第23話 体育祭⑤ ~旧友と後輩~
「ナツ、お前は何が目的だ?」
俺は、旧友のナツと対峙する。
「私はアサ君を自分のものにしたい」
「それは……なんでだ?」
ナツとは幼稚園以降、絡んでないし……全然覚えてもない。
「アサ君は、幼稚園の皆と違う小学校に行ったよね。でも私は、それでもずっと追ってたんだよ? 色んな人を経由して、さ」
いやサラッと怖いこと言うなよ。
「そもそも俺は、お前のニックネームしか覚えてねぇよ」
「えぇ、ひどいなぁ。
和田、と言われればそうだったような気もする。
「知らねぇよ」
「えぇ、ひどいなぁ。私ならアサ君の全てを受け入れるし、めちゃめちゃ愛するよ?」
「お前は、確かに理想の女の子かもしれない。けどな、一番ダメな事をやったんだよ」
旧友と再会して、こんな理想な子が彼女になってくれるなら最高だ。ただ、君は一番してはいけないことをした。
「何?」
「俺の大事な後輩を、いじめてんじゃねぇ」
俺は、人を傷つける奴が許せない。
「だって邪魔だったもん」
もう少し、もう少しだ……
「バカか。それで俺が振り向くと思ったか」
俺は、本質を突かないように時間を稼ぐ。
「私もそう思う」
「ハルもうるさい。なら、他の人をめちゃくちゃにするけど。それでもいいの?」
「思い出せよ、昔を……」
そう言って、時間を伸ばし続ける。俺が待っていた後輩は、良いタイミングで来てくれた。
「待たせたっす」
「流石、小鳥遊」
やっぱりお前は、頼りになるな。
「先輩のピンチを救うのが私の役目っすからね」
するとここで、ナツが急変して
「どいつもこいつも!」
と叫んで、ナイフを取り出した。
「ナ、ナイフ!?」
「これはやばいっすね……」
ハルや小鳥遊も流石に動揺する。
「いいの、アサ君?」
ここで俺は賭けに出る。
「なら、俺を刺せよ」
「え?」
ナツは予想してない返答だったのか、気が抜けたような返事をする。
「こんなクソゲーの人生を旧友が終わらせてくれるなんて嬉しいわ。ほら、刺せよ」
「先輩、何言ってるんですか!?」
「アサ君、落ち着いて!」
大丈夫。きっと俺の読みはあってるはずだ。
「良かったな、最愛の人を自分の手で終わらすことができて。まぁ、これでお前ともおさらばだ」
「アサ君……」
俺はどんどん煽り続ける。
「幼稚園の時、あまり覚えてないけど楽しかったよ。それから知らないところでも見ててくれてありがとうな。ほら、早く」
その俺の一言がナツを動かした。
「あ、あれ私……何やって。えっ、私アサ君にひどいこと」
ナツはそう言って、ナイフを落とした。
「小鳥遊、押さえてくれ」
「う、うっす」
そう言って、ナツが何もできないようにする。
「アサ君、まさか」
「その通りだよ、ハル。見る限り俺だけは刺さないだろう、って思ったからな。賭けに出た」
ナツは俺を重く愛しつつも、俺の事を大切に思っていた。
だから、きっと俺がどうにかするにかないと思った
「私、何もかも間違ってたんだ……本当に、ごめん」
「小鳥遊、どうしたい?」
謝るナツを見つつ、小鳥遊に問いかける。
「親友の分、私の分、先輩の分で一発ずつ殴りたいっすけど……まぁいいです。そういうのは先輩も嫌いだろうし」
小鳥遊は俺の気持ちを汲み取ってくれる。
「ナツ。お前とはもっと良い形で再会したかったよ。でもな、この現状を知ってるのは俺らだけだ。だから、重い罪にならないように逃がしてやる」
「アサ君、それって」
「流石にこの学校にはもういられないだろ? けど自主退学なら、まだ次の段階にも行きやすいしさ」
「アサ君はやっぱり、優しいんだね」
「また、自分で見直して、自分なりに罪を償って。そうなった時、また再会しようぜ」
「う、うんっ」
ハルにナツを任せ、俺と小鳥遊は体育祭に戻る事にした。話しながらゆっくりと戻る。
「ありゃ、もう午後の競技始まってますよ。ていうか2年のリレー終わっちゃいましたね」
「うわ、最悪だ。祐樹やカラメル達は、勝ったのかな?」
事情が事情だから、許してもらえるとは思うが……対価を準備しないといけないかな。
「どうなんすかね……それにしても、先輩の旧友、とはこれまたびっくりしたっすね」
「あぁ。それにどっちも俺のことを思ってくれたなんてな。あっ、来間は大丈夫かな……あいつの様子見に行かないと」
来間は果たして大丈夫だろうか。
「本当、先輩は罪の男っすよ。他の女の話して」
「お前はそういうキャラじゃないだろ」
「まぁ、そっすけど。とりあえず、お礼ぐらいは欲しいっすよねぇ」
またそれか。まぁいいけど。
「まぁ、助けてもらったしな。何が望みだ?」
すると小鳥遊は予想外の答えを言った。
「じゃあ、私も選択肢に入れてください」
「は?」
体育祭の終わりも、もうすぐだ――
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