第45話

「あっつい……」

 俺はザラタンの甲板から無限に広がる海を眺めながら呟いた。

「遠出する時なんか南側が多い」

「ねっ!」

 隣でミコも手すりにもたれ掛かっている。キャップを被りTシャツをお腹の上あたりで縛りへそ出し短パンとかわいらしい格好をしていた。

「バラット最近寝不足? 疲れてない?」

「ん? そんなことないよ?」

 毎晩クーナが迫ってくるとか口が裂けても言えない……

「間もなくオーストラリアに到着いたします」

 当の本人は普段何もなかったかのように接してくる。あのクーナはホントなんなんだろうか。

「ショッピングとかする時間あるかな?」

「日程的には少し余裕あるんじゃない?」

「一日ほど猶予がございますので、許可が下りれば行けると思います」

「期待しておく」

 世界に魔獣が現れてから大きく変わったことがある、それは空が大きく制限されたということだ。ワイバーンや鳥獣系の飛行能力の高い魔獣が空を支配したこと、そしてマナを含んだ雲の一部が物質化して飛行機の障害となるようになってしまったことが挙げられる。その影響から海洋移動が主流となっているのが現状だ。

「海洋連政府からの連絡ではドロイドを始めとする戦闘兵器の上陸は緊急事態以外原則禁止とのことです。会場警備は全て海洋連で行うとのことです」

 国のメンツというのもあるだろうしそこら辺は信頼するしかないのだろ。

「仕事がないことを祈りますよ」

「見えてきました。ザラタン・セカンドは南部第六軍港に入港するとのことです」

 人の体になってもすぐに情報を入手したり分析してくれるとこはホント優秀だなぁとクーナを見ながら思った。

「なんか、クーナとバラット仲いいよね……」

「え?」

 ミコがなんか不満そうな顔をしながらそんなことを聞いてきた。

「バラット様は見ていて面白いです」

「そうなの!?」

 クーナはニコッと笑顔を見せてくれる。最近は人のようにオシャレをするのも興味あるらしくミコ達にいろいろ聞いてるらしい。

「何て言えばいいかわからないけど、クーナ楽しそうに見える」

 かわいい子に気に入られてるというのは悪い気はしないけど、どうしたらいいかわからない経験の無さが悔やまれる……

「レイカ様がお呼びです。全員会議室に来てくれとのことです」

 クーナに言われてDギアを見てみると連絡が丁度入ってきた。

「じゃあ行きますかね」

「うん」

「了解」

 雑談を切り上げ俺達は会議室へと向かった。

「レイカさん、今度はなんですか?」

「いらっしゃい!」

 会議室に着くとすでに皆集まっていてレイカさんが手招きしていた。

「今のうちに装備とか諸々説明しとこうかなって。今回はあくまで要人警護で本格的な警備は海洋連軍が行うのは知ってるわね?」

 さっき聞くまで全く気にすらしていなかったが黙っておこう。

「基本的に機体の上陸は禁止、武装も過剰な物は持ち込めないの」

「となるとライフルとかはNGだろうしハンドガンくらい?」

「そ! ちなみにノールちゃん、剣や槍もダメだからね?」

「なんですと!?」

 持っていく気満々だったのか……

「一応黙認って形になるけど目に入らなければ大丈夫よ」

 そうなるとやはりハンドガンやナイフくらいがメインだろうか?

「まず警護に入ってもらうバラット君とノールちゃんにはこれね」

 そういうとウィンディタスクの女性の横顔に風のような爪で切られたような三本のマークが刻まれたジャンバーを渡された。

「うちの所属ですって目印と、防御用ね! うちの技術の結晶、特殊繊維で防刃防弾性能抜群だから脱いじゃダメよ?」

 ぱっと見普通の市販品に見えるがすごい技術が使われているらしい。よくよく見ると裏にハンドガンのマガジンやナイフを仕込めるポケットまで付いているようだ。

「あとシャツはこれね、こっちは薄い分防弾性能だけだけどそれでも重いチョッキとか着るよりいいでしょ?」

 これまたどこにでも売ってる黒一色のTシャツに見える。こんなの作れるってホントすごいな。

「で、武器なんだけどここにあるの好きに選んで!」

 そう言いながら指をパチンと鳴らすと中央の大きなデスクがひっくり返り大量の武器が現れた。

「いつの間にこんなギミックが……」

「デフォルトよ!」

「す、すごいですね……」

 気を取り直して武器を見ていく。やはりハンドガンがメインであり、火力で考えると最高なのはリボルバーかデザートイーグルだろうか? 単発式の物は流石に使いにくいだろうし。

「ん? これは?」

 武器を眺めていたらふと見覚えのない銃が目に入る。青黒い銃身の六連式のリボルバーハンドガンだ、それを手に取りよくよく見てみると銃身には読めないが文字のようなものがいくつも刻み込まれていた。

「あ、それそれ!」

 眺めているとレイカさん気づいて話しかけてきた。

「それ、うちで開発した試作品なんだけどバラット君使ってみてくれない?」

「俺ですか? 結構重たいですね」

 リボルバーを構えて見たりシリンダーを押し出し弾倉を確認してみる。悪くない銃なんだろは思う、重い分射撃時も安定するだろう。

「キャスターズパイソン、錬金術や魔術による特殊弾に完全対応させたモデルよ。オートマチック式は強度の都合上まだ時間が必要なの」

「これって普通の弾丸も使えるんですか?」

「もちろん、でもメインはこっちの術式弾よ」

 そういうとぱっと見普通の銃弾だが弾頭が赤や青、様々な色で区別されている物だった。

「術式弾も消耗品としては一つ一つ手作業で作らなきゃいけないし量産性最悪だからあんま用意できない欠点もあるのよね」

 確かに状況に応じて使い分ける、一発一発が貴重品となるなら逆にリボルバーの方が相性はいいのだろうか?

「わかりました、これをもっていきます」

「じゃあ弾丸の説明するわね! まず赤いのこれは拡散弾、発射するとショットガンみたいに分裂する短距離高火力の弾丸ね」

 なんか最初からすごいこと言ってない? そんなの量産できたらショットガン要らないじゃん……

「欠陥としては反動が強すぎて最悪肩が砕けるかも?」

 ヤバすぎる欠陥があった!!

「そんなの下手に使えないじゃないですか……」

「あはは、まだ試作品だって言ってるじゃない! じゃあ次ね、こっちの青いのは魔導干渉弾。命中した対象のエーテルやマナを吹き飛ばす効果があるの」

「いい性能じゃないですか!」

「ただし、範囲が狭くてドロイドクラスの大きさには効果が低いわね」

 対人戦なら使い勝手のいい弾丸な気がする。

「次はこの緑のやつね、これは炸裂弾。命中した地点を中心に爆発する弾丸、一番取り扱いが難しいから気を付けてね!」

 つまりグレネードということなのだろう。もっと火炎弾とか雷撃弾みたいな魔法的なのを予想してたが全部現実的な内容だった。

「了解、扱いには気を付けます。物騒過ぎですよ」

「まさかハンドガンにこんなヤバイ効果あるなんて思わないでしょうしね!」

 確信犯かこの人は……

「とりあえず装備については用意させてもらったから扱いやすいのを選んでね!」

 俺はこの特別なリボルバーと普通のハンドガンを選び、ノールの方は短刀といえそうなくらいの鋭いナイフ二本と一応ハンドガンという感じで選んでいた。ダークエルフが銃を持つとかなんというかイメージが合わないけど。

「レイカ、明日って一日暇じゃない? お買い物とか行けたりするの?」

「ごめんなさい、それは無理ね。今各国が来てて警備とかですごく敏感だから特別な理由がないと上陸させてもらえないのよ」

「残念……」

 ミコはちょっとしゅんとしていた。

「まぁ会議が終わって平時に戻れば大丈夫でしょうし時間は作ってあげるわよ!」

「流石レイカ! わかってる」

「まぁね!」

 そんな話をしたりしながら俺達は護衛の準備を終わらせ、会議当日に備えるのであった。

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