第12話 深くて浅い

 友達を一人失った。やはり人生は難しい。まぁ、でも友達なんか減っていいわけがない。

 なぁ、カラメル。お前はどう思ってるんだ?  

俺はやっぱり、お前が必要だ。



「おい、斗真。どういうことだ?」

「斗真君、何があったか知らない?」

「安佐川君、どういう状況?」


 などと、学校に登校すると質問攻めを食らった。

 カラメルが俺たちのグループを抜けたからだろう。学校にも今のところ来ていない。


「なんで俺が元凶だと思うんだよ。まぁ、正解だけど」


「カラメルは斗真とセットだからな。そうだろうと思ったよ」


「流石だな」

バレバレだったようだ。



「もしかしたら私が入ったせいで……?」


「それは関係ないよ。でも、どうしようか」

 

 真緒は責任を感じているようだけど、それは関係ない。

 結局は俺とカラメルの問題だ。


「斗真君はもちろん仲直りしたいんですよね?」


人生って本当にめんどくさい。上手くいかないことだらけで、大変だ。

ただ、どうしても理想を追い求めてしまって、夢を持って憧れて。

俺も、そうだ。自分が嫌で、人生を嫌っている。そんなくせに、夢や希望を追い求めてしまう。


「ああ、そうだな瑞希。ただ、案がない」

 どうしたものか、と考えていると、廊下から女子に声をかけられた。

 俺は廊下側の一番前の席という事もあり、こういうのが多い。




「あっ、ちょっといい? 唐沢さんっている?」


「いや、今日は来てないみたいですけど」


「なら、このプリント置いといてくれる? 来た時に生徒会のプリントだからって良ければ伝えといて!」


「あ、わかりました」


 



「そっか、カラメルって生徒会だもんな。正式なのとは違って、部活の奴だから手伝いみたいなもんだけど」

 祐樹が思い出したように言う。

 

 あれ、そっか。生徒会だもんな。




「なるほど……この手があったか」


「斗真君、まさか」

 瑞希も気づいたようだ。


「これしかないだろ。生徒会を活用だよ」


「えっ、でもどうやって?」

 真緒が俺に聞いてくる。


「生徒会に入って、カラメルと接点を作る。それにどうせ、午後からあいつ来るだろうしな」


「なんで分かるの?」


「あいつ責任感強いからな。まぁ家庭の事情もあるだろうし、この体育祭の忙しい時期に休むとは思えない。少なくとも部活である生徒会には顔を出す」


 あいつはそういう性格なんだよ。

 あとはあんまり言わないけど、親の事もあると思う。これは推測だが。


「それは俺も思う。けど、流石に喧嘩した翌日に来るか?」


「祐樹、それはカラメルを舐めすぎだ。あいつは、強いよ」

 

カラメルは強い人間だと思う。それに加えて器用だ。

だからこそ、ダメな所もあるが。

 


「斗真君は、本当に優しいね。こういう時はすぐ動くの、斗真君らしい」


「いや、これは優しさじゃない。てかクソ面倒だから体育祭終わったら、生徒会は辞めるし」


 否定しつつ、


「これは言ってみれば課題だ。やらなきゃいけないものなんだよ。だから仕方なくな」

 と言う。



「屁理屈ばかり。だけど、そこが良いところだよ」

 俺にとっては当たり前のことだよ、瑞希。

 だからまだ褒めてくれなくていい。




「褒めてくれるのは、仲直りが上手くできた時までとっておいてくれ」









 朝のホームルームまで時間があったので、俺は生徒会室に向かった。



「失礼します。あの……あ、準備中ですかね」

 一応礼儀正しく、申し訳なさそうにドアを開ける。

 緊張しすぎて、飲食店に入る時みたいになってしまった。



「なんの用すか? 今も体育祭の準備してるんですけど」

 なんだこのアマは。ぶっ潰してやろうか。

 なお、俺にそんな度胸はない。


「ああ、さっきの子! なんかあった?」

 さっき俺に声をかけた女子が、こっちこっちと手招きしてくれる。


「何だこの人先輩すか。そりゃすんません。どうぞ~」

 いやお前後輩かい。



 改めて、


「えーと2年の安佐川です。実は、生徒会に入りたくて。今日から参加できませんかね?」


「安佐川君ね。私は、鳥山佳織とりやまかおり。生徒会長してます、どうも」


「あっ、会長さんでしたか……先輩だった、どうもすみません」

 確かに少し大人びているな、とは思ったけど、幼さも残る童顔のような感じだったから同級生かと思ってた。


「いや、先輩。会長知らないて」


「こら、邪魔しないで作業してなさい」


「はーい」


「彼女は、ちなみにあの子は、小鳥遊木葉たかなしこのはさん。1年生であんな感じだけど頭は良いのよ」

 いや、俺あいつに学力負けてるのか……


「ところで、生徒会に入りたいの? それはいいけど、今大変だよ? 体育祭のこともあるし」


「まぁ、俺は部活だけだし、まぁ出来る限りやるんで。あ、カラメ……唐沢さんと仲良いんで一緒のグループとかにしてくださると……色々事情があるので」


 と俺は鳥山先輩に事情を話した。


「まぁ、とりあえず分かった! じゃあ、とりあえず今日の放課後もこの教室で活動するから来てくれる?」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 これで、第一段階は終了。




 


 予想通り、カラメルは午後から登校してきた。ただ俺たちは何も干渉しない。

 俺が、祐樹、瑞希、真緒に伝えたのは、


「俺が生徒会に入ってカラメルとの接点をつくる。ただ俺が接点を作ってるある程度の間、カラメルには話しかけないでくれ。これは俺たち2人の問題だから、ってのもあるし2人で話したいってのもある。ただ困ったときのサポートは頼む」

 という事だ。


「おう、任せろ」

「斗真君を今度は私が助ける番だから」


 祐樹、瑞希が協力姿勢を見せてくれる中、



「ねぇ、ちょっと2人で、いい?」

 と真緒がこそっと話しかけてきた。


 真緒は、


「本当にごめん……私が強引に芽瑠ちゃんの居場所を奪ったから」

 ずっとこの事を気にしていた。


「そんなことはないよ。仮に奪った、としてもさ。それは真緒にも理由、があったわけで」

 

 未だにあの告白のことを話すのは、ちょっと恥ずかしい。

 真緒は、たぶん瑞希やカラメルのことを意識して、告白してきたと思う。

 けど、そこで思ったより関係性が壊れて、昔の事とリンクして……

 

「う、うん」


「俺が酷いことを言ったのもそうだし、カラメルの態度だって問題だし、複雑な事情もある。だから気にしなくていいよ」

 

でもこれは真緒のせいじゃない。

結局素直になれなかった俺らの問題だ。


「わかった! 堂々としてるよ、私は負けないってね」


「まぁ、真緒はその方がいいな」

 真緒はやっぱり堂々としている方が魅力的だ。



「あー君はあげないからね? ってね。仲直りしたら言ってやる」


 という朝の会話があって、カラメルに絡みに行ったり、問いただしたりなどは誰もしなかった。

 カラメルは少し気にしている様子だったな。




 


 掃除が終わり、帰りのホームルームが終わると俺は急いで生徒会室に向かった。先にカラメルを待ち構える方が良いと思ったからだ。先輩の協力も了承済みだし。





「お疲れ様です……ってえ!? なんで……」


 カラメルは、ドアを開けて俺を見ると、戸惑った。



「おっ、カラメルこっちこっち。どうだ、皆絡んでこなくて逆に驚いただろ?」


「斗真がなんで生徒会室に……?」


「まぁ、ちょっとな。たまには部活動もいいだろうって思っただけだよ」

 まぁ嘘だけど。



「どうせすぐやめるつもりのくせによくそんなことが言えるっすね」


「おい、小鳥遊。そこ黙ってなさい」

 この後輩は本当生意気だな。


「なんでなんでなんで! 斗真はそう私に!」


「そりゃ友達だからだろ。こっちは仲直りしたくてこんな面倒でクソな部活入ったんだぞ」


「安佐川君?」

 鳥山先輩の冷えた怖い視線が突き刺さる。


「おっと」

 いや怖い! 会長怖いです!



「えーと安佐川君はそうだなぁ。今は4人か5人グループで動いてるんだけど、まずはとりあえず……」





「カラメルちゃんと職員室に資料の提出いってきて?」


 


 ありがとう先輩。ここからは、俺がどうにかする番だ。



 



こうして生徒会室を出る俺ら。ドアを閉める時に、鳥山先輩もエールを送ってくれているのが確認できた。



「斗真……」


「せっかく話す時間作ってくれたし、話すか?」


「うん」


「カラメル、何かあったか?」


「……何かって?」


「せっかくだから話そうぜ、本音で。お前も言って、結構内緒にする方だろ? 俺思ったんだよ」


「思った、って?」


「俺とカラメルって仲良くて仲良くないっていうかさ。なんていうか外面だけというかさ。もっと仲良くなる時が来たと思うんだ」



「そっか。じゃあ聞いてくれる?」

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