第50話

 アサルトライフルの一斉掃射で周囲は硝煙と血の臭いに包まれ白く不気味なほど綺麗な白い結晶が浮いていた。

「二人とも無事ですか?」

「死ぬかと思った……」

「助かったよ坊主」

 坊主と呼ばれるのは初めてかもしれない。じゃなくて、二人は無事だしノールとクーナ、うちの兵士達もまだ健在、他の国の人達は正直気にしてる余裕は無い。

「こうなった以上脱出を最優先に行動します」

「任せるわ、何かしてくるとは思ったけど。海洋連の兵士があんな暴走するなんて……」

 カチャという音が聞こえた、恐らくマガジンを変えた時の音だと思う。

「次を撃たせるな!」

 俺は普通のハンドガンを抜き海洋連兵士には申し訳ないが頭部に発砲、撃ち抜いた。

「はぁ!?」

 俺は円卓のテーブルを盾にすぐさま隠れた。頭を撃ち抜いた兵士がそのまま発砲してきたのだ……普通即死で動かなくなるはずなのに意味が分からない。

「間違えてエアガンでも持ってきた!?」

「違うわよ! たぶん人形化されてるの」

 レイカさんは伏せながらタブレットをいじりながらそう話してくれた。

「あれは何らかの方法で操ってるのよ! だから頭や心臓を撃ち抜かれても動き続けるし倒れない」

「んなインチキッ!!」

「バラット様、早くしないと机のプレートが割れて全滅します」

 クーナは冷静に状況を伝えてくるし、敵は急所撃ち抜いても止まらないし最悪だ……

「急所を突いても相手が止まらないならやることは簡単です!!」

 二回目の掃射が止んだ瞬間、ノールが飛び出し、銃を構えた人形兵士に突っ込んだ次の瞬間だった。首、腕、足をバラバラにナイフで切り刻んでいたのだ。

「動けないようにバラバラにしてしまえばいいのです」

 発想がヤバい気がするけどそれしかないと俺も思う!

「そうするしかないよなっ!」

 普通のハンドガンをポイとクーナに投げ渡し、俺はとっておきのスペシャルリボルバーを引き抜き両手で構え、近くの奴目掛けて引き金を引いた。

「っ痛」

 射撃の反動はすさまじく片手で撃っていたら肩が砕けてたかもしれない。しかし威力は折り紙付きだった、魔法陣のような物が一瞬見えたと思ったら弾丸自体が無数に増えて飛んでいく。狙った対象と近くに居た奴らも巻き込んで吹き飛ばして見せた。

「わお……」

 作った側のはずのレイカさんが驚いていた。確かに敵を吹き飛ばすリボルバーとか意味が分からないレベルだけど。

「キクリ様とレイカさんの警護を、武器は死体から奪ってください」

 指示を飛ばしながら自分達の周囲に居たであろう人形兵はどうにか俺とノールで片づけることができた。

「他のお偉いさんは?」

「わかんない! てかレイカさんは自分の心配してて!!」

 一発ごとに反動のすごすぎる弾丸を撃っているとどうしても射撃に集中してしまい視野が狭くなってしまう。

「各々退避を開始していますが脱出の邪魔をしている人形兵が数人あり苦戦している様子です」

「しょうがねぇなぁ!!」

 俺は弾丸を撃ち尽くしシリンダーから薬莢を排出、緑色の弾丸を装填していく。

「クーナ、場所教えて!」

「ここを中心に二時、六時、八時、十時の方向にお願いします」

「了解!」

 俺は指示されたポイントに弾丸を発砲する。緑の弾丸は命中した地点を中心に爆風を巻き起こしながら爆発し周囲の奴らを吹き飛ばしていく。ちなみにこの弾丸はグレネードランチャー感覚で撃ててさっきより肩に優しい。

「後はボディガード達頑張れ!」

 他の派閥の皆さんの支援をしている間にこっちの兵士達もライフルを奪い武装完了していた。

「よし、いっ」

「コマンダーバラット!!」

「……」

 近くから声が聞こえた。見てみると南米軍で訓練に付き合ってた兵士が助けてほしそうにこっちを見ていた。俺はため息をつきつつも、知り合いを無視するほど落ちちゃいないんだよなぁ!

「こっちまで走れるか?」

「いけます!」

「援護するから来い! スリー、ツー、ワン、ゴー!!」

 爆風で支援し近いやつをノールが斬り裂いていく。そして南米チームが俺達に合流することが成功した。

「被害は?」

「護衛が数人やらた……総理は無事です」

 見た感じ負傷はしているし、あまり戦力として期待は難しいか。

「とにかく何が起こるかわからない以上ここからの脱出を優先する、そちらもいいですね?」

 正直こうなった以上総理だろうが王様だろうが文句は言わせない。

「構わない、お願いする」

 話の分かる人で助かった。

「クーナ、ここの構造は?」

 シリンダーを引き出し薬莢を排出、リロードしながらこの建物の構造を聞く。恐らくクーナなら間違いなく理解できてるだろうし。

「そこを吹き飛ばしてください」

 クーナは俺達が居る位置から後方を指差した。

「おっけー」

 指定された位置に向かって弾丸を撃ち込む。もちろん緑の炸裂弾である。

「逃走経路確認、行けます」

 俺達は吹き飛ばした壁の穴から廊下へと飛び出した。

「そう簡単に逃がしてくれないよなぁ……」

 廊下に飛び出すとそこにも予想してましたと言わんばかりに兵隊がスタンバイしていた。

「多いな、ノールいける?」

「やるしかないです」

「だよね! いくよ!!」

 銃を構えた瞬間、周りに居た人形兵が突然倒れて行った。

「皆さん、ご無事ですか?」

 天井からティアさん達、影虎の隊員が降ってきて、おかげでピンチは無かったことになった。

「ティアさんナイスタイミング」

「銃声が聞こえて部隊員を招集しました。これはいったい?」

「こっちが聞きたいくらいですよ」

 あの大根役者の悪魔はいったい何をしたのか? あの白い結晶がなにか重要なアイテムなのは馬鹿でもわかるだろう。

「話は後で、次来ますよ」

 正面を見るとぞろぞろと銃を構えた兵士が集まってくる。

「まるでゾンビですよね、ほんと……」

「彼らはもう死んでいます、ゾンビと変わりないですよ。ただゾンビは本能のままに、あれらは生前の技能を行使できる差はありますけど」

 しかも何かに操作されてるように襲ってくる。だから操り人形、ドールということか。

「どれ、小僧共にばかり仕事させるのも悪いからね」

「キクリ様? 下がっていてください、危険です!」

 全員で人形兵の対応をしようとしたその時、キクリ様がゆっくりと前出た。

「まぁ見ておれ」

 杖の一部がキラリと光ったように見えた。仕込み刀だ!

「閃っ!」

 一瞬の出来事だった。正面に立っていたはずのキクリ様は人形兵の先へと踏み込んでいた、杖に刃を戻すと同時にその場の居た敵はバラバラと崩れ落ちた。

「護衛要らないじゃん……」

 なんというか、強すぎて笑うしかないとはこのことだろう。攻撃が見えなかった、もうこの人だけでどうにかなるんじゃないだろうか。

「おばぁちゃん無理するとまた腰痛めるわよ」

「なに、まだまだ若いもんには負けないよ」

 レイカさんとキクリ様は仲がいいのだなとは思うけどそれは今じゃない。

「クーナ、ここってシステム的な管制室みたいな場所ってある?」

「上層階にございます、行くのですか?」

「なんか情報いるでしょ? ちょっと見てくるから皆は脱出して、ティアさん、ノール後お願いします」

「はい!」

「お任せを、バラットさんこれをお持ちください」

 ティアから棒状の物を投げ渡された。これは、刀、しかもギミックモリモリの現代の忍刀だ。

「ティアさんありがと!」

 俺は状況を掴むため管制室に向かって走り出したのだった。

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