第16話

「撤退した?」

「突然どうしたのでしょう、まるで頭を破壊されたのが嫌だったようですね」

「とりあえず、助かったみたいだね……」

 そうとう無理をさせたらしく機体からはどうしようもないくらアラート音が鳴りまくっていた、これ以上はとてもじゃないが戦えたものではなかった。

「皆さん無事ですか?」

 レミィから通信が入る。

「レミィ奴のこと追える?」

「ごめんなさい、無理です森林に姿が消えたところからレーダーに引っかからなくなりました。何かしらのステルス機能があるのかと」

「この状況で追うってのも無謀だけどね」

 俺の機体は無茶させ過ぎて行動不能、ミコとゲンジさんも片腕損失して全体的にもダメージが蓄積しているようだし無事なのは後方支援機のレミィだけという状況じゃ追えても戦うなんて不可能だった。

「フライキャリアーを要請しました、皆さん撤退しましょう」

「了解」

 作戦は成功した、しかし奴が理由はわからないが急に撤退しなければ戦闘は敗北と言ってもいい状態だった。

「次は負けない」

 機体のせいになんてしない、戦い方はいくらでもあったはずだしゲームではレクティスを使いこなし格上を倒す人だってたくさん居たのだ。この悔しさは自分を強くしてくれる、たまたま運よく生き残っただけかもしれないが次があるのだ。

「うん」

 ミコも同じ気持ちのようでただ頷いてくれた。

「とにかく、生きていることを喜びましょう」

「そうですね、帰りましょう」

 そして俺達は到着したフライキャリアーに搭載されザラタンへと帰還するのであった。

 密林の奥、追っては来ていないらしい、実際狙撃手が居るようだが前衛が満身創痍の状況で追ってくるほど愚かではないということだろう。男は機体を降りて頭部を確認する、そこには仮面の左半分に刃が突き刺さり角も片方折れていた。

「どういうことだ?」

「あら? 気付いていたの?」

 男が声を掛けると物陰からアザリアが姿を現した。

「羅刹が暴走どころか発動すらしなかった、頭部が破壊されたのに何も起きないのはどういうことだ?」

「最初に言ってたでしょ? プレビオスオーガは未完成だけどそれでもいい? って羅刹はそもそもまだ完成してないし、搭載する段階じゃなかったのよ」

「肝心なことは何も知らされていない、ふざけるのもいい加減にしろ」

「いや~んこわ~い」

 サキュバス女はおちゃらけて見せる。

「でもこの子優秀だったでしょ?」

 アザリアは機体を撫でながら聞いてくる。こいつはこれでも兵器開発責任者の一人らしい。

「ああ、前鬼は優秀な機体だった。戻ったら完成させろ」

 今までに乗ったことの無い圧倒的な性能、だからこそ今回の結果は納得いかなかった。

「わかってるわよ、でもあの試作品の腕を壊すのはもったいなかったんじゃない?」

「敵に回収されるくらいなら破壊したほうがマシだろ?」

 一応回収するつもりでいた、しかし奴らの強さが想像以上で左腕も損傷し異常がでてしまったあの状況では破壊するしかなかった。

「まぁ、そうだけど~魔導機って作るの大変なのよ? 生贄や実験台も全部逃げちゃったし」

 アザリアは手を上げてやれやれとしてみせ、俺は女を睨みつけた。

「……」

「まだ何か不満でも?」

「あの青い刀を振っていた機体、ほかに比べてやけに強くて気になっていた……」

「あぁ、たぶん潜入してきてた奴らの一人よ、結構かっこいい男の子だったから覚えてる、動画みる?」

 そう言うとアザリアはスマホのような端末を操作して映像を男に見せた。

「こいつは」

 その顔には見覚えがある、自分は戦えなかったが大会の試合も観戦したことがある。

「あら、知り合い?」

 アザリアは知り合い居たんだぁ……と言うような馬鹿にした顔をしているが無視する。

「直接は知らない、だが、なるほど……竜使いだったか」

「竜使い? なにそれ」

「奴の二つ名だ、竜使い、ドラグナーバラット。有名なトップパイロットの一人だ」

 奴が好んで乗っていた機体の特徴からいつしかそう呼ばれるようになっていた。腕も間違いなく超一流のトッププレイヤーなのは確かだった。

「そんなのが敵に回ってるなんて残念ねぇ、味方にできたらさぞ期待できただろうに~」

 煽るサキュバス女を睨みつける。女はニヤリと笑っていた、ホント気に入らい奴だ。

「俺は奴より強い! 次にあったら奴を殺して見せる」

 男はヘルメットの中でニヤリと笑ってみせる。強敵を前に、それを倒せるという快感を思い浮かべながら。

「まぁ、頑張ってくださいませっ」

 そう言うとアザリアは翼を広げて空へと飛びあがった。

「帰りましょ? もうここに居てもしょうがないしね」

「承知した」

 男は再び機体に乗り込み起動させた。強がりを言ったが機体はだいぶダメージを受けていて下手をすればやられていたのはこっちだったかもしれない。

「ドラグナーバラット、次は無い……」

 男とアザリアはそのまま姿をくらまし、しばらくして研究所のある場所には大量のミサイルが雨のように降り注ぎ夜の暗闇を朝のように照らしていたのだった。

 フライキャリアーで輸送されている途中、ウォンバットの陸上部隊が無事にザラタンへと帰還したことを聞き安心した。

「皆お疲れ様!」

 甲板ではレイカさんが出迎えてくれた。

「レイカ、さっきその大きな胸を後ろから鷲掴みにされてえぐり取られたんじゃ!」

「ミコ、それは敵のレイカーだ」

「アンタはまた変なこと言って!! レイカーと名前似ててちょっと気にしてるんだからね!!」

 かえって早々ミコとレイカさんがコントを始めたのを見てほっとした。

「とりあえず後のことは任せて今日はゆっくり休んでね」

「ありがとうございます、では休ませてもらいます」

 そうして俺達は部屋へ戻った。思うことはいろいろあった、けれども疲れもあってすぐに意識は無くなって寝息をたてていた。

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