第25話
夜明けのようだ、朝日が眩しい。脱走者の追跡を終えて帰る頃には朝になっていた。
「疲れた……」
しばらくして格納庫が見えてきた、どうやらまだ慌ただしく動き回っているようでたくさんの人影が見えた。
「レイカさんも来てるのか」
格納庫の中でレイカさんとティアさんが手を振っているのが見えた。二人の目の前に機体を着陸させ、片膝をついて降りようとしたその時。
「あ、バラット君悪いんだけどそのままで」
「え? あ、はい」
降りようとしたらコックピットから出るなと言われてしまった。
「そろそろあなたの事教えてもらってもいいかしら?」
レイカさんが急に俺に向けて、いや、ガルーディアに語りかけていた。
「……」
「レミィちゃんへのメールやダミーの走っていない正確なデータの提供、あなたがやったんでしょ?」
やはりダミーがはられていたようだ。
「父は、徳永博士は居ましたか?」
機械的な女性の声が聞こえた、どうやらガルーディアから発せられてるらしい。
「残念ながら捕縛した研究員の中にドクター徳永は居なかったわ」
「そう、ですか……」
「さっき分かったんだけど、フライキャリアー三機の他に小型潜水艇が一機消えていたことがわかったわ」
どうやらもう一つ脱出経路があったようだ。
「ワタシが介入することを予想されたのですね……」
「おそらくね、で、あなたのことを教えてもらっても?」
「ワタシは97号、徳永博士の開発した自立思考型AIです」
なんと、AIがこの騒動のリークをして阻止しようとしていたのだ。
「どうして生みの親を止めようとしたの?」
「父は、父の思考は危険です。あの人はたくさんの人々の笑顔を奪う、そんなことさせたくなかったのです」
なんか人間みたいだ……
「父はAIに完全制御された世界を望んでいました。それは人間はAIの指示に従って動く完全効率化の世界、それを外側から観察したいと望んでおりました」
「新世界の王にでもなりたいのかしらね」
腕を組み呆れたような顔をレイカさんはしていた。
「世界を安全で効率的な物に作り替えたいと呟いておりました」
「あなたはそれに反対だったの?」
確かに自分を作った張本人の思想を否定するものなのだろうか?
「私は試験的に自立思考性を最優先にこの島限定で制限はありましたが放任されておりました」
「独学でどういう成長をするか確かめたかったのね」
「はい、結果ワタシはここで暮らす人々、働く人々の笑顔をたくさん見てきました。これが守るべきものなのだと感じたのです、しかし父の理想にはこれが無いと感じました」
「だから阻止しようとしたの?」
「父はおそらくたくさんの笑顔を奪うでしょう、それを阻止したかったのです」
確かに居住区の人達はいい笑顔で笑っていたなぁと思いだした。
「なるほどね、で、あなたはこれからどうするの?」
「父を、ドクター徳永を止めたいです」
自分の意思をしっかり持っている、ここまで成長するともう人間と変わりないなと実感するほどだ。
「なら私達に協力してくれない? それが一番の近道になるだろうしあなたの言う笑顔を守ることもたくさんするわ、どう?」
「……わかりました、あなた達に従います」
「ありがと、詳しい話をしたいから私のタブレットに移ってもらってもいい?」
「了解いたしました」
話はまとまったらしい。
「あの、俺はそろそろ降りてもいいのでしょうか?」
「あ、ごめんなさい! もういいわよ、AIちゃんがバラット君を降ろした途端に徳永を追いかけて行ったら困るから乗っててもらったの」
確かに止めるためにすぐに追いかけて行っても不思議ではなかったかな。
「なるほど」
俺はコックピットから降りて背伸びをしながらガルーディアを見上げる、エメラルドのような緑の機体が朝日に照らされてきらめいていた。やっぱこういう背景とロボットは絵になるなぁ。
「あ、バラット君はこの後メディカルセンターに行ってね」
「急になんですか?」
「この前、アンチチャーム起動したんでしょ? そのせいで体内のナノマシンに損傷がないかチェックするの、こっちも初めてのことでどうなってるかわからないのよ」
なんだかすごく怖いことを言われた気がした。
「わかりました」
「じゃあティア、脱走者の処理は任せるわね」
「了解いたしました、お任せを」
とりあえず俺はメディカルセンターへと向かうことになったのだった。
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