第35話
俺達はザラタンに戻ってきたがエキドナの素材回収など作業が残っているためしばらくここに滞在するとのことだった。
「……暑い」
「そりゃ南米だし」
俺とミコは甲板で海を眺めながら暇を持て余している。機体の方はボロボロすぎて手伝えるような状況ではないし戦闘しかできない俺達は自然と休暇状態となった。
「レミィはデータ整理で籠っててゲンジさんは治療のために入院してるし暇!」
「平和だったら観光とか行けたんだけどね」
流石に災害現場でお店とかそういう状況じゃないのは見て取れるし避難民用のテントも大量に張られている。
「無理!」
「まぁね」
はははと笑いながら港の方へ目をやると新品のレクティスやウォンバット、フライキャリアーがザラタンから降ろされ並んでいるのが見えた。
「今回の騒動で国の防衛能力が低下しているのと、元々対魔獣戦力の増強依頼も来ていたので今回の支援作戦に機体の納入も含まれていたんですよ」
声の方を振り返るとラフな格好のティアさんが歩いてきた。
「ティアさん、そっちはもういいんですか?」
「機体はメンテナンス中、影虎も休暇みたいなものです」
「訓練はしないの?」
「ドロイド操縦に興味のある隊員は今もシュミレーターで訓練してますよ、私はほどほどに」
そう言いながら微笑んだ。
「パイロットが成長してくれるか、元々ゲームやってたプレイヤーを引き込むかしないときついだろうなぁ」
「確かに機体は壊れても作れますけどパイロットはそうもいきませんしね」
「ただのAIじゃネームドは倒せない」
ネームドやエースパイロットが相手になってくると実際ただの戦闘AIじゃ対応できない。クーナくらいの性能が必要になる、つまり人間と同等以上の自立思考能力であり兵器としての扱いは難しいのだ。
「俺らが考えることじゃないんだろうけどね」
暇すぎて三人で雑談をしているとレイカさんが帰ってきた。
「あ、丁度いい感じに暇そうね」
「レイカさん、なんか用事ですか?」
「暇つぶしに教官してみない?」
「はい?」
「南米軍のお偉いさんと会ってきたんだけど、戦闘訓練をして欲しいんだって。貴方達の動きを目の当たりにして今のままじゃダメだって思ったみたい」
急に言われても困るのだが、社会不適合者のゲーマーが教導とか無理過ぎる。
「無理です!」
「とりあえずボコボコにして聞かれたことに答えてくれればいいからお願い! 結構いい金額なの!!」
お金かい!!
「苦情は全部レイカで」
「そんくらいいくらでも掃いて捨ててやるわよ、じゃ! お願いね!!」
そう言うと手を振りながら船の中へと消えていった。
「あの人はほんと急に何かしら持ってくるなぁ……」
「私達に戦わせるか迷ってた最初とは大違い」
使える物は何でも使う、余裕が全然ないのだろうなという気はするが。
「なら、私もその教導に参加しますね! 間違いなくシュミレーターよりいい経験になりますし、影虎の希望者も集めてきますね」
そう言うとティアさんも行ってしまった。
「はぁ……ミコはどうする?」
「バラットがやるなら付き合うよ、射撃の細かいとこ苦手でしょ?」
「ありがと、助かるよ」
「機体はどおする? 私達のは使えないよ?」
「そこは南米軍に提供した機体を借りてやろう。同じ機体の方がいいでしょ」
「了解」
「じゃあいこっか」
俺とミコはこの後作業が終わるまでの間、南米軍戦闘訓練の教導を行った。最初は同じ機体のはずなのに動きが違い過ぎて困惑されたがさすがは軍人という感じか気合と根性でついてきて意外なほど上達していったのだった。
話を聞くと各国もレクティスをベースにデータのある強力な機体の製造を開始しているらしく、それを操るのに足りない技術を補いたかったとのことだった。これから間違いなく世界は激戦の渦に飲み込まれる、今回のエキドナなんて目じゃないほどの。まだ世界に振り回されているだけで目的も見えてこない、それでも俺達は戦い生き抜く、仲間を、友達を守るために剣を振り続けていくのだ。
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