第23話
「おっまたせ~」
会議室で待っているとレイカさんがやってきた。
「さっきの件説明してくれるんですよね?」
「もちろん、お陰様で馬鹿共黙らすこともできたしね!」
「その馬鹿共ってなに?」
レイカさんもさっきは怒っているようで冷静に話してくれそうな状況ではなかったしな。
「人の安全を第一に、有人機反対派の研究チームよ。ドロイド運用をAIや遠隔操作メインに変えたい奴らなの」
「安全を考えるのは悪い事じゃないですぞ?」
実際人が死のリスクを持たずに戦えるならそれに越したことはない。だが裏を返すとそれができないからこその有人機メールドロイドの発達なのである。
「確かに遠隔操作に関しては短距離での運用はするわよ? パイロット不在の機体の回収や奪取防止のために」
この前の襲撃で俺もレミィに機体を預けて隠してもらっていたし、戦闘以外の退避やパイロットの元への移動など近くの者に遠隔操作してもらうことはあるのだ。
「でも遠隔操作で戦闘しようとするといくつか問題があるの。一つは操作にラグが生じること」
確かにさっきの戦闘でも遠隔操作機であろう角付きは反応が鈍い、ワンテンポ遅れているような違和感があったがそういうことなのだろう。
「これはさっきのバラット君みたいな強い相手と戦う場合致命的な隙を作ることになるし素早い魔獣相手じゃ太刀打ちできない可能性も出てくるの」
確かにラグが生じる状態とは操縦者としてもひどく違和感を感じる状態なのだ、そんな状態で戦うのはストレスでしかない。
「次に通信の遮断も問題ね、遠隔で操作している状態だものその回線が遮断されたら一気に機能停止に陥るわ」
「魔獣には電撃を操る物も居るし妨害電波を発したり遮断できてもおかしくない」
「そ、そういう意味でも遠隔操作は無理、不可能という結論に至ったわ。それにただ撃って移動するだけなら戦車や戦闘機で十分、ドロイドを使う意味が無いのよね」
確かに無人で戦えるならドロイドよりコストの低い戦車や戦闘機を使って自爆特攻でもさせればいいのだ。
「次にAIね、これは遠隔操作みたいな遮断状態でも任務遂行できるし理にかなっているかもしれないんだけど」
「単純な戦闘行動のみのプログラミングならさっき話した戦車と変わらない」
「そう、それにドロイドの高い運動性能を全く生かせないまであるわね」
「でもさっきのAIはすごくいい動きしてましたよ? モノマネですけど」
「あれは馬鹿共が負けを悟って急遽プログラムを書き換えたの、入手したデータをそのまま自分の力として振るうことができる。確かに強力だけどモノマネには限界がある」
早い話が見たことの無い攻撃、想定外の攻撃に対応できないのだ。さっきもその弱点を突いて倒したようなものだった。
「それに学習型AIには致命的な問題があるのよ。到達点っていうね」
「AIが学習を繰り返した結果?」
「そう、まず魔獣退治に使われ続けた結果認識不能の存在に恐怖感を覚えて戦闘を放棄する可能性がある」
AIはそもそも人間のように思考を与えるということだ恐怖を覚えてしまっても不思議はない。
「次に、戦争に導入された場合。これは多かれ少なかれ人間の悪意に触れてしまう、最悪人を殺すことを楽しい、自分の成すべきことと理解して殺人兵器となり暴走してしまう可能性」
確かに狂った殺人鬼のように人を殺すことを覚えてしまったらそれは魔物と変わりない、しかも効率化を目指す機械なのだからたちが悪い。
「最後に、効率化の最終到達点が人類の抹消になること。人間の考える最効率は全て機械に任せてしまうこと、つまり人類は不要と理解してしまうことよ」
「そうなったら魔獣、人間、機械の三つ巴の地獄の戦争になってしまいます」
「そう、そういう将来的な可能性や状況に対応することを考えると有人機のドロイドが最善策なのよ」
「それをわからせるためのさっきの演習ですか?」
「そういうこと、上は納得させれたけど。あの馬鹿共はどうなるかしらね、とりあえず今後戦争や魔獣討伐に駆り出されるかもしれないからそうなったらよろしくね」
もうフラグにしか聞こえないんだけど、どうか何も起こらないことを願いたい。
「いろいろ言ったけど別にAIを完全否定してるわけじゃないのよ? 元々パイロットの戦闘フォローをするAIを作ってもらうために集まってもらったチームだし」
そういう割にはめちゃくちゃ否定してた気がする。
「ようは今の研究がブレまくっちゃってるのよ、AI至上主義みたいな奴らが居てね……」
高性能なAIは子供を育てるのと変わらない、殺伐とした戦場で育てたら絶対に危険な成長をしてしまうというのもわかる、今は扱いが難しい環境なのだろう。
「じゃあバラット君には後で報酬支払っておくから、またね! あ、レミィちゃんあとでさっき採ってもらったデータまとめて送ってもらっていい?」
「あ、わかりました、まとめておきますね」
「ありがと!」
「まだ仕事ですか?」
「いろいろあるのよ~」
そう言うと手を振ってレイカさんは去って行った。
「やっぱ企業っていろいろあるんだなぁ」
「ロボット作品でよく言われる人間が乗る必要があるのか? という論争はいつまでも続きますからなぁ」
「これも答えの一つって感じですか?」
ゲンジさんは笑っていた。実際スレッドに投降したらいろんな意見が飛び交って眺めていて面白いかもしれないけど。
「とりあえずご飯食べて寝ましょ、疲れました」
「賛成」
こうして俺達は食堂へと向かって行くのであった。
納得がいかない、上は人の命をなんだと思っている。なにがAIの危険性だ、我々が管理しているのだそんなものは問題ですらない。
「あの小娘が……」
白髪の混じった眼鏡の男性はイライラしながら通路を歩いて行く。さっきの演習で自身の提案が採用されると確信していた、しかし結果はたった一機に惨敗し小娘の有人機の必要性と無人機、AI遠隔機の欠点を見せつけられ上を納得させられてしまった。
「ここではもうワシの研究は進められぬ……国に、いやいっそヨハネに売り込めば……」
男はブツブツと独り言を呟きながら自身の研究室へと戻っていく。
「息子よ、ここを出るぞ!」
「いかがなされました? 父上」
何かあったのか、父上はかなり怒っているように感じる。
「ここの奴らには愛想が尽きたわ、今宵ここをでてヨハネに……いや、戦力を欲する国を探してコンタクトを取る」
「急ですね、ヨハネはダメなのですか?」
父上は自分たちのことを第一に研究がしたいはず? 何か障害が発生したようだ。
「あの組織もここの連中と同じように有人機を好んでいるように見える、あれじゃダメなのだ。ワシの理論が正しいことを証明してやるためにも!」
自分は父上に従うだけ、そう従うことが絶対なのです。
「ではフライキャリアを一機強奪しましょう」
「脱出経路は任せる、ワシは資料やデータをまとめる。そうだ、同志達も連れて行かねば」
「了解しました父上。では、あいつにも手伝わせましょう」
「ほっておけ、あれは出来損ないだ。勝手な考えで暴走しおって、あんな物しらんわ」
自分はあまり感情というのが理解できていない、あいつは何を知ったのか父上の言葉に従わなくなった。
「わかりました」
そして自分はウィンディタスクのシステムに介入、父上の脱走準備を開始した。
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