第22話 体育祭④ ~旧友~

「……何だこれ」

 校舎の方に行くと、そこにはボロボロになって泣いていた来間がいた。

 校舎の裏はただでさえ人目がつかないうえに、今日は体育祭当日だ。なおさら人は通らない。そこを狙った、ということだろうか。


「あーあ。やりすぎだよ、これ」

 そう言ったのは、ツインテールで俺が幼稚園の時に仲が良かった一人の女の子。


「ハル……何か知ってるのか?」


「後輩君、その子は?」

 宮本先輩が気になるのも無理はない。


「改めて、自己紹介しようかな。私は、吉澤春香よしざわはるか。1年です」

 そう言って自己紹介するハル。


「俺が幼稚園の時に仲が良かった子、です。でもあまり覚えてないですけど」

 幼稚園の時なので、あまり記憶がない。


「せ、先輩!」


「来間、大丈夫か! 何があった?」


「え、えっと……」


 そういって来間は、ゆっくりと話し出してくれる……


「前に私をい、いじめた女の子3人ともっと強そうな女の子が1人いて……体育祭をめちゃくちゃにしてもいいんだぞって言われて。大人に言うと、めちゃくちゃにできるぞ、とも言われました。でも先輩には言っていいって……」


「あぁ、こりゃ完全にアサ君を狙ってるね。なっちゃんは」

 ハルが一言呟く。


「なぁ、ハル。詳しい事情を教えてくれないか?」


 ハルは、


「時間がないからとりあえず今は簡潔に話すね。私となっちゃんは、幼稚園の時にアサ君と仲が良かったんだよね。で、まぁいろいろあって2人ともアサ君の事が大好きなんだよね」

 と俺に説明する。


「えっ、なんだそれ」

 いやなんでこんな事になってるの!?


「まぁ、詳しくはまた説明するね。簡単に言うと、2人はアプローチする機会を伺っててさ。それでなっちゃんは今回動いた、っていうことなんだよね。なっちゃん……ナツはそれで悪い方を選んだ。私も事情を知らなかったり、甘く見てるところがあって……来間さんには本当申し訳ない」


「えっ、いや私も何がなんだか……」

 来間もまだ事情が分かっていないようだった。


「えーとまとめると、2人は俺の事が好きで。それでナツが悪いことをしてまでも、俺を恋人にしよう、みたいなことか?」


「うん。そういった感じ」


 そんな嘘みたいな事が本当にあるのか? 夢を見ているようだ。


「あっ、そういえば言っていました。殴られた時に、私たちのリーダーがグラウンドにある運動部の部室裏で待つ、と」

 

 来間がそう言うと、


「まとめると、後輩君の事が好きだからその、なっちゃん? がめちゃくちゃしてるってことね。それで先生とかには邪魔させないようにしてる、ってことね」

 と宮本先輩がまとめる。





 体育祭は、今部活のパフォーマンス中で、もうすぐ午後の競技が始まる。さて一体どうしようか……


「とりあえず、この事はとりあえず先生たちには言わないでおこう。後輩君の仕事は、私たちでカバーするから任せて。成海ちゃんもゆっくり休んでていいからね。2人とも何か言われたら誤魔化しておくから」


「宮本先輩、ありがとうございます。来間のこと頼みます」

 先輩には本当感謝しかない。


「とりあえず部室裏に行こうか。でも、アサ君と私だけじゃ厳しいかも」

 ハルが言うように、非力な俺とハルだけでは厳しいかもしれない。

 ただ祐樹は競技のこともあるし……





「で、午前で仕事を終えた私を呼んだんすね」


「小鳥遊さん、頼りになるっす」

 前の事もあったし、やっぱり頼りになる、ということで小鳥遊を招集。

 

「それで、このツインテ女は誰っすか?」


 俺は、小鳥遊にかいつまんで説明する。


「まぁ、事情は分かりました。なんかあっち側のヤンキーも、一人増えてるみたいすけど、またボコボコにしていいっすよね」


「ちゃんと正当防衛の範囲でな」

 お前、最強だからやりすぎないようにな。



 こうして俺ら3人は、部室裏に向かった。


「やっほ、アサ君。来てくれてありがとう。でも、お邪魔虫がいるね」

 そこにナツはいた。


「愛が重いっすね。カラメル先輩とかを見習ってほしいっす」

 全く、後輩の言う通りだ。


 すると、近くから


「私はてめぇをぼこす……」

「こいつか。弱そうだな」

 と、前の女子3人と強そうな女子1人のヤンキー集団が出てきた。



「ちょっとボコられたからって、本当のヤンキー連れてくるのダサいっすね」


「ちっ」


「先輩、余裕なんであとはそっちをどうにかしてください」


「助かる。やっぱり頼りになるわ」

 カラメルとは別の相棒感、というか頼りになる後輩というか……・

 本当にありがたい。





「久しぶりだね、アサ君。ハルは邪魔だなぁ」

 

「久しぶりだな、ナツ。まぁ、ほとんど覚えてないけど」

 遊んだ記憶などはあるが、そんなに明確には覚えていない。


「えぇ、ショックだなぁ。私は、ずっと見てたのに」

 ずっと? という言葉に引っ掛かる。


「まぁ、しっかり話そうか」


 そうして旧友と対峙する――


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