっ、アサ君? そうなの!?」

「えぇぇぇぇえ、ほんとですか!?」

 ハルと来間も驚いている。


「私はすぐに分かりましたよ。先輩、顔と態度に出すぎっす」


「あっ、はい。小鳥遊さん、すみません」

 分かりやすいとは昔から言われてきたけど、そんなに俺は分かりやすいのか。


「それにしても先輩。2人で悩んでいるとは贅沢ですねぇ」

 小鳥遊はさらに嫌味を言ってくる。


「うるせぇよ。もう決めてるっつーの」


 俺は2人で悩んでいた。すでに分かっていると思うが、真緒とカラメルだ。

 真緒は、告白されてから意識しだした女の子。人間は単純なもので、好きだと言われたら気になって意識してしまうものだろう。それに真緒は、俺の全てを許容してくれていて……とてもうれしかった。


「ありゃ、マジっすか。いつの間に」


「確かに色んな人に告白されて、戸惑ったし色々考えた。けどな、答えは結構早く決まってたぞ」


「その理由、とか聞いてもいいっすか?」


「そだなぁ」

 

 小鳥遊に言われて、俺は色々なことを思い出す。

 色んな子に告白されて、うれしかった。しかも俺にはもったいない子ばかりだ。

 瑞希と知り合えて、本当に良かった。そこから俺の青春が始まったようなものだし、それをきっかけに少し成長できた気もする。しかも学校のアイドル級の美少女だしな。


 一人一人、付き合ったらどうなるのかとか、こんな楽しいことをするんだろうなぁとか考えたりもした。贅沢な悩み、ってやつだ。

 ただ、それは考えるだけだった。全然悩まなかった、と言えば嘘になるかもしれないが、俺の答えは即決だった。



 ただ、怖さもあった。本当に俺でいいのか、という気持ちはもちろんの事だが、俺も向き合わなければならない。

 俺は、弱さを隠してここまで生きてきた。ダメな所から逃げてきた。それにぶつからないとダメだ、と思った。


 けど、なかなかそれは難しかった。完璧な人間がいない理由がよくわかる。俺の弱さをぶつけて、果たして彼女は了承の返事をしてるのだろうか、と不安な気持ちでいっぱいだ。



「初恋、かな」

 と俺は、小鳥遊に答える。いくら自分の不安な気持ちやダメな所を考えても諦めきれない気持ち。それが、恋なんだなって。


「先輩は“そっち”を選んだんすね……」


「小鳥遊、俺の答えは、決まっていたよ。迷ったのは、皆の気持ちにちゃんと向き合えるかどうかという気持ち。自分のネガティブな気持ち。そして俺自身、色々考える事があったってことだ。言われてさ、俺は気づいてなかったけど、ずっと好きだったんだなって思ったよ」


「先輩は考えすぎなんすよ。思ったままに行動しとけば、もっと良い男になれますよ」

 考えすぎるのはネガティブ志向から来てるのかもな。これも悪いところだ。


「ほんと、小鳥遊の言う通りだな。でも色んな子から告白されて……明確な恋の気持ちを自覚できたよ」

 俺は、あいつが好きなんだなって。そう思った。


「なるほど。先輩が真剣に考える中で、明確に分かったんですね」


「あぁ、そうだな。今まで俺は、誰かと付き合えないと思ってたし、そういうのを考えないようにしていた、でも真剣に考える状況があった中で、明確にさ……一人の女の子が浮かんだんだ」


 俺は諦めていた。こんなダメ男と付き合ってくれる人はいないだろう、俺なんか一生独り身だろう……そう思っていた。

 しかし、高校2年生になって、色んな女の子に告白された。それで、色々な事があって、真剣に考える事にして……初めて明確に“恋”というのを自覚した。あの時は急に恥ずかしくなったな。恋って、本当不思議だ。


「鈍感ですねぇ。私とか色々話も聞く中で、そうなのかな? とは思ってましたけど。確信は持てませんでした」


「まぁ、真緒の気持ちは嬉しかったよ。でも、俺の“本命”は決まっていたんだ」

 

 確かに真緒のすべて許容してくれる、という気持ちも嬉しかった。

 でも俺は、最初から――



 カラメルが好きだった、と分かった。


「なら、もう告白するんですか?」


「いや、これは俺のエゴになるんだが……文化祭にしようとしている」


「その理由は?」


「生徒会だからおのずと色々融通が利きそうだし、ぶつかるならここかなって」


 生徒会、も上手く使えるかもしれないし、どうせなら大きなイベントで告白したい。

 これは単にカッコがつけたいだけではない。俺は今まで逃げてきたばかりだし、受け身だった。だから今度は俺が、真正面からぶつかりたい。


「なるほど。やっぱ、いいっすね。先輩は」

 小鳥遊のその言葉には、色んな意味が含まれているんだろうな、と感じた。


 


 そうやって、小鳥遊と長く話していると、ポカンとしているハルと来間に気づく。


「あっ、ごめん。とりあえずこの件は文化祭の時に改めて話すよ」

 文化祭で、最後しっかりと伝えたいなと思う。


「先輩、気遣いは無用っすからね。頑張ってください。協力出来る事は協力するんで」


「あぁ、助かる。本当にありがとう」

 瑞希にしても、小鳥遊にしても本当にありがたい。




 本当に俺は恵まれてるな、と思いつつ、改めて頑張ろうと思った。 


 

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