第29話 恋

「いやなんで半袖のTシャツやねん!」

 

 夏祭り当日の昼。俺と祐樹は久しぶりに会って、話をすることになったのだが……祐樹にツッコミを食らった。


「いやなんでそっちこそ浴衣やねん! 着るにしても一回帰ったりで良いやん!」


「それは面倒だろ。斗真こそ、何で浴衣じゃないんだよ」


「浴衣は嫌いなんだよ。動きにくいし、着るのも面倒やし」


 夏祭りが開催される場所の近くの飲食店で、ワーキャーと騒ぐ。思ったより対応が易しかったので、ほっとした。


「ところで話なんだけど」


 俺がそう話を急に切り出すと、


「ごめん!」


 祐樹が素直に謝ったので、俺は驚いてしまう。祐樹も申し訳ないと思っていたのだろうか。


「い、いやこっちこそごめん」


「いや斗真は謝らないでくれ。俺がすべて悪い」


 ここまでの対応をされると、もう逆に気持ち悪い。


「ま、まさかそんな素直に謝ってくるとは……どうしたんだ?」

 と、俺はつい聞き返す。


「いや、よく考えたらめっちゃダサいなって……瑞希も斗真の友達だし」


「そっか。でも俺も悪いよ。何か言えばよかったな」


「いや、そんなことない。ていうか、そもそも斗真に協力を依頼したのはライバルを潰すためだったし」


「?」

 祐樹の言葉の意味がよくわからない。


「斗真と瑞希がいつのまにか仲良くなってさ、恋人とか親友っていう距離感ではないんだけどな。なんていうか分からないけど、特別な感じがしたんだ」


「なるほどな」

 

 急に気になっている人と親友が仲良くし始めたら確かに焦るだろう。それで俺に恋愛感情がないことを確認しつつ、引きはがそうとしたのか。


「でも最低だ。瑞希にも最悪なことをしたし」


「そんなことはないだろ。男女の関係ってそんなもんだよ。それに瑞希に詳しく言ってないし」


 男女の友情とかは存在するとは思うが、基本的に異性に近づく理由は恋愛感情が多いと思っている。気になる、もっと知りたい、自分のものにしたい。感情は人それぞれだけど、誰にも下心は少しばかりある。

 けど俺は、悪いことだとは思わない。人間ってそういうものだから。


「や、優しいな」


「恋は歪で、面倒くさくて理不尽だからな。これぐらいはいいだろ」


 ナツの事を思い出す。ナツは、恋愛感情が溜まって爆発してしまったタイプだろう。確かにナツは悪いことをしたけど、気持ちはよくわかる。


 ここで少し俺の考えを話そう。汚い話になるが、性欲は三大欲求と呼ばれるぐらい、人間には欠かせない欲と言えるだろう。誰しもが一回は考えたり、したり、犯罪をしてしまう人だっている。


 恋愛だってそれにつながっている。少女漫画のような綺麗なものではない。ライバルを蹴落としたり、相手を略奪したり……結局は“性”的なことをしたり。

 人間は知恵を持ちすぎた姑息な生き物だ。我慢したり、よく見られようとしたり、隠したりする。俺だってそうだ。


 だから恋愛ってすごく難しくて歪なものだと思う。お互いが欲望のまま、自分をさらけ出して完璧にハマればいいのに、なんか考えてしまう。

 ただ、この世界は理想通り行かない。だから色んな問題が起きてしまう。常識や自分の容量を超えると、爆発してしまうのだろう。


 まぁ、何が言いたいかというとだな。人間は汚くてわがままな生き物だから、少々の悪いことや不純な気持ちは仕方ないと思うんだ。


「そっか」

 祐樹は案したような表情だった。


「まぁこれは俺の気持ちというか願望でもあるんだけどな。所詮人間だからさ、それぐらいはいいじゃんって思うんだよ。まぁそれをストレートに全部ぶつけるのはまた違う話になってくると思うけど」


「でも、瑞希はそういうの嫌そうだったし」


「なら、素直に言ったらどうだ? 元々好きで近づいたけど、内面も好きですみたいな。正面から向き合えば納得してくれるよ、たぶん。寄り添う形でさ」


 真正面から向かえば、瑞希も分かってくれるはずだ。


「お前、いつの間にそんな立派な人間になったんだよ」


「そんなんじゃないよ。ただ、自分の考えってだけ。もう少し生きやすくさせてくれてもいいと思うんだ、神様さんよ」


 すると祐樹は、


「斗真、良い所ないとか色々言っていたけどさ、お前にもあるじゃん」

 と言った。


「え?」

 聞き間違いか? と思ってしまう言葉だった。


「そうやって色々深く考えられるの、凄く良いと思うぞ。俺はそんなの無理だし。だから、瑞希やカラメルの問題も解決できたんじゃないのか?」


「そう、かな」

 俺は心配症でビビりだ。ただ、それを元に打算的に行動するときもある。


「まっ、それがお前の悪い所でもあるけどな。悪いことなんか考えなくていいし、できないことはできないでいいんだよ。怒られても気にすることなんかないさ」


 祐樹は俺にそんな優しい言葉をくれる。俺がいつも欲しがる言葉だ。

 結局、自分を肯定してほしいんだろうな。


「なぁ」

 

 やっぱり……


「うん?」


「やっぱり俺ら、親友だな。これからもよろしくな、祐樹」


「おうよ」


 補完し合っている良い関係だな、と改めて思った。



 その後も色々話したりして、集合時間の30分前になったので、夏祭り会場に行くことに。そこでカラメル達と合流する予定だ。

 カラメル達は色々と電話を掛けたり、メッセージを送ってきたりしていたが無視した。えっ、驚かせたいからだろうって? いや単に気まずいからだ。ここまで無視してたわけだし。


 俺たち二人は、ゆっくり話しながら会場へ向かう。



「そういや斗真、お前の本命は誰なんだ?」

 ふと、祐樹は聞いてくる。


「いやーダレダロウナ」


 はぐらかそうとすると、


「その誤魔化しはきかねぇぜ? お前がさっき話していた理屈で何とでもいえるしな。一番かわいい、と思ってる子とかでもいいからさ」


 しまった……余計な事を色々話しすぎた。


 俺は、皆の告白を一回断った、というていになっている。まぁ、本当は俺が決められなかったんだけど……


 ここで改めて俺の周りの女の子を考える。皆、俺にはもったいないぐらい可愛くて良い女の子だ。戦国時代なら、皆を妻にしてて殿様になっていただろうな。

 まぁ、しょうもないことは置いといて。まぁ、選ぶなら容姿や性格になってくるんだけどなぁ。


「まだ決めかねているのか? 贅沢だな」

 考えている俺を見てか、祐樹がこんな事を言ってきた。


「そういう祐樹こそよく告白されてるだろ」


「俺はでも瑞希一筋というか。可愛い、って思う子がいても付き合いたい、とまでは行かないな」


「そっか」

 例えるなら俺は今バイキング状態。それぞれに良いものがありすぎて何を取るのを迷っている状況だ。あれ、俺ってこんな最強な状態だったのか?


「まぁ、ゆっくり考えればいいんじゃないか? 見えてくるところもあると思うし」


「そうだな。まぁ、特に良いなって思ってる子はいるよ」


「えっ誰? 候補は何人?」


「言うかバカ」

 誰が言うものか。


「俺も瑞希と付き合うために頑張るよ。もう協力はいらないぜ。それに“ライバル”になる可能性もあるし」


「ふん」


 そんな感じで2人で話しながら、会場に着くとカラメル達を見つけた。



「あっ! でも、お、えっ、うーん」

 カラメルも俺たちを見つけて呼ぼうとするが、色々あってよくわからない感情になっている様子だった。


「色々すまなかったな。もう大丈夫だ」

 と言うと、


「ほんと心配したんだから……2人とは関係も長いしさ! 何も言ってくれないからさ!」

 俺、祐樹、カラメルは特に関係が長い。それもあってより心配していてくれたのだろう。


「悪い。ところで斗真、やっぱり浴衣姿ってかわいいよな」

 祐樹が、俺に言う。


「ああ、そうだな。たまらない」

 普段なら言わないけど……全くこれだから祐樹は。


「ふえええっ!?」

 カラメル含め、女子達は固まってしまった。

 ちなみに他のメンバーは、カラメル、瑞希、真緒、そして後輩の来間、木葉、ハルだ。皆、浴衣姿で可愛らしい。先輩たちは受験生ということで断ったとのこと。俺とは違って立派だな。

 ハルも、体育祭以降は俺たちのグループに入り、仲良くしている。たまに積極的でビビるけど……


「先輩、これどういうことっすか?」

 小鳥遊が沈黙を破る。


「斗真、たまには色々ぶちまけたいよな」


「全くだ」


「「「「「「?」」」」」」

 女子一同は何のことか分かってないだろう。



 ただ俺ら2人は笑い合った。馬鹿みたいに。


「「浴衣姿って、やっぱ良いよなって話だよ」」

 と言うと、


「でもアサ君は浴衣じゃないんだね」

 とハルが言った。


 あっ、そういえばそうだったね。



「悪いけど俺は見る専なんだ」


 夏祭りはやっぱ最高だな、本当に、



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