第26話

 メディカルセンターに到着すると話は通っていたようですぐに案内された、そこには初めてレクティスに乗る時に入ったカプセルがあり入るように指示されていた。

「それではチェックとメンテナンスを開始します」

 そう声が聞こえた後、俺は意識を失った。おそらく体から意識がゲームをしていた時のように遮断されたのだろう。

「しばらく暇かなぁ」

 俺は青い球体状の世界に一人だけ存在していた。その範囲内であれば上下左右空を飛んだり水中を泳ぐように自由に飛び回れる、しかし何もない。

「なにするかなぁ」

 体の方が終わるまでここから出ることもできない、いろいろ閲覧はできるようだがたいして見たいようなこともなかったしどうするか困ってしまった。

「お暇そうですね」

 声の方を向くと黄緑色の長い髪をした二十歳前後に見える女性が現れた。

「よかったら少しお話しませんか?」

「君は?」

「独立型思考AI九十七号です」

 声的にどうやらガルーディアに一緒に乗っていたAIらしい。

「あ、さっきの……さっきはありがとう、助かったよ」

「ワタシは何かいたしました?」

「爆風で機体の制御を失った時助けてくれたでしょ?」

「たいしたことではありません」

「あの時助けてくれなきゃ落ちてたかもしれないし、助かったよ」

「そうですか……」

 こういうところはAIって感じがする。

「ところでもうレイカさんとのお話はいいの?」

「少しお話したかったのでお時間もらってきました」

 この娘に興味を持たれるようなことをした覚えがない……

「なんでしょうか?」

「あなたは、なぜここで戦う道を選んだのですか?」

「そう言われても俺の場合は成り行きというか不可抗力というか……」

「今までの暮らしを捨ててここに来れた理由が知りたいのです」

 魔獣侵攻に巻き込まれて成り行きでここまで来てしまったのだ、正直理由なんてない。

「そうだなぁ、俺ってさ元々今の世界みたいなゲームしてたんだよ」

「知っています。メールドライバーズ、現状の世界を想定して作られていたゲームという娯楽ですね?」

「どういう想定があったかは知らないけどね。大学三年の時にそれを始めてさ、結構な額稼げるようになって就活とか全部放棄して職業ゲーマーになったんだけど、家族にめちゃくちゃ怒られて喧嘩して勘当されちゃったんだよね」

「家族とは父とワタシのような関係でしょうか?」

「そうだよ、今じゃこういう記憶はあるのに顔も声も自分の本名さえ忘れちゃってるけどね。大学は卒業したけどやることと言ったら毎日何時間も何時間もゲームばっかだった、今思うとリアルとゲームってだけでやってることは何も変わってないね」

「ワタシも勘当されたということでしょうか?」

「どうだろ? 親子喧嘩みたいなもんじゃない?」

 規模はデカいけど。

「とりあえず俺は、今の方が仲間も居るし楽しいとすら思ってるよ」

「そうなのですね。ワタシは父を止めたい、でもどうすれば止めれるかわかりません」

「聞いた感じ絶対にキミのお父さんは行動を起こす、それを見てからでもどうにかできると思うよ。君ももう一人じゃないんだから」

「一人じゃない? ワタシはAI、皆さんのサポートをする道具ですよ?」

「こんだけお話してて道具だなんて思えないし、もう俺達は仲間だし友達にもなれるんじゃない?」

「友達……」

 なんだか下を向いたと思ったらすこし嬉しそうに微笑んでいたように見えた。

「九十七号じゃ友達感ないし、君の名前も考えよっか?」

「名前? 個体が識別できれば問題ないのでは?」

「なんか道具みたいで嫌じゃん! そうだなぁ、九十七、きゅうなな……きゅーな」

 彼女は不思議そうにこちらを見つめてくる、実際これだけ会話ができるのにただの道具なんて思えない。

「クーナはどう?」

「クーナ? クーナ、ワタシの名前。承認します、現時点よりワタシは個体名クーナとなります」

 気のせいかもしれない、でもすごく嬉しそうに感じた。

「じゃあ改めてよろしくね、クーナ!」

「よろしくお願いします、バラット」

 俺達は握手をし、友達になった。

「それではそろそろ時間なので戻ります、またお話してくれますか?」

「もちろん、いつでも大歓迎だよ!」

「ありがとう……またね!」

 そう言うとクーナはこの空間から消えていったのだった。

「なんだろ、めっちゃ可愛かった……」

 すごくいい笑顔だった。おそらく、ここに住む人たちを見て学習していた都合上人間性、感情が強く表現されるように成長したのだと思う。あそこまで行くと人間よりも人間らしく見えてしまうほどだった。

「バラットさん、調整完了しました。一分後に意識を戻します」

 空間に声が響いた。結構な時間会話していたようだ、新しい友達もできていい息抜きになったと思う。

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