第13話 先へ

「じゃあ、聞いてくれる?」

 

そういって、カラメルは少しずつ話し出していく――



「私さ、両親が複雑な事情って話してたじゃん? あまり詳しくは言ってなかったけどさ」


「あぁ、そうだな」

 カラメルの両親は一回離婚している。俺も少しだけだが、その話は聞いていた。


「それでさ、お母さんが新しい男の人とさ、仲良いんだ。私はそれが嫌で」


「やっぱり昔のように戻りたいのか?」


「うん。でも私の事なんか気にしてなくて……私に居場所なんてなくて」

 

 進んでいく時間と戻れない過去。

 なんだか一人だけ置いて行かれるみたいで苦しんでいるんだろう。


「お前は本当に良い子すぎるんだよ」

 

 カラメルはよく“空気”を読む。

 それは長所でも短所でもあって。



「そう、かもね。そして、大切な人の隣も奪われちゃった」


「やっぱりお前、瑞希や真緒の事も気にしてたのか」


「別に、瑞希や真緒が嫌じゃないよ? もちろん真緒や瑞希と仲良くなりたいと思ってる。けどさ、油断してたっていうか……私、斗真の事全然分かってなかったんだなって」


「分かってなかった?」


「うん。斗真の内面なんて考えてなかった」


「それは誤解だ」


 カラメルは俺のことを理解していないとか思ってるだろうけど……それは違う。


「誤解?」


「瑞希のは成り行きだったし、真緒には見抜かれていただけ。俺はただお前に話せなかっただけなんだ。カラメルが、もし離れていったら、俺は耐えられなかったから」


 俺はただ、カラメルに話せなかっただけなんだ。

 話すと幻滅されるのが怖くて……


「私、離れないよ。聞かせて?」

 

 カラメルは優しい笑顔で、俺の言葉を待ってくれる。


「俺は何もできないダメ人間だ、と思ってる。普段はよく見せたりもしてたが、そんなのはただの見栄っ張りってだけだ」


 カラメルは、ただ静かに聞いている。


「カラメルは明るい人間だと思ってた。そんな中、本当は暗い自分が関わっていいかと悩んだ時もあった。それに精神は弱くて色々上手く行かないし」




「斗真はさ、気にしすぎだと思う。まぁ、私もだけどね」

 カラメルは、俺の言葉を聞いて一言呟いた。


「そうか?」


「めっちゃ緊張しても何とかなった、っていう瞬間もあるじゃん? それに色々考えれるのは逆に偉いと思うしさ」


「カラメル……」

 

 そうやって、君はまた俺を助けてくれるし、肯定してくれる。

 俺なんか立派な人じゃないのに。



「今となっては斗真は欠かせない親友の一人だし。斗真がゾンビになっても、どれだけ落ち込んで鬱になっても、女の子になっても助けに行くよ?」


「流石だな。カラメルらしい」



「斗真さ、親友や恋人で喧嘩したり、嫌な所を見て別れるのどう思う?」


 カラメルは俺に問いかけてくる。


「え、それはどっちかに問題があるんじゃないのか?」


 よく冷めた、という言い方をする。

 自分のものになった瞬間、どうでも良いことや隠れていた部分を見てしまって嫌になる、っていう現象だ。


「私は違うと思う。結局、それで別れたのなら大した仲じゃなかったんだよ」


「……なるほどな」


 それは一理ある、と思った。きっと、親密な仲っていうのはしょうもないことでは壊れない。支え合って、時には折れて、協力して生きていくんだ。




「だがら……私はもう離れないから。 また、友達になってくれますか?」


 カラメルは泣き顔の中に美しい笑顔を見せて、こう言った。

 





「泣き止んだか」

 何分経ったかはわからないが、あれからカラメルはずっと泣いていた。


「うるさい。そういう時だけそういう感じ見せるのずるい」


「へいへい。ま、お前の理論じゃ、俺たちはずっと仲良いんだろうな。仲直りしちゃったからな」


 俺らは喧嘩したけど、それを乗り越えた。

 きっとこれからもどんな障害も怖くない。こんなしょうもないことでは俺たちの関係は壊せない。


「仲直りっていうのかな? なんか勝手に喧嘩して、勝手に仲直りしちゃった」


「カラメルも、もっとわがままになる時だな。ちゃんと、自分の気持ちぶつけてこい」


「分かってるよ。あ、じゃあ練習していい? 気持ちをぶつける練習!」


 そういってしゃがみこんでいたカラメルは、スッと立ち上がった。



「いいぞ」


「あっ、でも恥ずかしいから目つぶって!」


「なんでだよ。まぁいいけど」

 気持ちをぶつける練習なのに、俺が目をつぶっていいのかよ。


「えー私から斗真に伝えたい事が2つあります。まずは一つ目! 斗真、今週末やっぱり遊ぼ!」


「おう、もちろんだ」


「そして二つ目は……」






 そう言うと、近づいてきて、カラメルは俺の頬にキスをした。



「本当に、ありがと」








「唐沢さんに安佐川君? 流石に話しすぎだと思うんだけどね?」


「「すいません……」」


 生徒会室に戻ると、鳥山先輩に説教を食らった。空を見るとすっかり夕方の景色になっていた。いつの間に……


「もうそろそろ下校の時間だよ。まぁ、仲直りしたみたいだからよかったけど」


「鳥山先輩、ありがとうございました」

 鳥山先輩が、協力してくれなければ仲直りできなかった。


「それにしても本当に仲直りしたんすかね? それにしては距離感がおかしくないっすか?」


「大丈夫だから、黙ってろ小鳥遊。悪いことは言わないから、な?」

 こいつ変に鋭いな。俺の要危険人物リストに入れておこう。


「はーい」




 すると鳥山先輩が、

「安佐川君も上手く馴染めているみたいだね。じゃあ、安佐川君も来週からは、本格的に働いてもらうよ」

 と地獄のようなことを言う。いやだ、働きたくないよ!



「今、グループに分けて活動してるって説明したよね? やっぱり仲良い人がいる方が良いよね?」


「まぁ、そうですね」


「片付いてきた仕事もあるし、多少人数が過剰になってたグループもあるから……」

 

 鳥山先輩はそういうと、奥で作業していた2人を呼んだ。


「とりあえず、この5人で新しいグループね! まぁ仕事は準備とか、資料のまとめとか、当日の受付とか」


「なんで、自分も先輩と同じグループなんすか……」


「まぁまあ、木葉ちゃん。とりあえず斗真も入ったことだし、自己紹介しようよ」


 と、カラメルが提案したので軽く自己紹介をすることに。


「えー安佐川斗真です、どうも。2年です」


「改めて、唐沢芽瑠です! 何でも好きなように呼んでね! 愛称はカラメル!」


「小鳥遊木葉っす、どうもっす」


 そして鳥山先輩が呼んだ2人の自己紹介だ。

 

「私は、来間成海らいまなるみって言います! 1年です! 先輩方よろしくです~」

 来間さんは、青髪のミディアムヘアでまだ幼さが少し残る可愛い女の子といった印象だ。


「私は、宮本里菜みやもとりな。書記で3年だよ~」

 宮本先輩は、茶髪のお団子ヘアで、1歳しか変わらないのに凄い大人びた雰囲気を感じる女の子だ。



「成海ちゃんは木葉ちゃんと同じクラスの子で、里菜先輩は生徒会の代表メンバーなんだ」


 カラメルが俺に説明してくれる。


「カラメルちゃんの友達か。後輩君、よろしくね」


「せんぱい、よろしくお願いしますね? とりあえずレイン交換してグループ作りましょ!」


 と2人が改めて挨拶をしてくれる。


「来間さんに、宮本先輩ね。2人ともよろしく」


「斗真? すぐ可愛い子に手を出したらダメだよ?」


「うるせぇ。流石にそこまでキモくはねぇよ」

 そこまで変態じゃねぇよ、俺。



 カラメルと仲直りして、生徒会も順調で最高だ。

 ただ人生は、良いことと悪いことの繰り返しだ。良いことがあれば、次は悪いことが起きる。

 


どうか、もう悪いことや大変なことは起きないでくれ……

 








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