第49話

「続きまして、議題、世界中に現れた魔獣に関してに移行しようと思います」

 早速一人立ち上がる。あれは独立ロシアの首相だったっけ? 旧ロシアは国同士で協力してことに当たろうという調和派閥とロシアの力のみで国家を維持できると主張した独立派で国が分裂してしまった。しかも境界線を作るように北部からベヒーモスの縄張りが拡大、幸か不幸か戦争は阻止されている。

「我が国は現在超大型魔獣ベヒーモスによる国家侵略を受け、深刻な被害が起きている。これを早急に解決し、領土を取り戻したいと考えている!」

「それを言うならばユーラシア連合も同様だ、ベヒーモスの縄張りは我々の領土である」

 早速領土争いが始まった……そもそも現状あんな化け物倒せないっつぅの。

「領土争いなど奪還できた時にそちらの国同士で話し合ってくれ」

 そうだそうだ!

「だから奪還のために世界の戦力をっ!」

「ヨーロッパ連邦はグレートレッドとホワイトノヴァという大魔獣を抱えている。そう戦力提供などできぬ」

「南米合同も先日討伐成功したエキドナの後処理と復興が済んでおらず、戦力も消耗しきっており援助は不可能だ」

 早い話がどの国もネームドクラスの大型魔獣を抱えているのが現状で援軍なんてできるわけがないのだ。

「それでは何のためにここに集まったのだ! 何もできないでは無駄足ではないか!!」

「ですから、魔獣の対策、共生をしつつ安定した人の住める環境を!」

「ふざけるな! あの獣どものせいで何千万人という人が犠牲になった!!」

 実際魔獣が現れてから人類は大幅に数を減らした。詳しくは知らないけど既に億は越えていると思う。

「日本はどうなのだ? 比較的平和だと聞いているが?」

「我が国はプレイヤーと呼ばれるドロイドの操縦に適したパイロットが多く居りまして。現れる魔獣に対応してもらえているというのが現状で、彼らは軍属には入らず報酬次第で動く傭兵となっていて我々の意図には従っていただけないのが現状です」

 プレイヤーはゲームの延長線として戦っているだけで別にお国のためにー! とか考えてる人はほぼ居ないだろうし報酬が無くなれば戦わなくなるだろう。しかも機体の運用しているのがウィンディタスクの支部という。早い話、日本は国として殆ど対魔獣戦ができないのだ。

「プレイヤーを軍属として引き込むことができれば戦力の増強は可能か……」

 こいつらろくでもないこと考えてるなということはわかった。

「ヨハネ社としては機体の提供はどうなのですかな?」

 またあの小太り眼鏡が立ち上がった。

「我が社としましても、鋭利最新機の製造を続けておりますので近いうちに高水準の物をご提供できると思います。我々は魔術や錬金術による新技術の取り込み融合も成功しております。我々の技術の結晶を十分に発揮してご覧に入れましょう」

「それはいつなのだ? それは世界滅亡までに間に合うのだろうな?」

「い、今は何とも言えませんが近いうちに必ず!」

 なんかボロが出てき始めたのか? あの小太り眼鏡男はこういう会話に慣れていないのだろうか? それは流石におかしくないか、このような場で話す立場なのにそんな未熟な奴使うわけがない。

「そもそも滅亡なんてしないわよ、何を心配しているかしら。馬鹿じゃないの?」

「貴様! 誰に向かって言っているの……か……」

 言葉が途切れた、小太り眼鏡の奥から黒いドレスを身に纏った赤肌に蝙蝠羽の女性が現れた。俺はあいつを知っている……ベトナム強襲作戦で接敵したサキュバスで間違いない。何をする気なんだ? 一気に緊張してきた、ノールも同じようで強張っていた。

「お初にお目にかかります、首脳の皆様。私はヨハネの技術顧問官を務めておりますアザリアと申します、以後お見知りおきを」

 そういうとお辞儀をして見せた。周りの男たちはおそらくその姿に見惚れただけだろう、まだ魅了など魔法は使っていないはずだ。

「魔獣に侵攻されているのに世界滅亡はありえないとはどういうことだ!」

「魔獣だってここで生きてる生物なんですよ? 自分達の生活空間を自分で壊すわけないじゃないですか。しいて言うなら世界ではなく人類滅亡ですよ」

 アザリアは円卓を囲む首相達の中央に立ち語りだした。

「同じことだろうが!」

「対策はいくらでもあるでしょ? まぁベヒーモスやフェンリルみたいな魔獣はその気まぐれに任せるしかないですけどね、グレートレッドとホワイトノヴァに関してはお互いがお互いを牽制し合うし争いに巻き込まれたくない下位の魔獣は近づかない。つまりその二匹の動向さえ気にしてれば対策は立てれる」

 確かにベヒーモスのような頂点に君臨する魔獣の動きは読めない。しかし現状今以上の進行を見せてないのは事実だしグレートレッドのようなパターンも目的がはっきり見えている分対策しやすい。

「エジプトのスフィンクス、中国の応龍にいたっては争う意思は無し。むしろ敵対行為さえしなければ共存すら可能」

 確かにネームドではあるが敵対する気配が全くないのはゲーム時代にも居た。むしろ護衛や共闘するイベントすらあったくらいだ。

「それに知ってるわよ? 中央アジアさんは内戦一歩手前なんでしょ? しかも被害も出ている危険な魔獣、モンゴリアンデスワームを無視して暴動鎮圧にドロイドを優先的に使って怒りを買ってるって」

「我々は、団結のためにそれを否定する集団を鎮圧しただけだ! 魔獣の対応だってこれから開始する」

 おそらく応龍に敵対の意思がないのを分かったうえで領土を優先したのだと思う。しかしこの場でバラすような話ではない気もする、あいつは何を狙っている?

「それに勘違いしているようだけど、海にも危険な魔獣は大量に居るわよ。今は、まだ会ってないだけで」

 わかっている、ザラタンは高精度のあらゆるセンサーを駆使して危険を回避して航海しているのだ。海が危険なのはわかりきっている。

「それに魔獣ばかり話しているけどぉ。」

 嫌な予感がする。

「魔人っていう危険もすぐそばに迫っているかもしれませんのよ?」

 そういうと小太り眼鏡の方をアザリアは向く。

「さぁ、姿を現しなさい! お前の目論見、全首脳を皆殺しにして世界を混乱に陥れることはわかっている!!」

「な!? 貴様!! 何を言っているのだ!? 私はそんなことっ!!」

 アザリアはそういうと胸元から一丁の拳銃を取り出す。あれはコンテンダーか? 単発式の銃だったはずだが。俺は脇に装備していた銃に手を掛けながらキクリ様とレイカさんの傍に近づいた、キクリ様から今は動くなと手で制止されてそれ以上は動けなかったが周りのボディガードも同じような動きをしていた。

「覚悟なさい!」

 アザリアはそう叫びながら小太り眼鏡目掛けて発砲した。銃弾は心臓を完全に捕えて撃ち抜いていた。

「あ、あぁぁぁぁぁぁあああああき、さっ、ま……ぐあぁぁぁぁぁぁ!?」

 アザリアは笑っていたように見えた、しかしすぐに視線は叫ぶ男の方に行ってしまった。男の体からは黒い煙が噴き出し、煙の中から人一人分位の大きさであろう結晶が現れた。それは黒い煙が何だったのかというほど白く輝いていた。

「技術顧問官! これはいったいどういう……!?」

 円卓の中心、あのサキュバスの姿はすでに無く小太り眼鏡男が立っていた場所に白い結晶が残っているだけだった。

「おい、あれを調べろ」

 海洋連の首相がそういうと警備していた兵士達が集まってくる。なんか歩き方が妙な気がする? まるで意思のないゾンビみたいな……違う、何か変な気がする、その時兵士の一人が銃を片手で正面に構えるのが見えた。

「伏せろっ!!」

 俺は瞬間叫び、レイカさんとキクリ様を抱えて倒れ込んだ。次の瞬間だった、集まった海洋連兵士によるアサルトライフルの一斉射撃が行われたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る