第44話

「ロケットの打ち上げは成功しました」

「魔獣の妨害は?」

「幸いワイバーンも鳥獣も居なかったようです」

「そうか」

 白衣に身を包んだ研究員が複数人パソコンを操作しながら会話をしている。

「会議には間に合ったな。デギロ様には私から報告しておく」

 白衣集団のリーダーであろう眼鏡の男性は部屋を後にし廊下に出ていく。

「シラジ博士、今後の予定ですが」

 廊下に出ると眼鏡をかけスーツを着こなす秘書の女性が話しかけてくる。

「まずはデギロ様に報告だ」

「承知いたしました」

 二人は廊下を進みエレベーターで別の階層へ上がっていき更に進んでいく。ロケットは無事に打ち上げ成功した、懸念していた害獣の妨害も無かった。あとは舞台の準備次第だがそこは自分達の担当ではない。

「ここで待っていなさい」

「はい」

 奥へと進み派手な扉前で秘書に待つよう指示を出し自分は奥へと踏み込んでいく。

「デギロ様、失礼いたします」

 部屋に入ると周りは高そうな魚が何匹も泳ぐ水槽に囲まれた薄暗い部屋で奥にデスクがある。そこにはワインを飲みながら小太りの男性が座りくつろいでいるようだった。

「博士か……どうかしたのか?」

「報告します。例のロケットの打ち上げ無事完了いたしました、大気圏突破後、展開起動予定です」

「そうか。あとは舞台班次第だな、予定通りこっちは任せる。私は特等席で今回のパーティを見物させてもらうとしよう」

「承知いたしました」

 シラジは頭を下げ、そのまま部屋を後にした。

「ついに来る。我らヨハネが表舞台で君臨する世界が!!」

 デギロは外にも響きそうなほどの大声で笑っていた。

「まったく……」

 シラジは廊下に出て呆れたようにため息をついた。

「そろそろ起動のころあいだ。戻るぞ」

「はい」

 廊下で待っていた秘書を連れ再び研究室へと戻る。歩く途中、電話が鳴り始めた。

「……はい、なんだ?」

「もしもし~、私ぃ今日寂しぃの~」

「……はぁ。用がないなら切るぞ、アザリア」

「シラジちゃんつれないわね~。例の奴起動を確認したわ」

「当然だ、それよりも貴様ら舞台の準備できているんだろうな?」

「もちろん、ド派手にしてあるから盛り上がるわよ~」

 ふざけた悪魔女だが間違いなく仕事はできる。こう言うからには完璧に準備しているだろう。

「今回の作戦は独ロと中央アジア帝国派の依頼も兼ねている失敗して泥を塗るなよ」

「むしろあの小太りコガネムシに言うことね。仮でもあんなのが代表としていくんだからぁ」

 あれは偉そうにしているがもう資金も残り少なく現状一番切り捨てやすい駒なのだろう。

「美味しい蜜を舐めていたんだ、この位の仕事はしてもらわなければ困る」

「用済みになったらすぐ捨てちゃうなんて酷い組織なこと」

「そう言うものだ。こちらは問題なく作業を完了させる、失敗は許さん」

 シラジはそういうと電話を切って研究室へと戻っていくのであった。

「わかってますよ~」

 スマホを指に乗せてクルクルと回して遊ぶ赤い肌と蝙蝠のような羽を生やしたサキュバスの女性、アザリアは呟いた。

「さぁみなさぁんお仕事頑張ってね!」

 アザリアは整列するオーストラリア兵にそう言うと部屋を出て行った。

「細工は上々、あとは役者の腕次第ってね。ウィンディの厄介者が一緒に消えてくれれば一石二鳥、ホント楽しみね」

 楽しそうに舌なめずりをすると服を一枚、また一枚と脱ぎ捨てながら奥の部屋にやってくる。そこには筋肉質のガタイのいい男が数人立ったまま寝ている、まるでパイロットの居ないドロイドのようだ。

「こっちはこっちで楽しませてもらうわね。いい感じの軍人さん選んであげたんだからすぐにしんじゃ嫌よ~」

 アザリアは部屋の扉を閉めお楽しみの宴を満喫しだした。新世界が大きく動き出すその時を楽しみに待ちながら。

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