第48話
「それでは、第一回新政権全国首脳会議を開催いたします。なお、今回は特例として特別軍事企業であるウィンディタスクとヨハネにも参加していただいております」
議長の一言により会議が始まった。正直ぱっと見の第一印象は険悪という感じだろうか? あんまいい雰囲気とは言えないと思う。
「まず初めの議題ですが原子力、核の消滅による全世界共通のエネルギー不足についてです。現在各国共に風力、水力、火力を始めとした発電の増設作業を実施し不足分をどうにか補おうとしている状態であります」
「ドロイドだったか? あの兵器に使われているあの動力」
あれは北米連携の首相だったか? 核のエネルギーを現行の発電では補えないとすでに新技術に注目しているのだろうか?
「あの機構を大型化して出力を上げれば核の代わりになるのではないか? 技術研究も進んでおるのだろう? ここで共有しようじゃないか」
「技術的にはマナと呼ばれる大気中に無限にある物質をエーテルと呼ばれるエネルギーに変換運用することは判明している。しかし構造自体は理解できない点が多く再現、生産の技術は現状ウィンディタスクとヨハネの二社のみしか持っていないのが現状です」
「このエネルギーは極めて強力なものであり、ドロイド一機を接続するだけで大型の病院や企業の電力を補えることは確認しています」
逆を言うとそのくらいの出力が無いとドロイドは動かないということになる。現行兵器より強いのは当たり前なのだろう。
「ウィンディタスク並びにヨハネの方々に聞こう。そろそろ技術の方も公開していただけませんか? 世界が一致団結しなければいけない事態なのです。独占というのはどうかと思いますが?」
よく言うわ……結局自分達の安全と安定が欲しいだけの癖に。
「ヨハネとしてはですねぇ」
ヨハネの代表者が口を開いた。なんだろう、第一印象は性格悪そうだった。
「こちらとしては技術公開の準備もございます。しかしながらこちらの生成方法にはこちらの世界以外の技術が使われておりまして、そちらの提供にいささか条件がございましてぇ……」
「なんだ? この期に及んで勿体ぶるな」
「では、まず大前提としてマナを認識しエーテルへと変換させる能力を持つ者が必要となります」
「それは我々には不可能と言いたいのか?」
「我々地球人には不可能ですが、方法はいくつかございます」
そういうと小太りの男はモニターを操作していくつかの資料を表示させた。
「まず一つ目の方法。それは異世界からの来訪者に作成させるということです、しかし異世界人全てが作れるわけではございません。魔術師や錬金術師と呼ばれる技術者が必要となりますが、こちらは現状ウィンディタスク社が独占しておりますのでそちらにお問い合わせください」
技術者を全員囲い込んで外に出さないようにしてるみたいな言い方だな。性格悪そうな感じは当たっていたようだ。
「ウィンディタスク社、どうなのかね?」
「後で、お答えします。まだあちらの説明は終わっていないようですよ?」
キクリ様がそう言うと全員がヨハネ側に向き直る。
「二つ目の方法、こちらはしかるべき手順を踏んで魔族を召喚し、協力させる方法です。こちらはマナの認識ができなくても可能ですので呼び出した魔族と交渉、契約することで皆様の欲するエーテル転換炉のコアユニットを製造することが可能です」
「その方法は共有していただけるのか?」
「皆様のためとなるのであれば喜んで提供いたしましょう。我らヨハネは各国とのウィンウィンな取引を望んでおるのです」
そういうと大げさに手を広げてお辞儀してみせた。胡散臭い奴……
「皆様は」
静観していたキクリ様が立ち上がり口を開いた。
「容姿の異なる人種と好意的な交流ができますか? 私の記憶では肌の色程度で騒ぎ騒動を起こすような愚行を許す国もあったようですが?」
「そんなことはない! 我々は一致団結しようとしているのだ、そんな差別的な思想は存在しない!!」
「そうですか。ではこのような人に近いが人ではない人種とも問題なく交流できるということですね?」
「っ……!?」
キクリ様が雑面を脱ぎ捨て二本の鋭く伸びた額の角と人の物とは思えないほど綺麗な深紅の瞳を露わにした。
「我は鬼人族という人に近しいが異なる存在である。他にも獣人や妖精族といった亜人種は存在する、むしろ次元断層の影響で今後こちらの世界に数多く現れることも予想されます。その異種族とあなた達は友好的に交流できますか?」
俺らはゲームやアニメなどでよく知っている。友好的どころか居てくれたらいいのにとか思うほど好意的な世代だと思う、しかしこういう政治家など堅物は困惑するのだろう。
「それは本物なのか?」
「まぎれもなく本物である。信じられぬか? ならば、ノールどの! こちらへ」
キクリ様に呼ばれて待機していたノールが恐る恐る前へと出て行った。
「本日、護衛として同席してもらっていたが。彼女も異世界人、ダークエルフと呼ばれる者である。このように世界はすでに人間だけでどうにかしていい状態ではないのです」
「我々は種族による差別など幼稚なことはしない!! 異世界からの迷い人が現れた際は我々も責任をもって対応する。皆もそれでいいな?」
各首脳達は頷き異世界人に対してしっかりとした対応をするとのことだが、具体的な内容は誰も、何も言うことはなかった。
「エネルギーが必要とのことならエーテル転換炉をこちらで製造販売させてもらうこともできる。異世界人の保護をしていただけるのであればユニットの提供もやぶさかではございませんどうぞお考え下さいませ」
そういうとキクリ様は着席した。
「ノールお疲れさま」
「なんか嫌な視線でした……」
個人的な意見だが政治家は詐欺師と似たような部分があると思っている。国の運命を握る官僚なのだからいろいろ考えがあるのだろうが、正直信用できない奴らだ。
「もう関わり合いは無いとは思うよ」
「そうですか……」
奇異の視線だったのだろう、ノールはすごく嫌そうな顔をしていた。
「それでは、エネルギー問題に関しましてはウィンディタスク及びヨハネ社の方々に支援していただく形で早期解決を目指すということでよろしいですね?」
あの後もしばらく会議は続いていたが妙案はでず、二社の提供に丸投げする形になった。まず一つ目の題材はこれで終了、次の議題へと移っていくのであった。
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