第24話

「バラットさん、起きてますか?」

 ベッドでゴロゴロしていた時、急に声が聞こえた。そろそろ十二時をまわるころだった。

「レミィ? 起きてるよ、どうぞ」

「失礼します」

 レミィはタブレットを抱えながら部屋に入ってきた。

「あの、すみません。実は見てほしいものがありまして」

「なに?」

「これなんですけど」

 そう言うとレミィはタブレットを見せてきた。そこには一つのメールが映っている。

「メール? どうか父を止めて欲しい?」

「さっきこのメールが来てることに気づいたんですけど皆さん寝てるようで……」

 どうやら相談しようにも近くに居る人は俺以外皆寝ているようだった。

「差出人不明、このデータは?」

 そのメールの差出人は不明、何かのデータガ一緒についているようだった。

「これはどうやらこの基地の機体管理システムのようです」

 流石レミィといった感じだろうデータの方はすでに解析、理解していた。

「あれ? この点滅ってなに?」

「えっと、点滅はその機体の稼働を示しているようです」

 少し嫌な予感がした。メール内容、このデータが示す意味とは……

「レミィ、今日、こんな深夜に出撃予定の部隊ってある?」

「えっと、ちょっと待ってください」

 レミィはタブレットを操作して状況を確認していく。

「ありません……」

 俺は座っていたベッドから立ち上がりDギアの電話機能を起動させる。

「もしもし、ティアさん起きてますか?」

「バラットさん? こんな夜中にデートのお誘いですか?」

「そうしたいのはやまやまなんですけど、今レミィに謎のメールが送られてきて、それについてたデータによると出撃予定の無い機体が動いているようなんです」

「場所はわかりますか?」

 ティアさんは状況を理解してくれたようだ。

「レミィ、場所わかる?」

「えっと第三格納庫のフライキャリアーが三機起動しているみたいです」

「影虎は至急行動開始しますレイカさんにそちらは連絡を」

 そう言うと電話は切れた。

「あの、どういう?」

 レミィは不安そうに俺を見上げてくる。

「予定にない機体の稼働、報告もなにもなし。つまり奪取された可能性が高いということになる」

「レイカさんに連絡お願いしていい? 俺も第三格納庫に向かう」

「わ、わかりました」

 俺はジャンパーを羽織り走り出した。

「ちょっとバラット君!? 今レミィちゃんから連絡受けて確認したけど異常なんて何もないわよ!?」

 通路を走っているとレイカさんから通信が飛んできた。

「でも、レミィに送られてきたデータでは起動してるんですよ、ダミーでも貼られてるんじゃないですか?」

「えぇ? ここのセキュリティは超高いのよ? そんなことできるわけ……まさか、内部からの裏切り?」

「とりあえずティアさん達には先に動いてもらってます、俺も第三格納庫向かってますから、もう一度調べてみてください!」

 話しているとティアさんからの通信が飛び込んできた。

「会話中失礼します、レミィさんの情報が正しかったようですよ、第三格納庫でフライキャリアーで脱走を図っていた数名を捕縛しました。AI開発チームの一部のようです」

 やはり対人においてはティアさん達の仕事は早い、さすがだった。

「あんのバカ共!! そのまま全員拘束して、こんなことして何をしでかすかわからないわ!!」

「ティアさん!」

 俺も第三格納庫に居るティアさん達に合流すると起動していたフライキャリアーの前に拘束された研究員達が俯いていた。

「これで全部ですか?」

「これから周囲も調べて潜んでないか確かめるところです」

 その時だった、轟音を響かせ二機のフライキャリアーが固定具を無理やり引き千切り動き出したのだ。

「全員退避!!」

 急いで避難するが風圧に数名が吹き飛ばされてしまっていた。

「くっそ、もう乗り込んでたのかよ!」

「ジャベリンは!?」

「ダメです、間に合いません!!」

 フライキャリアーは垂直離着陸ができる機体であるためあっという間に高度稼がれジャベリンの射程圏外まで行かれてしまった。

「困りましたね」

「今からじゃレクティスを用意しても間に合わない……」

 距離をどんどん稼いでいくフライキャリアー二機を見送るしかできないのか……

「隊長、何かが動いています」

 影虎の一人が指を指しながら言う方向を見るとシャッターが開き、一機のドロイドが固定具を解除し突然稼働してこちらにに歩み寄ってくるのだ。

「こいつは、ガルーディア?」

 ガルーディア、レイカー同様空戦をメインに想定されて開発された機体であり頭部のクチバシのような装飾とバイザー、そこから見える二つのカメラアイが特徴的な機体でありレイカーは射撃戦重視でありこちらは格闘戦を重視した構成となっている。

「乗れと?」

 ガルーディアは俺の前までやってくるとコックピットを開き片膝をつき手をさし伸ばしてくる。自分に乗るよう言っているようだった。

「ティアさんこっちのことはお任せします」

「了解です、バラットさんはどうするのですか?」

「俺はこいつで逃げた二機を追いかけます」

「大丈夫なんですか?」

「こいつの性能なら問題ないはずです、では!」

 俺はガルーディアの手に飛び乗った。すると機体は立ち上がり俺をコックピットまで運んでくれた。

「システムはすでに稼働状態、Dギアを接続すればすぐにでもいけそうだ」

 誰がこいつを用意してくれたのかはわからない、しかし今は時間が無い。こいつにかけるしかないのだ!

「システム起動、ガルーディア発進!!」

 Dギアをセットし、俺は機体の翼を展開させて大空へと飛び立つのだった。

「バラット君!? なんでガルーディアで発信してるの!?」

「レイカさん、話は後! とにかく逃げた二機を追いかけます」

「まって、その機体まだ未完成で飛べる状態じゃなかったはずなのよ!」

 と言われてもすでに飛び立ってしまっている。

「もう飛んでます!」

「なんでっ!? OSが、バラット君の戦闘データをベースに構築されている? どういうこと?」

「とにかく落ちたら拾ってください! 行きます!!」

 勢いよく飛び出しておいて今更何もせずに戻るなんて恥ずかしくてできるか!!

「とりあえず、未完成でも何でも持ってくれよ!!」

「お任せを……」

 なんだろう、テンションのせいか機体が答えた気がした。

「装備は大丈夫、弾もある。性能もゲームと同じ、行くぞ!」

 ガルーディアは接近戦を想定して開発された機体だけあってその機動性、運動性は圧倒的な物でありウィングを後退翼のように可動させて速度を上げる。この形態ならば戦闘機とも競えるほどのスピードを発揮できるのだ。

「追いついた」

 俺は脱走した2機のフライキャリアーに追いつき、オープン回線で話しかける。

「速やかに反転して基地へ戻れ、従わなければ撃墜する」

 するとキャリアーのコンテナが開き数機のスカイユニット装備のレクティスが現れた。もちろん全機銃を向けてきている。

「やる気満々かよ」

 俺は再び翼を可動させ運動性の高いアクロバットモードへと移行させ、すかさず最前線の二機に向けて腰に装備されていた苦無型の近接装備ストライクダートを両手で取り出し投げつけ、コックピットを貫いた。

「動きが止まらない?」

 コックピットを貫いたはずなのにレクティスは動きを止めず発砲してきた。機体を操作しランダム回避運動で弾丸を避けながら考える、なぜ落ちないのかを。

「全機……AI制御です」

「なるほど!」

 声が聞こえた気がしたが慣れてない機体に多勢に無勢、それに構っている余裕は無い。俺は背部にマウントされていた近接武装、高周波振動斬撃槍バルダーグレイブを抜刀し一気に敵との距離を詰めていく。

「AIならココが弱点だよな!」

 一番近い敵の上部へと回り込みグレイブで頭部を上から貫いた。そこに近づき撃ち落とそうとしてくる別の機体に左腕を向け腕部に装備されていた二連装マシンガンを撃ち込んでいく。

「これで二つ!」

 グレイブを引き抜いた足元の機体を蹴り飛ばし、頭部を撃ち抜かれたもう一機にぶつけて二機を突き落とし残りの機体に目を向ける。

「残りも二つか」

 夜空を自由に駆け巡り、弾丸を避けながら敵との距離を詰めていきすれ違いざまに胴体から真っ二つに斬り飛ばし、上半身に腕部マシンガンを撃ち込み爆発させて更に一機撃墜する。

「ラストォ!」

 グレイブを敵目掛けて思いっきり投げつける。グレイブはレクティスの胸部を貫き動きが止まった、その隙に接近し装備していた銃、エースハートを奪い取り頭部に弾丸を撃ち込み最後の一機も撃墜した。

「キャリアーはどこ行った?」

 センサーを確認しレクティスを囮に距離を稼いでいた二機のフライキャリアーを見つけた。高機動モードで追いかけ、ライフルの射程に捕らえたところで違和感に気づいた。

「動きが無い?」

 機体を近づけキャリアーに機体を乗せて生体反応をスキャンする。

「生体反応ゼロ? 無人起動?」

 もう一機も確認したがやはりオートパイロット状態で生体反応はなかった。

「とりあえず二機の進路方向を格納庫に戻して……」

「逃げて!」

 声が聞こえた。俺は咄嗟に機体を急上昇させた、次の瞬間二機のキャリアーが爆発したのだ。

「うあぁぁぁぁ!?」

 爆風に飲まれ機体のバランスを完全に失って吹き飛ばされてしまった。

「ぐっ」

 このままでは墜落してしまう、どうにかしなければ……しかしGで体が動かない。

「姿勢制御……少し我慢を」

 また声が聞こえた、そして一瞬体が振り回されたような感覚に襲われた。しかし機体は安定を取り戻し空中を飛行していた。

「安定してる、どうして?」

「バラット君生きてる!? 返事して!!」

「生きてます、死んだかと思いましたが生きてます」

「よかった、とりあえず戻ってきて」

「了解」

 謎は残ってしまったが、俺は機体を基地へと向けて戻っていくのだった。

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