第30話

 魔獣には例外的に大きく成長したもの、特殊な進化を遂げた突然変異個体がごくまれに現れることがある。だいたいは通常種よりも遥かに強く成長しており危険性も高く識別のために種族名ではなく個体名が与えられる場合があり、そのような魔獣をネームドと総称し非常に危険視されている。

「まずいなこれ……」

 エキドナ、二本の鋭く長い角と複数の頬角を生やし、額に大きな邪眼を持ち四肢もとても強力に発達したバジリスクのネームドであり超大型個体、群れの女王と呼ばれる特殊個体でその戦闘能力は先程倒したダイヤモンドヘッドなんて比じゃないレベルで危険な存在だ。

「体を石化して潜伏してたのでしょうが、群れがやられて動き出したのでしょう……」

 ガシャンと鈍い音を立てながら咥えていた南米軍のレクティスを胴体から真っ二つに噛み砕きながらこちらを睨みつける。仲間をやられてそうとう怒っているようだ。

「頭だけでもデケェ……」

 三十メートル以上は確実にある全長、尾も考えると百メートル近いのかもしれない。

「全機散開!」

 声と同時にエキドナが咆哮を上げてながら突っ込んできた。ギリギリで噛みつきを躱したと思ったらそのままグリっとこちらを向き口を開きながら迫ってきた。

「このくそっ!」

 シザースで口を押えながら受け止め、口内に向けてショットガンを連射するがビクともしない。むしろブレイカーユニットの方が先に悲鳴を上げ始めている。

「チェストォーーーー!」

 横からゲンジさんが薙刀で斬りかかるが強固な鱗に阻まれ薙刀がへし折れてしまった。

「まだまだぁ!」

 ゲンジさんはエキドナの体を両腕で殴りつける。すると腕部ユニットから二本のパイルバンカーが射出され鱗を貫通した。

「今ですぞ!」

 エキドナが怯んだ隙に俺とゲンジさんは距離をとり、同時にミコが狙撃で頭部にダメージを与えていく。

「貫通しない、火力が足りない……」

 エキドナは鬱陶しいと咆哮を上げて尾を思いっきり振り回してくる。土煙を巻き上げながら建物や瓦礫ごと周囲を吹き飛ばしていく、テールスイング一発でこの被害なのだ、シャレにならない。

「テールスイングに気を付けて、あんなの喰らったら一撃でスクラップだ」

 テールスイングにより更地が出来上がる。身を隠す遮蔽も無くされよろしくない、そんな状況で急にエキドナはのけ反り天を仰いだ。これはまずい気がする。

「ゲンジさん避けて!!」

 俺はゲンジ機を押し飛ばし自分もその場を飛び退く。次の瞬間エキドナの吐き出した紫色のブレスがさっきまで居た場所を飲み込んだ。

「バラット殿!?」

「大丈夫ですっ!」

 ギリギリ避け切れなかったらしく右側のブレイクシザースが腐食しバラバラと崩れ落ちた。

「腐食ブレスですね、喰らったら終わりだ……」

「厄介ですな」

「きますよ!」

 ティアの声が響くと同時にテールスイングが飛んできた。スラスターを吹かして振り回される尻尾を回避するが煙に覆われて視界が奪われてしまった。

「奴は?」

「見えません」

 煙がはれるのを待ちながら合流してきたティアさん達と周囲を警戒している。

「煙がはれます」

 しかしその場にエキドナの巨体は無かった。

「居ない!?」

「レミィ、場所は!?」

「え? いますすぐ近く、バラットさん後ろです!!」

 その声に咄嗟に振り向くと光が屈折してエキドナの巨大な口が姿を現した。

「聞いてねぇ!!」

爬虫類には周りにとけこむために肌の色を変える種類は居る、だけどこの巨体で光の屈折で姿を消して移動するのは反則だろうが!!

「バラットさん!!」

 シザースと腕で上顎を押さえ下顎を右足で踏みつけて左足で踏ん張りエキドナの動きをどうにか押さえる。

「バラット殿今しばらく!」

 ゲンジさんは新たに武器を投下してもらったらしくバーストランスを構えていた。バーストランスは突き刺した対処にパイルバンカーのように爆発による推進で深く突き刺さり更に内部で炸裂し大ダメージを与えるという武装だ。

「三方向から一気に行きます!」

「ゴー!」

 エキドナの腹部目掛けて三機のレクティスがバーストランスを突き立てる。爆発により深く刃が突き進み、炸裂を起こす。

「図体がデカすぎて火力が足りないっ」

 攻撃に合わせてこっちもエキドナの口内に頭部と胸部のバルカンを掃射するが全く効果が無い、耐久度が高すぎる。

「しかし、このままランスで削り切るしか」

 しかしその時、機体にアラームが鳴り響いた。コアの稼働率が急激に低下してきたのだ。

「こんな時にっ」

 パワーが下がりエキドナの口を押えていることが不可能になってきてしまう。しかも動きたくても動けない、こんな時にパワーダウンとかなんの冗談だよ! 全く笑えないっ!!

「バラットさんごめんなさい!! 上手くよけてくださいね!」

 ティアの声が聞こえ機体の位置を確認すると俺の後方、エキドナの正面に位置取り四連装の大型ミサイルランチャー、ギガントXを構えていた。

「大丈夫、撃ちこめー!!」

 ギガントXのミサイルがエキドナの口内目掛けて飛び込んでいき爆発を巻き起こす。俺はそのタイミングで手を放しスラスターを全開にして口元から飛び出した。しかし向こうもタダでは逃がしてくれなかった、押さえていた右足を噛み千切られてしまった。

「ぐあっ」

 噛み千切られた衝撃でバランスを失い地面に叩きつけられてしまった。

「バラット殿ご無事ですか?」

「どうにか、でも機体がヤバいです」

 どうにか回復させないとと機体を操作しているが戻る気配はない、しかも戻ったとしても片足の無い状態では無謀か……

「爆発のダメージもありますけど、元々持ってた不安定状態のコアがここにきて」

「とにかく我らでどうにかします、バラット殿はいったん撤退を」

「了解です」

 とは言うものの機体のダメージが思ったよりもひどい無理な受け止め方をしたせいか関節のダメージが大きい。

「スラスターは動くか? 出力は、回復しないか……」

 周りを見るとティアさんやゲンジさんが距離を取りながら慎重に攻めているがあの巨体だ、なかなかダメージを与えられていない。

「バラット、平気?」

 ミコも前線に合流してきた。

「ミコ、前出て大丈夫なのか?」

「遠距離じゃダメージが入らないしバラットもヤバいでしょ? 南米軍の生き残りはレミィに任せてきたから大丈夫」

  正直コアのパワーダウンも痛いがなにより足を失ったのが致命的すぎる。陸戦での移動部位を失うなんて的もいいとこだ。

「この距離でもダメなの……」

 ミコはスナイパーライフルで射撃を仕掛けるもエキドナは気にも留めていなかった。

「ティアさん!」

 俺はスラスターを全力で吹かしてティアさんの機体を押し飛ばした。

「バラットさん何を!?」

 次の瞬間さっきまでティアさんが居た場所にエキドナのブレスが飛んできたのだ。俺の機体はブレスを避け切れず右腕と残っていた左足を腐食により持っていかれてしまった。

「ぐっ」

 スラスターが生きていてよかった、建造物に勢いあまって突っ込んでしまったがどうにか生きている。シザースと左腕でどうにか上半身を起こすがこれはもう限界かもしれない。

「バラットさん大丈夫ですか?」

 ティアさんが生存確認に近寄ってきた。

「どうにか、ちょっと機体はもう無理そうですけど」

「よかったです、とりあえず後はお任せください」

「バラット、生きてるなら下がってもうその機体じゃ戦えない」

 ミコも援護するように位置を取り牽制してくれている。確かにもうこいつじゃ戦えない、しかし現状エキドナを倒すには明らかに戦力も足りていないどうすればいい……

「バラット様、聞こえますか?」

 そんな時クーナからの通信が入った。

「クーナ? そうだ、ガルーディアをこっちにまわせるか? 俺の機体がもう限界で……」

「ただいまそちらに向かっております、急いでこちらの指定座標におこしください。貴方の最強の剣をお持ちいたします」

 ガルーディアじゃない? とにかく現状を打開できる手段はあるということでいいのだろう。

「信じるぞ! 皆ちょっと任せた!」

「了解」

「お任せを!」

 ミコとティアに援護してもらいながら俺はコックピットを開き、指定された座標へと全速力で走り出したのだった。

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