第15話

「なっ!?」

 正面で機能停止していたレイカーが立ち上がっている。違う、胸部に後方から何かが突き刺さり持ち上げられているのだ。

「接近に気づかなかった? センサーは!? 異状ない……」

 俺はスラスターを吹かし距離をとった。次の瞬間、レイカーの胸部が消滅しバラバラと崩れ落ちた。

「データに照合ありません、ゲームにも存在してない新型と思われます」

 レミィの分析が聞こえた。見てきた機体がレクティスやレイカー、ベルデウスとゲームにも存在していた物ばかりだったため考えていなかった。ゲームに存在すらしていない全くの新型機の登場、辰薙やあの右腕のような新装備があるのだ考慮しておくべきだった。

「ステルス持ちか? わからないな、レミィできるだけ情報を収集できるならお願い。他の隠れてる機体が居るかもしれないから索敵も強化を」

「了解しました」

 正面に現れた機体は人型で特徴はレイカーを貫いた異常に巨大な左腕と鋭い爪。頭部には正面向きの二本角に下顎から生えた長く鋭い牙のような装飾に頭の上半分を前と描かれた仮面のようなヘッドギアに覆われていた。

「零鬼や夜叉系の東洋系機体の特徴があるけど見たことない」

 ゲーム内には零鬼など日本甲冑を意識した外見の機体が存在していてその機体の構成に似ている気がする。しかし巨大な左腕といいパイロットを選びそうな異様な形状となっている。

「ミコ、距離を!」

 言いかけた瞬間、敵は俺に向かい距離を詰め、左腕を向けてくる。まずいと感じ咄嗟に後方へ飛びながら刀を盾のように前方に構え刀身の背に左手を添えた。

「くっそ!?」

 次の瞬間機体を衝撃が襲った。そして耐えきれなかったようでバキバキと音を立てて辰薙の刃が欠けてしまった。

「辰薙が緩和してくれた? ということはあの兵器は魔術系ってことか……」

 幸い刃は欠けたがまだ辰薙は使える、それにここで逃げたらティア達に追いつかれて全滅する可能性もある。どうにかしなければ。

「バラット、合わせて!」

 ミコの声に合わせて左手で背部にマウントしていたサブマシンガン、プロットバットを取り出しそのまま掃射する。ミコもそれに合わせて横から同時に掃射をかけた。

「無傷かよ……」

 クロスレンジからの掃射攻撃、普通なら確殺できてもおかしくないのに敵は無傷でその場に立っていた。

「皆さん、重力です!」

 レミィの声が聞こえた。

「あの機体は周囲に重力の壁を発生させています。その壁に弾丸が接触した瞬間に強力な重力がかかり落下し、機体には届かないようです」

「レイカーの胴体が吹き飛んだのは重力で潰したってこと?」

「恐らくそうです。あの機体は重力を操り攻守に使用しているようです」

 俺は弾切れのプロットバットを落とし、そのまま腰のナイフを引き抜き投げつける。すると敵に当たる直前に空中で制止、そのまま地面へと落下した。

「なるほどね」

「めんどくさい能力を……」

「レミィは撤退準備を、ティア達に合わせて先に戻ってほしい」

「え、でも……」

「情報は大事だよ」

 左腕を構え、敵が再び動き出す。

「話は終わり、来るぞ!!」

「二人とも、避けてください!!」

 その声に俺とミコはスラスターを吹かして一気に距離をとった。次の瞬間、煙を巻き上げ轟音と共に無数の弾丸が敵目掛けて飛来した。

「ゲンジさんナイスタイミング!」

 全弾を撃ち尽くし、カラカラと音を立てながら回転するガトリング砲を構えたゲンジ機が立っていた。

「これでも無傷ですか、いやはや厄介ですな」

 煙が晴れた、そこには相変わらず微動だにしない奴が立っていた。しかも無傷で、ゲンジはガトリングをその場にパージし今度は両肩のキャノンを向ける。

「いきますぞ!!」

 ゲンジ機の砲撃を合図に俺とミコも動き出す。砲撃は重力の壁に防がれ爆煙を上げて阻まれてしまう、しかしそれで構わない。それを煙幕に使い俺は距離を詰め辰薙で斬りかかる。

「避けた、やはり魔術的な機能なのか」

 敵は機体を反らし斬撃を躱した。だがそれで終わりはしない、そのまま連続で斬りかかり重力の壁を発動させないようにする。そこへ回り込んだミコの銃撃が狙い撃つ。

「あの機体、あんなにバランス悪そうなのに速い……」

 左右のバランスが見るからに最悪な奴、しかし俺の斬撃を躱しながら更にミコの射撃すら避けて見せる。だがこれで終わらない、ゲンジの砲撃が狙いを定める。

「くっ……」

 斬撃を左腕で受け止めそのまま押し返された。そのまま壁を張ったらしく砲弾も銃弾もすべて防がれてしまった、能力も厄介だが腕自体の硬度も高いようだ。

「厄介すぎるだろ!」

 奴はそのまま左腕を俺に向けて突っ込んでくる。スラスターを吹かして右へと一気に加速して回避しようとする、すると何もないはずの場所で左肩のリアクティブアーマーが作動、爆発した。どうやら奴の重力に触れたらしい。

「なんとなく距離感は掴めてきたか……」

 今のリアクティブアーマーやさっき投げたナイフでなんとなくの重力の範囲は掴めてきた。しかし性能が違い過ぎる、間違いなくワンオフ機のようなコスト度外視のハイスペック高級機だ。正直レクティスには荷が重い相手だ。

「とにかく連携して攻めるよ! 隙を作って一撃撃ち込もう!」

「了解!」

「承知しましたぞ!」

 俺が重力を斬り裂き、その隙をゲンジとミコが狙う。何度も斬りつけ隙を作る、そこを二人が射撃で撃破を狙う。しかしなかなか決まらない、接近戦を挑んで気づいたが脚部にも何かしらの機能があるらしい。地面を滑るように攻撃を受け流す、しかし受け止める時はしっかりと踏みとどまり受け止めて見せる。正直やりにくい……高機動型の運動性、重攻撃型のパワーを合わせ持っているのだ。

「弾がっ」

「こっちもそろそろヤバい」

 二人の残弾ももうない、長期戦は無理だ。後が無い、もう形振り構っていられない。俺は右側にある操作盤をいじりレバーを思い切り引き上げた。

「MAXモード、発動!!」

 ドロイドには自身の出力に機体が負け、自壊しないようにリミッターが設定されている人間と同じように。そのリミッターを外し一時的に機体の性能を大幅にあげることができる、それがマックスモードである。

「乗り切るぞ!!」

 機体の反応速度が一気に上がる。パイロットに掛かる負荷も上がるがこの位どうということない、慣れたものだ。相手に通用するのは辰薙のみ、ならばこれで斬り裂くのみ!!

「レクティスの本領みせてやる!」

 俺は刀を構え重力の壁を無視して斬りつける。敵も防御が効かないことを悟り重力を攻撃に回してくる、だがなんとなく範囲は見えてきた。スラスターを吹かしながら前へ攻め、後ろに下がり、攻撃をギリギリで避けながら回り込んで再び斬りかかる。瞬間的な加速に優れるステップスラスターをフルに活かしたかく乱戦術を仕掛け追い詰める。

「まだまだぁ!」

 回避がギリギリ過ぎてリアクティブアーマーがどんどん起動し破壊されていく。しかしその分機体も軽くなって運動性が上がっていく、俺は一層集中し攻め立てる。どうにかこのまま押し切りたい!

「いけぇ!」

 MAXモードを起動させ攻撃の手を強め、更に先程までと段違いの素早さに敵の動きが明らかに変わる。次第に攻撃を避け切れなくなり左腕で攻撃を受け止める回数が増えていく。つまり隙が生まれるということだ、ゲンジとミコはそれを逃さない!!

「やったか!?」

「バラット、それフラグ」

 爆煙に包まれ、俺達三機は距離をとり様子を窺う。煙の中、何かが動いた気がした。

「全員散開!!」

 嫌な予感を感じ俺は叫んだ。

「うあ!?」

 煙から奴が飛び出してくる。重力波にミコ機の右腕が武器ごと潰される、正面から奴を受け止めようとして爪と刀が激突し、お互いに反動で吹き飛ばされた。

「ぬおぉぉ!!」

 ゲンジ機がその瞬間に距離を詰め、右腕のパイルバンカーを奴目掛けて叩き込む。しかしそれを器用に体制を変えて正面から左腕の重力波で受け止めやがった、いくら重力でもパイルバンカーの純粋な破壊力を真正面から受け止めるとかデタラメすぎる。いや正面方向に重力を向けているのか? パイルバンカーの杭にヒビが入り次第に潰れていく。

「ゲンジさんまずい、離れて!」

「くっ!?」

 鈍い音が響きパイルバンカーごとゲンジ機の右腕が潰され爆発していく。どうにかゲンジさんは横にそれて撃破を免れた、俺はその瞬間一気に飛び込み刀を突き立てる。爪を二本斬り落とし左腕にダメージを与えたしかし、先程の攻撃で限界に達していたか刀身が真ん中からへし折れてしまった。

「まだだぁ!!」

 折れた刀を投げ捨てながら懐に飛び込み一本残っている腰のナイフと左腕のストライクカタールを抜刀し左肩、そして腹部目掛けて斬りつける。鈍い金属の擦れあう音が響き奴の装甲に刃が突き刺さる、全力集中して押し込もうとした瞬間ガクンと急に機体が膝をついた。

「負荷を掛け過ぎたかっ……」

 足の関節が負荷に耐え切れず破損したようでその場で姿勢を保てず俺の機体は座りこんでしまった。

「右足が完全にイキやがった。他の部分も限界かっ」

 気が付くと機体にはアラートが響き各部の限界を示していた。MAXモードは一時的に機体の性能を向上させてくれるしかしなぜリミッターが設定されていたのか。理由はこれだ、使ったが最後機体は限界を超えてその場で障害を起こし動けなくなってしまう、戦闘中これ以上の致命傷は無いだろう。

「奴はまだ平気なのかよ……」

 確かに刃は突き刺さっただが奴はまだ正面に立っている。右腕で左肩に刺さったナイフを引き抜き、左腕の稼働確認をする。そしてこちらに向き直る、選択種なんてないトドメを刺す以外ありえない状況だ。

「くっそ!」

 敵に視線を合わせ頭部のバルカンを撃ち込むが装甲に弾かれて大きなダメージにはならない、せめて関節や駆動系に当たってくれればいいのだが機体も動かない。

「残弾がっ」

 バルカンが弾切れを起こしたその瞬間だった、突然重い銃声が響き渡った。弾丸は奴の額の角を一本吹き飛ばしただけだったがその一瞬が大きかった。

「私だって戦えるんです!!」

 ミコが置いてきたデューナスをレミィが使い狙撃してくれたらしい。奴は二射目を警戒して距離をとろうとしている。

「撃ちまくって!!」

 ミコとゲンジさんがアサルトライフルを構えて全弾掃射して牽制してくれた。ミコは用意してた予備のライフルを、ゲンジさんは大破したレクティスから拾ってきたみたいだった。

「くっそ、あとちょっとなんだよ! 動けレクティス、意地を見せやがれ!!」

 少しでもいいから動いてくれと俺もあきらめずに機体を操作する。奴も銃撃を左腕で防いで重力を発生させていない、ダメージは間違いなく受けているのだ。

「推進剤、残ってるなっ! いっけぇ!!」

 俺は機体のスラスター全開で奴に突撃する。左腕に残ったストライクカタールを構えて一気に距離を詰めていく、もう狙うことすらまともにできない、どこかしらに当たってくれと願いながら!!

 金属のぶつかる音が響き二人の掃射に気をとられて反応が遅れた奴の頭部、左側に刃は食い込む。狙いが高すぎた、腹部や腕部、関節に当たってくれればどうにかなってくれたかもしれないのに……

「だめか!?」

 カタールは突き刺さると同時に刀身が折れ、機体は制御を失いその場で倒れ込んだ。推進剤も尽き、限界の機体に更にむちゃをさせてホントにもうできることが無くなってしまった。

「あいつ、なんか様子がおかしいよ」

 ミコの声にモニターを見ると頭部を損傷した奴は急に後退りしだした。何かに焦っている? 急に距離を取ったと思ったら重力波で転がっていたレイカーの右腕を破壊するとその場を立ち去って行ったのだ。

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