第28話 成長

 俺と祐樹が喧嘩してからの状態は最悪だった。

 恋愛事情なのでそう簡単に言えるはずもないし、グループはもう崩壊気味。今度はそう簡単に解決できる問題ではない……



 喧嘩してから、俺はカラメルと瑞希に“喧嘩した”という事実だけを言って家に帰った。2人が黙っているわけもないが、こうするしかなかった。

 その後、家に来たりされてもウザったいので、毎日、図書館などで時間をつぶした。メッセージも既読スルーだ。俺は本当に情けねぇな……





 そんな日々を過ごしていると、いつもまにか夏祭りが開催される前日になっていた。俺はいつも通りに図書館に行こうとしたが、夏祭りの未練を感じ、準備しているところを見に行くことにした。



「本当は楽しくなるはずだったんだけどな」

 明日は最高の1日になると思ったのにな、と悲しくなったので帰ろうとすると


「アサ君……」

 そこには俺の知っている女の子がいた。



「ナツ、か」

 それは、かつての旧友の1人だった――







「あの後はどうしたんだ?」


 ナツとは体育祭で揉めてしまった件があって、少し気まずい。ただ、ハルから少し話は聞いていた。詳しいことは分かっていないが、一からやり直して頑張っている、ということらしい。


「事情を説明して、通信の学校に編入してから頑張ってるよ。とても怒られたけど、しっかり話し合って、納得してくれた。ちゃんと色々な人のところに謝りにも行った。これで許されるわけはないけど、ちょっとでも許されるように頑張りたい。」


「そっか」


「アサ君含め、皆に迷惑をかけての反省の気持ちもあるし、新たに一から頑張りたい、っていう気持ち。自分を見つめなおして、変えて成長して大人にならなくちゃいけないって気持ち。色んな事を思い知らされたよ」


 ナツは前を向いていた。それは別人のようだった。

 確かにナツのしたことは悪い事で、許されるものでもない。けど、更生してるように見え、前を向いている姿が、羨ましく感じた。


「改めて本当にごめん」

 そう言って、ナツは謝る。


「まぁ、こうして反省してくれてるのはさ、良いことだと思うし、嬉しいよ。それで、今日はなぜここに?」

 

 俺が問いかけるとナツは、


「色々重く考えていた時にさ、夏祭り行きたいなって考えてたんだよ。それでちょっと思い出してね。準備風景だけでもって考えて」

 と言った。俺とほぼ似たような理由だった。


「アサ君は、皆と行くの? 今日はその下見とか?」

 今度は逆にナツが聞いてくる。


「そんなたいそうなものじゃないよ。喧嘩してさ、夏祭り行くのなくなったし」


「喧嘩?」

 そりゃあ、気になって聞いてくるよな……


「まぁ、友達との恋愛事情でな。ちょっと」


「そっか……」


 人はみんな違ってみんないい、という言葉がある。性格、特徴、特技、趣味……似ているところはあっても、全く同じ人は一人もいない。ただ俺は思う。


 みんな違うからこそ面倒くさいのだと。




「俺もナツと同じで失敗しちゃったな。でもナツは成長してるのに、俺は逃げてばっかりだ。これじゃ成長しないし、前のままだな……ははは」


 ナツは、そんなネガティブに考えていた俺の様子を見てか、


「一つ、失敗した人からのアドバイス」

 と言った。


「アドバイス?」


「恋愛は、歪で重いものだと私は思ってる。だからこそ真っ直ぐに、時にはラフに軽く対応することも重要だと思うよ。そして折れたりもしながら成長して、親睦を深めていくものだと思った。頑張って。アサ君は、まだ大きな失敗してないしさ。大丈夫だよ」


 そのナツのアドバイスは、的確だと思った。ナツは。失敗を通して、見つめなおして……成長したのだろう。

 そういえば、誰かが成長するためには失敗が必要と言っていた気がする。ただ、人間は怖くてなかなか踏み出せない。けど――



「ありがとう」


 旧友からのアドバイスは俺の心に深く刺さった。





 その日の夜。俺は祐樹に電話をかけた。


 今までもそうだった。失敗や問題に直面して、支えられたりもして解決してきた。俺も成長したい。自分を変えたい。

 きっと魔法のように別人には変われない。緊張もするし、不安もある。ただ、俺はこの状況を変えたい。だから、行動するんだ。



「……もしもし」

 出ないと思ったが、祐樹は電話に出てくれた。やっぱり優しいな。


「なぁ、明日話さないか」

 と、祐樹に提案する。


「どういうことだ?」


「今日、考えてさ。これで楽しい夏祭りの予定がなくなるのも嫌だし」


 やっぱり楽しさを求めてしまう。人生は嫌なことも多いし、最悪な事もある。だけどまだ変われる可能性があるのなら、頑張らないといけない。


「ならどうするんだ?」


「夏祭りは行くにしても夕方からだろ? ちょっと昼ぐらいに早く会って話さないか?」


「……分かった」

 そういって電話が切れた。


「よし」

これでよしっと。


 最後に俺らのグループに、


「明日、夏祭りは行きますので。前の予定通りに」

 とだけメッセージを打って、今日やる事は終わりだ。




  さぁ、祐樹。本音でぶつかろう。



 





 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る