第52話

 会議場上層へ続く階段、爆発が海洋連兵士を吹き飛ばす。弾を装填しながら俺は綺麗になった階段を駆け上がる。

「この上が目的地だよな……」

 この会議場には緊急時の対応のため、作戦指令を行う情報を集中させる管制室が用意されている。俺はそこへ向かって単独行動を開始していた、現場での茶番劇の後あっという間に映画数本作れそうなパニックになってしまいまともな情報は一切ない。そうなるとせめてもの情報がありそうな場所を当たるしかないのだ。

「おじゃましますよっと!」

 扉を開けて目的地に入る。するとキーボードを操作する赤い肌に黒いドレスの嫌でも忘れられない姿が目に入る。すかさず銃を構えて発砲、複数の弾丸が室内に飛び散っていく。

「挨拶も無しにぶっ放してくるなんて怖いわねぇ」

 弾丸が機材に当たり小さな爆発を起こしている。この弾丸の一発は狙いに向かって確実に直進するのだがサキュバスはあの一瞬で全弾回避してみせていた。

「そりゃあんな騒動起こした悪魔が目の前に居たらとりあえず倒そうとするでしょ?」

「あれはうちのデブが勝手に悪魔と契約して何かやろうとしてたのを阻止しただけよ? あの騒ぎだって海洋連の人達が急に暴れだしただけじゃない?」

「そうですかっ!」

 再び弾丸を放つ。しかしあれには当たらない、何か障壁のような物に邪魔されているような感じだ。

「ホント物騒、怖いじゃない~」

「怖いのはどっちだよ、大根役者!」

 口では何とでもいえる。でも間違いなく今回の騒動を起こした張本人はこいつだとゲーマーの感が言っている。さっき受け取った刀を抜き放ちながら悪魔目掛けて踏み込んだ。

「あらヤダ、大胆!」

 アザリアはひらりとそれも避けて見せた。そうとう余裕があるようだった。

「これでもダメか、まったく、厄介な悪魔なことで」

「アザリアよ、それに私はサキュバス、夢魔よ」

「大差ないよ、敵なのは一緒だし」

 刀をしまい、銃のシリンダーを引き出し弾丸をリロードしながらアザリアを睨みつける。

「私は自己紹介したわよ?」

「……バラット」

「知ってる、竜使いさんでしょ?」

 こいつ、俺の二つ名を知っている。それはつまりヨハネにもプレイヤーが居るということを確定させる。

「じゃあ聞くなよ、ここで何をしていた?」

「情報収集、あなたも一緒でしょ?」

「何が目的?」

「ヒミツ~」

 ゲームでもお約束だがサキュバス、悪魔と言うものはどうもはぐらかすのが好きなようだ。

「じゃああの結晶は何?」

「あれは~、そうね、始まりの白、かしらね?」

「始まりの白?」

 アザリアの周囲に黒い何かが現れた。俺はその場からすかさず飛び退くとさっきまで居た場所に黒い槍のようなものが無数に突き刺さる。

「あら、避けられちゃった。やっぱあなたすごいわね、興味あるわ」

「こっちは遠慮するよ」

「竜使いさん、あなたヨハネに来ない?」

「今殺そうとしたくせによく言うな」

「あなたはこっちの方が似合うと思うわよ?」

「何を根拠に言ってるんだか……」

「初めて名前を聞いた時ちょっと気になって調べたんだけど。プレイヤーの中でも数人しかいないネームド単機撃破のトッププレイヤー、その戦力は一機で世界の情勢を覆す程の化け物、そういう大魔王はこっちの方が向いてると思うわよ?」

「自分達は悪ですよって言ってるようなもんだろそれ、あとな、今の時代魔王様が世界を守ることも多いんだよ!」

 銃を構えるとひらりと踊るように部屋を歩き回るアザリア、ホントに悪魔というやつは捉えどころがない。

「知ってるわよ? 最近の作品の主人公って人殺しをとっても嫌がる傾向でしょ、でもあなた、人を殺すことに躊躇ないでしょ?」

「メリハリがあるって言ってくれない? 別に人殺しが好きなわけじゃないんだけど?」

 確かに俺は人を躊躇いなく撃つ。ゲーム感覚でとか言われるかもしれないが、やらなきゃやられる。何より大切な人たちを守ることすらできない。結局は自分の為にしか動けない、人間は残酷な生物なのだ。

「そこは情熱的に返してこなきゃ~」

「あんたアニメの見すぎだよ!」

 銃のトリガーを引く、しかし攻撃は届かない。破壊力の高い炸裂の方は機材を壊したくないし下手に使えない、正直めんどくさいっ!

「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけよ~」

「それに加えて戦っていいのは殺す覚悟がある奴だけだ! 今は少なくともゲームの、遊びのつもりはないんだよ!」

 抜刀し、そのまま刀を投げつける。刀は防げないのかアザリアは身を反らして避けて見せる、そこを狙った! 刀の柄に仕込まれたワイヤーを引き通り過ぎた刀の軌道を変えながら再び引き寄せる。

「あら、やるじゃない……」

 残念ながら刃は頬を掠める程度だった、しかし斬ることはできるようだ。アザリアは頬から垂れる血を指で拭い舐めながら笑ってみせた。不気味だ……

「私的にはこんな戦いよりもベッドの上の方がいいんだけど~?」

 確かにサキュバスととか興味がないわけではないが明らかに敵対してる場合だと勘弁してほしい。

「バラット様にはワタシが居ますので間に合っております。アバズレ悪魔」

 拳銃を撃ちながらクーナが飛び込んできた。

「人形風情が!」

「悪霊退散です!」

 俺はシリンダーをあえて余分に回し発砲する。アザリアを狙うのは青い弾丸、魔導干渉弾である。予めリロードの際、赤と青の弾丸を三発ずつ装填しておいたのだ。

「やってくれたわねっ!?」

 干渉弾はアザリアを守っていた結界のようなものを吹き飛ばしたようで同時にクーナが撃った弾丸は奴の体を撃ち抜いた。しかし致命傷ではないらしい。

「バラット様、データ解析完了しました。もう十分です」

「流石クーナ、早くて助かるよ!」

「なに?」

「あんたも言ってただろ? 目的は情報収集だって」

「っ!? データナイフ……いつの間に?」

「最初からだけど?」

 そう、俺は最初アザリアに斬りかかった時点で奴がいじっていたメイン端末にデータナイフを突き刺しクーナに解析を任せていた。この戦いはあくまで時間稼ぎだったのだ。

「どうでもいいけど、クーナは変な言葉どこから覚えてくるの?」

「ネットからです」

「さいですか……」

「っちぃ」

 アザリアの顔が初めて歪んだように見えた。

「まぁいい、せっかくだしとっておきを見せてあげる」

 そういうと指を鳴らした。

「バラット様、大規模なマナの消耗を検知。ここが消滅します」

「はい!?」

「この会場ね、元々大術式の触媒として作ってあったの~だから、このままだと落下してお陀仏ね!」

「問題ありません。ミコッタ様!」

「了解!」

「ぐあ!?」

 次の瞬間、管制室の壁がぶち抜かれた。そこにはミコのベオルクスの拳があり、物理的に破壊してきたらしい。

「おまたせ!」

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最強ランクのロボットゲームパイロット、オーバーテクノロジーと異世界の影響を受けた現代地球を駆け抜ける! @AzuDra

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