第29話

「皆、準備はいいかい?」

 ザラタンは南米西部の港町に到着した、ここはバジリスクの被害を受けたエリアとの境界線に位置していて多くの避難民が集まっている。つまりここにバジリスクが侵攻するととてつもない被害になるということだ。

「防衛は南米軍のレクティスに任せるとして討伐は私達だけ?」

「一応向こうの軍隊も出るみたいだけど餌を増やすのもあれだしあてにはしない方がいいかなぁ」

 バジリスクの主食は石である。つまり対象を石化させる能力は自分達の餌を作っているということなのだ。

「第一陣は南米軍らしいですぞ? 我々はその後の発進となります」

「お手並み拝見ってやつかなぁ」

 しばらくして戦車、戦闘ヘリそしてレクティスで編成された南米軍が先陣を切りバジリスク討伐に発進した。

「ティアさん達は初陣ですし無理はしないでくださいね」

「大丈夫です、退き際はわきまえておりますので」

「一応ウォンバットによる支援部隊の編制もできています。後方はお任せください」

「それでは皆さん発信ですぞ!」

 ザラタンの甲板でスタンバイしていた三機のスカイキャリアーが飛び立つ。前衛を受け持つ俺とゲンジさん、影虎組、後方組のミコとレミィを乗せた構成だ、今回はスカイキャリアも高高度で待機し状況に応じて武装や補給などの支援を行うのだ。

「やってるね」

「予想通りというかなんというか劣勢だね」

 上空から南米軍の戦闘を見ているとやはり石化対策のできていない戦車やヘリが石にされて撃墜されている。レクティスは善戦しているが格闘戦の訓練をしていないようで至近距離ですらアサルトライフルでどうにかしようとしてジリ貧になって行ってる。

「ミコとレミィは残存機の支援してあげて、ティアさん達は俺らが撃ち漏らした敵をお願いします」

「了解」

「了解しました」

「ヘイトウェーブ準備完了、ゲンジさん行きますよ!」

「承知!」

 ヘイトウェーブ、魔獣を不快にさせる電波を発信して敵視、注意を惹き付ける装備でドロイドには基本装備として用意されているシステムである。ただしヘイト管理をミスすると集中攻撃を受けてピンチに陥るため注意が必要なのだ。

「発進!」

 フライキャリアーの後部ハッチが開き外へと機体が放出された。自由落下しながら地上の状況を確認する、バジリスクは結構な数が居る。しかしゲームでは石化対策さえしっかりしていればそこまで強力な敵ではないためどうにかできるだろう。

「ウェーブ起動、こっちだトカゲ共!」

 地上が近づいたタイミングスラスターを吹かして制動を掛けて落下の勢いを無くし着地する。近くに居たバジリスクに挨拶代わりのショットガンを浴びせて吹き飛ばしながら。

「行きますぞ!!」

 ゲンジさんは着地と同時に薙刀を振り回し周囲のバジリスクを吹き飛ばし、背部から伸びるガトリングキャノンが轟音と共にハチの巣にしていく。両肩には盾、脚部、胸部には増加装甲とあちらも負けず劣らずのフルアーマーである。

「ブレイクシザース起動、こっちも行くぞ!!」

 飛び掛かってくるバジリスクをシザースで掴み、そのままショットガンを浴びせて投げ飛ばし。後ろから襲い掛かるバジリスクを反対の鋏で掴み、左から来るのはブレイカーエッジで貫き正面からくるならショットガンと複数のバジリスクを一気に倒していく。魔獣には外皮や鱗が硬く銃撃や爆発が効かない物も多いがあくまでも遠距離の話であり至近距離で撃たれればちゃんと死ぬのだ。

「ハローアミーゴ、今のうちに残存勢力をまとめて」

 着地したミコはスナイパーライフルでバジリスクを精確に撃ち抜きながら南米軍に淡々と話しかける。

「ミコさん、急にそんなこと言ったら困惑しちゃいますよ」

「向こうの人達ならこの位のノリの方がいいと思って」

「あはは、南米軍の皆さん、敵の位置を共有いたします。弾薬の補給を行い、態勢を立て直してください」

 レミィはすでに周囲にドローンを飛ばしてバジリスクの位置を把握し、データを全機に共有していく。

「流石ですね、私達も戦闘のプロというところを見せなければ」

 ティアさん達もストライクカタールでバジリスクの頭部を貫き、確実に仕留めていく。元々近接戦が得意な彼女達のために格闘戦重視で教えたかいがあった。

「狙撃が前線にくるようになってる、後ろは立て直せたみたいですね」

 右から飛び掛かってきたバジリスク鋏で掴み地面に叩きつけ、正面のをショットガンで吹き飛ばす、ヘイトウェーブのおかげでひっきりなしに襲い掛かってくる。

「まぁこのくらいなら一日でケリがつきそうですな」

 ゲンジさんの方も次々と薙刀でバジリスクを斬り裂いていく、実際まだ繁殖は始まっていないようだしこの調子でいけばすぐにケリがつきそうな感じではあった。

「ゲンジさん下がって! なんか光った!!」

 誰だ余裕とか思った奴は!! 日差しを吸収してその体をキラキラと煌めかせながら飛び掛かってくる奴を左右二本の挟みでどうにか掴み抑え込む。通常の奴より大きい……

「レミィ聞こえる?」

「はい、バラットさん!」

「ダイヤモンドヘッドが居やがった、何処からいけるか調べられる?」

「了解です、少々お待ちください!」

 比較的柔らかいはずの腹部にショットガンを撃ち込むが撃ち抜けない。

「くっそかてぇ……ゲンジさん、ちょっと雑魚お願いします!」

「お任せを!」

 ダイヤモンドヘッド、通常バジリスクは石を主食としているが稀に宝石や鉱石を食べてその性質を継承する突然変異が現れる。ダイヤモンドヘッドは文字通りダイヤモンドを主食としているため異常なほど硬いトップクラスで厄介な変異体である。ちなみに通常種の特性も持っているため燃えないのも厄介。

「動くなこの馬鹿力がぁっ!!」

 どうにか押さえつけているが向こうもタダではやられてくれない、ものすごく暴れてくるのだ。鋏もギギギと鈍い音を立て始めているこのままではまずいっ!

「お待たせしました、データを送りますのその通りに切断お願いします!」

 レミィからの通信と共にスキャンされたダイヤモンドヘッドのデータが送られてくる。

「ありがと!」

 データに従い角度を合わせ下腹部へブレイカーエッジを刺し込み斬り開きその切り口からショットガンを連射して叩き込む。悲鳴のような咆哮を上げながらしばらくして動かなくなった、外皮がいくら硬いと言っても内臓に直接攻撃されたらひとたまりもないのだ。

「まだいけるかな、フライキャリアースーツケースを!」

 シザースの稼働や残弾を確認しながら上空で待機しているフライキャリアーに要請を飛ばす。しばらくするとドロイドサイズのスーツケースが投下されてきた。

「ゲンジさん、正面一掃しますよ!」

「承知!」

 俺とゲンジさんは投下されたスーツケースを開く、中身はミサイルポッドとなっていて展開すると同時に正面に一斉射を開始する。今回のミサイルは先端がドリルのように回転する貫通力重視の構成で敵に喰い込み内部で爆発するというものである、欠点は長距離射程では使用不可能な点だろう。

「スピンミサイルは効果ありますね」

「数も大分減ってきましたな」

 スピンミサイルの掃射で正面に集まっていたバジリスクはあらかた片付いた。

「バラット、こっちの方もだいたい終わったよ」

「こちらにも反応はありません」

 ミコとティアさんから連絡が入ってくる、どうやら周囲に居たバジリスクは一掃できたようだ。

「レミィ周囲索敵お願い」

「了解です」

 後方に居た南米軍が前線まで出てきてしまった。生存者の捜索など向こうもやることはあるのだろうが大丈夫だろうか? 正直心配はあるが敵は一掃できているし一匹二匹くらいなら対応できるだろう。

「ダイヤモンドヘッドみたいな変異種はもう居なさそうですし大丈夫でしょう」

「ですかね」

 あんなめんどくさい変異種大量に居られたら困る。

「石化させるバジリスクの狩場じゃ生存者は絶望的かもね」

 一応石化を解除する薬も魔法もある、しかし砕けたり損傷してしまっている場合その部分は戻らない。つまり首など急所が損傷している場合は蘇生不可能なのだ。

「こうやってみるとドロイドって瓦礫の撤去とか救助にも役立っているんですな」

 こういう救助活動も人型であるからこその運用であろう。重機を持ち込めない場所にも入って行けるし考えてみると人型ロボットというのは利点が多いのかもしれない。

「皆さん警戒を!」

「レミィどうしたの?」

「展開していたドローン数機との通信が途絶えました、おそらく撃墜されたのかと」

 聞こえていないのか南米軍は捜索を続けている。

「レミィ、周囲警戒を続けて」

「了解です」

 ショットガンのマガジンを換装して周囲の警戒をする。

「超大型の生体反応検知っドローン破壊されました」

「場所は!?」

「少しお待ちを……正面? 目の前です!」

 次の瞬間轟音と共に爆風が巻き上がりビルが倒壊していく。爆煙の中から奴はその巨体を現した。

「エキドナ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る