3章 脳無舞踊~デュラハンダンス~

第36話

 南米支援に出発してからしばらくが経ち、俺達は一通りの依頼を終わらせ本部へと帰還した。

 この間に世界情勢はだいぶ変わってきていた。大陸各地に現れた魔獣の影響で多くの人々が亡くなり、魔獣領域と呼ばれる人が住めない魔獣に支配されたエリアが現在進行形で拡大している。

 国々はこれまでの国家運営ができなくなり次々と統合、数々の問題を抱えながらも巨大な組織としての運営をせざるおえなくなっていった。まだ国として戦っている場所も勿論あるが戦況は厳しく核の消滅によるエネルギー不足も相まって苦戦を強いられている。むしろ崩壊は時間の問題という状況だった。

 現在の地球は大きく分けて北米連携国、南米合同国、ユーラシア連合、アフリカ共和国、中央アジア連合、ヨーロッパ連邦、オーストラリア海洋連、そして独立ロシアの八つに分類される。ちなみに日本は中立国として現存している、これは日本が島国で凶暴で危険な魔獣があまり発生しなかったのが大きかった。

 魔獣という共通の敵が現れたことで国々は統合されつつあったが今だ世界が一つになることはかなわず、内戦の危険をも抱えている状況に加え、高度な技術を有するヨハネというテロ組織まで暗躍している。世界は一歩また一歩と混沌と化していくのであった。

 俺達の所属している中立軍事傭兵施設ウィンディタスク(最近肩書が変わったらしい)も新型機の開発など日々研究が進んでいた。つい最近だとガルーディアをベースに空戦機の簡易量産モデルとしてバーディアンと量産型水中戦用機オルフィクスがロールアウトし戦力増強のため国家提供が始まったところだった。

 そして今俺は島の密林演習所に来ている。

「システムオールグリーン、いつでも行けます」

「おっけ~、じゃあドラクスの稼働テスト始めるわよ~」

 俺はエキドナ戦以来調整、整備を続けているドラクスの稼働実験を行っていた。今日は運動性と機動性のテストだ。

「ここからはワタシがオペレーターを引き継ぎます。カウント開始、三、二、一」

 クーナの声にいつでもスタートできるよう集中する。

「スタート」

 掛け声と同時にドラクスを起動させた。今回は指定されたルートをスラスター無しで駆け抜けるというテストである。

 足場が悪く障害物も多い密林地帯をドラクスは高速で駆け抜けていく。こいつはレクティスと比べて関節の可動域が高められ、人間のように柔軟な運動性を発揮しており器用に障害物を回避しながら進んで行く。

「順調です、想定よりも早いペースで進んでおります」

 クーナのオペレートを聞きながら俺はドラクスを乗りこなし、ゴール地点に到達した。

「どうだった?」

「想定以上の性能を発揮しています」

 ドラクスには試作品ではあるがキャストシリンダーという魔導技術が組み込まれていてそのおかげかゲーム内で使っていた時以上の性能を発揮していた。

「続きましてエーテルバーストの試験を行いますので海岸エリアへ移動お願いします」

「了解」

 エキドナを真っ二つに両断した力、あれは大気中のマナを吸収増幅し、高密度のエネルギーを機体に溜め込み一気に放出した攻撃らしいのだが、あれを使うと機体がオーバーヒートして機能停止してしまうためそれを回避して運用できる数値を計測し、リミッターを設定したいらしい。

「海岸演習場に到着しました」

「了解しました、それではバーストモードの起動お願いします」

「了解」

 俺はシステムを起動、シリンダーを最高出力で起動させてエーテルを機体に溜め込むバーストモードへと移行させる。

「機体の限界値を測定します、しばらくそのまま維持お願いします」

 機体を冷却しているため背部のテールバインダーから煙が噴き出し周囲を霧のように包んでいく。

「バーストモードって機体の反応速度とか性能自体が底上げされてるんだ」

 ゲームには無かった俺も初めて見るシステムのため気になっていろいろ試してみたくなる。

「標的を出現させます」

 クーナが察してくれたらしくドロイド用のサンドバックが演習所に設置された。

「クーナわかってる!!」

 俺は早速サンドバックに飛び込んだ。

「はやっ!?」

 想像以上に踏み込みが早く正面から激突しそうになり慌てて回避させる。片足を軸に急停止からのサイドステップ、想像以上の反応速度で正直驚いた。そのまましばらく簡単な運動をさせて距離感など感覚を把握する。

「なんとなく分かってきた。行くぞ!」

 ドラクスは一瞬でサンドバックの正面に踏み込み、勢いそのままに右ストレートをねじ込む。サンドバックは一撃で引き千切れ吹き飛んで行った。

「標的を複数配置します」

 クーナがそう言うとターゲットドールが床から飛び出してくる。俺はそれを裏拳、回し蹴り、正拳突きと標的が配置される瞬間に破壊していった。

「可動臨界点確認、最後に全放出の実験お願いします。」

「了解」

「ターゲットは海洋に設置済みです」

「確認した。エーテリオンブラスト発動」

 ドラクス両腕部に装備されている三俣の爪ドラゴンズクローが展開し、機体中央で高密度のエネルギーを貯め込み制御しつつ拡大させていく。機体の何倍もの大きさまで拡大するころには両手を頭の上で大きく広げギリギリまで広げ巨大化させる。

「これ以上のチャージは機体が崩壊します」

「了解、エーテリオンブラスト発射ぁ!!」

 ドラクスは巨大なエネルギーの塊を目標目掛けて全力で投げ飛ばす。高エネルギー弾は砂場をえぐり、海を二つに割りながら標的に迫り直撃した瞬間とてつもない爆発を起こした。

「なんか、少年漫画の超必殺技みたい……」

 それは想像以上の破壊力を見せて驚いた。明らかに普通の想像してたロボットで出せる火力ではなかったのだ。

「機体温度上昇、至急強制排熱を」

 ハッと我に返り慌てて機体を操作する。機体各所の装甲が開き全身から機体に籠った熱を放出されて周囲が煙に包まれた。

「クールダウンは五分か、結構かかるね」

「機体自体にも障害がいくつか発生しています。性能ダウンは致しますが一応継戦可能です」

「どのくらいダウンしてるかわかる?」

「おおよそですが、レクティスの半分程度と予想されます」

 想像以上に低下していた、正直最低限動けますよって感じだ。

「それは戦えるとは言えないよ」

「承知しました、バラット様の継戦可能ラインはどの位でしょうか?」

「せめてレクティスの標準仕様と同じくらいは欲しいかな」

「ではそのラインでリミッター及びOSの設定を作成いたします」

 しばらくして機体の冷却が終わり動けるようになった。

「めちゃくちゃ鈍い」

 操作して感じる。明らかに反応が鈍い、とてもじゃないけど予想通りこれでは戦えない。

「本日のメニューは終了です迎えのウォンバットを手配しますか?」

「一応動くしこのまま歩いて戻るよ」

「了解しました。報告データはこちらでまとめて提出しておきます」

「ありがと、クーナは優秀で助かるよ」

「……それほどでもございません」

 ちょっと照れた? クーナはAIだがこういうとこを見ると本当に人間らしいなと感じる。

「それじゃ、撤収する」

「お願いします」

 俺は鈍いドラクスを操縦しドックに向かい歩き出したのだった。

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