第27話 再び君と

 夏休みに入ってから少し経ち、本格的に暑くなる8月に入った。もうすぐ夏祭りがあって楽しみだし、夏はスポーツの大会などもたくさんあって、世間的にも大盛り上がり、と言った感じだ。

 こんな日は、クーラーのきいた部屋でアイスを食べたり、ジュースを飲みながらゲームをするのが一番だ。宿題? それは夏祭りが終わってからだ。

 


 しかし今日はそういうわけにはいかない。瑞希と遊ぶからだ。

 瑞希と遊ぶ、といっても瑞希と話す、と言った方がいいかもしれない。なぜならどっちも異性と遊ぶことにまだ慣れてないからだ。何をしていいか分からず、適当に話すことが多くなる、と言った感じだ。





 昼過ぎに、俺と瑞希はゲームセンターに集合していた。やっぱり俺ら二人じゃこうなってしまう。

 ただ一つ変わっているのは、瑞希が私服ということだ。しかも普段の感じとは合わないパーカーを着たボーイッシュな服装だ。いやもちろんこれも似合ってるんだが。


「いや、なんか意外だな」

 

 俺がそういうと、


「カラメルさんがこういうのも似合うって言ってくれたから……変?」


「滅相もございません」

 あとでカラメルさんには金一封が送られます。



「やっぱりここ、なんだよね」

 

「なんやかんやで、結局ゲーセンなのが俺たちだからな」

 最初の拠点、みたいなもんだし。




 ゲームセンターに入ると瑞希がさっそく、


「あっ、これやりたい」

 と対戦型ホッケーゲームをやろう、と持ち掛けてくる。


「瑞希、センスいいからなぁ。ハンデくれよ」

 瑞希は何をやっても平均よりできる。いわば、センスの塊だ。


「じゃあとりあえず3点ハンデで。負けた方は罰ゲームね?」

 

「いいだろう」


 俺も男だ。こんなところで可愛い女の子には負けられない。それに俺にはハンデもあるしな。はっはっは。




「罰ゲーム、何にしようかな……」

 瑞希が楽しそうに考えている。はい、俺が負けるの知ってました。茶番ごめんなさい。


「じゃあ、最近の恋愛事情! 気になるから」

 瑞希が、決めた! と意気揚々に言ってくる。


「最近なぁ。話すことないんだよなぁ」

 

 あの体育祭以降、生徒会も続けたわけだし、遊ぶ機会もあった。ただ話すことは全然ない。あれは夢だったのか? 俺の幻想が生み出した何かではなかったのか? などと今でも思ってしまう。


「へぇ、そうなんだ。こっちは色々聞いているけどね?」

 女の子トークこわっ。




 その後も、クレーンゲームをしたり、また恥ずかしながらプリクラを撮ったりした。やはり俺らは変わらない。でもそれでいいのだ。

 着飾ってなくてもいい。これでも楽しいのだから。友達とか恋人とか……そんな関係性では収まらなくて。人生を嫌った仲間であって、同志であって。少し歪かもしれないが、俺らは支え合っている。



「少しお腹すかない? なんか食べに行こうよ」

 夕方に差し掛かった頃ぐらいに、瑞希は提案してきた。


「確かにそうだな。なんかデザートというか少し食べにいくか」



 そうして街中の商店街を歩く。なんか美味しそうなものがあったらいいんだけどな。

 ただ俺は、違和感というかデジャブというか未来予知というか……少し何か不安に感じていた。



 この前、瑞希とバッタリ会って遊ぶことになった。そして今日の遊ぶ流れもほぼ同じ。商店街とかを歩く流れも前と同じ感じだ。

 ただ、不安要素といってもなかなか思いつかない。瑞希の母とは和解したし、俺も瑞希も恋人がいないから一緒に遊んで行っても何も問題はない。




「うわっ、このクレープ凄い……!」

「これが俗にいう映える、と言ったやつか」


 その後、俺と瑞希は人気のクレープを食べた。うん、美味しい。俺の考えも、杞憂に終わりそうだ。こんなに楽しくて悪いことが起きるわけはない。



 すると、

「ねぇ、祐樹。せっかくだからこれ食べていこうよ」

「カラメルはわがままだな……」

 という声が聞こえる。あれ、こいつら知ってるぞ。



「あっ、瑞希と斗真じゃん。何してたの?」

 カラメルがそう聞いてきたので、


「普通に遊んでただけだよ」

 と返す。


「そっか。まぁ、斗真はフリーだし、女の子いっぱいキープしてるだけからいいけど?」

 と嫌味を言われてしまった。ま、まぁセーフだし。



「ふーん」

 祐樹は何か言いたそうな表情だった。


「ねっ、せっかくだから4人で行動しない? 私たちも用事があってきてたんだけど終わったし」

 と、カラメルが提案する。俺もそれに賛成しようとすると、祐樹に遮られた。


「悪い。ちょっと男同士で話していいか?」

 という祐樹。


「「まぁ、いいけど……」」

 カラメルと瑞希は納得はしたものの、何かまだ言いたそうだった。







「斗真、どういうことだよ」

 2人きりになった瞬間、祐樹は俺に向かってこう言った。


「瑞希とのことか? なら別にいいだろ。瑞希とは友達だし、こっちの事情があるだろ」


「俺に協力するって言ったじゃねぇか」

 祐樹は腹が立っている様子だった。


「できる限りは協力してるつもりだが」

 俺は祐樹にずっと協力している。


「なら2人でもう遊ばないでくれ」


 そこで俺は一つの考えに辿り着く。


「祐樹、もしかして焦ってるんじゃないのか? 自分が距離を詰められないことに」


 祐樹と瑞希は、キャラが違うと感じていた。俺とある意味で似た要素を持つ瑞希とは合わないだろうとは思っていた。俺と真逆なのが祐樹だから。


「斗真、最近上手く行ってるからって調子乗るなよ」


 そして喧嘩になる、と思われた瞬間にある女の子の声が刺さる。


「祐樹君、君もやっぱりそうなんだね。それは嫌、かな」

 それはこっそり後をつけていた瑞希からの重い言葉だった。


「えっ!」

 祐樹は驚いた表情を見せると共に、すぐにどこかへ走っていった。




 こうして俺たちと祐樹の間にひびが入った。

 夏祭りまではもうすぐだ――

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