第7話
「では、何処か行きたい場所はありますか?」
「部屋の準備ができるまで時間の潰せる場所はありますか?」
ティアに暇つぶしのできる場所を聞くと少し考えてから尻尾がなみうちニッと笑ってみせた。
「それでしたら射撃場なんてどうでしょう?」
そう言うと部屋を出ていくティアに俺達はついて行った。しばらく歩いて行くと広い空間に台が置いてあり、遠くに的が用意された恐らく想像通りであろう射撃場にやってきた。
「来てから言うのもなんだけど撃っていいの?」
そもそも軍人でも何でもないのに銃なんて使っていいのだろうか? ロボットには乗ったが……
「はい、皆さんは一応パイロット。傭兵という扱いなんでライセンス的にも問題ないです。私や彼女は異世界人でそもそも法律適応外らしいですし」
全く問題ないらしい。
「おぉ、本物触るの初めて!」
ミコは銃に興味津々のようだ。
「お好きな銃を使ってみて大丈夫です、簡単に殺せてしまうので人には向けないでくださいね」
「わかってますよ!」
笑顔でそういうとティアはハンドガンを選び台の場所へと歩いて行き銃を構え発砲し始めた。耳からお腹に音が響いてくる、これが本物の銃なのだ。
「ちょっとやってみようか」
「うん」
俺とミコはベレッタだろうか? スタンダードなハンドガンを選び台で弾を込め、的に狙いを定める。正直現実で触るのは初めてだがゲームでは散々扱ってきている。違和感どころかゲームがリアルな仕様だったおかげで手慣れていた。
「反動も体に響く感じもゲームと一緒、ほんとメールドライバーズってリアルだったんだね」
ミコも同じことを考えてたらしい。実際やけにリアルで前世代のゲームとは明らかに違う感じではあったが、今回の説明で現実で起きる事象のためのシュミレーションだったというならその生々しさも納得だった。
「やっぱ射撃は苦手だなぁ」
狙いをつけ頭、心臓と的の急所部分を狙って撃っていくがなかなか直撃しない。ドロイドのシステムアシスト無しでの遠距離射撃はどうも苦手だ。
「いい感じ」
それに比べて隣のミコを見ると綺麗に急所へ命中させていく。流石の命中精度を誇っていた。
「流石パイロット、銃の扱いも手慣れておりますね」
「お世辞でもありがと」
ミコはともかく俺はよく見ても中の上くらいだろう。
「バラットは近距離の乱戦が強い、中長距離は私の担当」
ゲームでも近接戦で俺が囮兼前衛で突っ込みかき乱しミコが確実に仕留めていくという戦法を取っていた。
「なるほど、戦闘スタイルは個人に合わせているのですね。そういうところも軍とは違うのでしょうね」
ティアは面白そうに分析していた。そんな時、一際大きな音が響いた。
「なかなかの反動ですな、興味深い」
音の方を見ると、そこにはゲンジさんがデザートイーグルを構え発砲していた。しかも片腕で構えて。
「すご……」
デザートイーグルは大型の口径で一般人が撃つと肩が外れると言われるほど反動のすごい銃なのだが、ゲンジさんはそれを片手で操り、見事にヘッドショットを決めていく。
「これくらいで驚くなど、皆さんも筋トレしたほうがいいのでは?」
筋肉マッチョの言葉をスルーしつつ後ろでさっきもらった資料を読み続けているレミーアさんを見やる。
「レミーアさんは……興味なさそうね」
ものすごく集中して射撃になんて興味なさそうだった。
「ティアさんも銃は扱えるの?」
ミコの質問にティアさんは銃をテキトウに手に取り台に付き準備をする。すると片腕で構え頭から心臓へ綺麗な縦線を弾痕で描いて見せた。
「私は、この通りです。これでも陸戦部隊のエースなんですよ?」
ニコッとして見せるその笑顔は少し怖かった。
「さっすが、すごい精度……」
話していると急に銃声が響いた。
「フオア!?」
俺達が撃つのを見て試したくなったのだろう。初めての拳銃に興味津々かつ発砲時の衝撃に驚いてワタワタしているエミリアがちょっと面白かった。
「ミアラ、コラフトア」
それを見てティアが何かを説明しているようだった。実際危ないものではあるし。
「とりあえずここは常時解放されていますので気が向いたらいつでも来て試射してください」
説明を終えたティアはこちらを向きながらそう伝えてくれた。実際ハンドガン以外にもアサルトライフルやサブマシンガンも置いてあるようで今度暇な時にでもいろいろ触ってみようと思った。
「次はそうですね、せっかくですし格納庫でも見てみます? 皆さんの使ってた機体ももう移動されてるかと」
「あ、ちょっと見てみたいかも!」
実際ドロイドなどの兵器の並ぶ格納庫はロマンを感じる、リアルで見てみたかった!
「では行きましょう」
ティアの案内に俺達は再びついて移動を開始した。
「ここがザラタン・セカンドのメイン格納庫です、搭載ドロイドは全てここに収納され、メンテナンスや装備換装などを行っております」
そこはまさにロボット好きにはたまらない光景だろう。レクティスがずらりと並んでいる軽く数えても十機以上はあった。
「レクティスがいっぱい……」
「手前のは我々が乗ってた機体ですな、ほかのと装備が違いますし」
ゲンジさんの言う通り手前には俺達が乗っていたレクティスが収納されメンテナンスを待っていた。
「ゲームでも見たことあったけど、これが現実で見れるなんてすごいな、夢みたいだ」
「パイロットは全機決まっているんですか?」
「いえ、予備機や作業用のワークス機もありますのですべてがというわけではございません」
予備機は戦闘で損傷しパイロットが無事だが機体が使えないなどの場合に使用したり修理の際のパーツを取るなど文字通り予備の機体であり、ワークスとは武器の取り付けや拠点制作、様々な作業をするための装備で戦闘はほぼ不可能な仕様の機体を総称して呼んでいるのだ。
「なぜですか!! 納得いきません!!」
整備風景を眺めていると急に男の怒鳴り声が聞こえてきた。そっちを見ると白いパイロットスーツを着た男達がレイカさんに向かって何かを訴えているようだった。
「レイカさん、どうかしたんですか?」
「ああ、バラット君達も来たのね。いやね、君たちが今回の作戦に組み込まれることになって作戦のメイン部隊を交代してもらおうと思ったんだけど彼、滝田准尉には納得がいかないらしくて……」
レイカさんは困ったような顔をして見せた。正直ヤな予感がしている。
「当たり前です! 我々はこの時のためにずっと訓練を続けパイロットとなったのですよ!! それをこんな急に現れた奴らに作戦の中核を譲れなど認められません!!」
集団の中、滝田と呼ばれた男は俺達を指さしながら物凄い剣幕で怒鳴っていた。めんどくさい……
「なら実力を見てもらえばよろしいのでは?」
「そうね、自分で実力の差を感じるのが一番でしょ。アオイさんの言う通りね」
アオイと呼ばれたツナギ姿の女性はちょっと嬉しそうに感じた。
「貴女は?」
「あ、申し遅れました! 私は第三整備部隊所属アオイと申します、以後お見知りおきを!」
「彼女、こう見えて部隊長の凄腕よ。しかも超ロボット好き!」
アオイさんはちょっと照れているようだった。
「でも、実際のドロイド同士の戦闘を間近で見れるチャンス! これは黙っていられませんよ!!」
要はドロイド同士の戦闘が見たいらしい。
「勝手に話し進めて……」
「お願い! いい経験になると思うしちょっと付き合って!!」
手を合わせてお願いとねだるレイカさんに完全に押し負けた感じだった。周りを見ると全員俺を見ていた、任せたと……俺はため息をついて頷いた。
「わかりましたよ、俺の乗ってたやつってまだスカイのままですか?」
「そうですが、ノーマルに換装しますか?」
「大丈夫、スカイでも問題ないでしょ」
「貴様!! 馬鹿にしてるのか!?」
スカイは空戦用の軽装で陸戦もできないわけではないが得意とは言えない装備であり、滝田准尉もそれを理解しているのだろう。
「模擬戦は決闘、装備はシールドとトレーニングソードのみでいい? もちろん空中戦は無しで」
「き、貴様ぁ!! スカイだから負けたなんて言わせぬからな!!」
滝田は怒りながら自分の機体へと歩いて行った。確かにぱっと見不利かもしれないがまぁ問題ないだろう。
「2ー1番とA1の起動準備! 甲板にあげろ! 決闘だ!!」
実際戦うところをあまり見たことが無いのだろう、艦内大騒ぎで準備ガ整い甲板に出た頃には見物客でいっぱいだった。
「使用装備はトレーニングソードとシールド、致命傷判定を受けたほうが敗北でいいわね」
すっかり外は暗くなり、辺りはライトで照らされ月が顔を覗かせる中、レイカさんがスピーカーで確認をする。
「それでは、模擬戦開始!」
「うおぉぉぉぉ!」
合図とともにサイレンが響き同時に滝田機は叫びながらシールドで身を隠し、勢いよくソードを振り上げ突っ込んできた。シールドは体を隠せる大型のタイプでトレーニングソードはソードとは名ばかりの棒だ、当たった場所を斬った判定としカウントするセンサーの塊である。
「うるさっ……」
俺は機体を反らし突進をすり抜け、背中を斬りつけて見せた。わざと致命傷を外して。
「くっそぉ!!」
振り向いてくる滝田機の顎にソードを突き付けそのまま転倒させる。正直動きが単純すぎて相手にならない、まさにゲームのNPCという感じだった。
「まだだぁ!!」
起き上がり再び斬りかかってくる滝田機の攻撃を剣で払いながらシールドで殴りつけ再び転倒させる。瞬殺は可能だが偶然とかたまたまとか難癖付けられるのはめんどくさい、彼には申し訳ないが完全敗北を経験してもらうことにしよう。
「なぜだ、俺はこの部隊でトップのパイロットなんだぞ!!」
起き上がってくる滝田機を前に俺は盾と剣をその場に落として見せる。
「何のつもりだ!?」
「ハンデ、かかってきな」
「馬鹿にするなぁ!」
武器を手放した俺に激怒しながら奴は迫って来る。しかし振りかぶった剣は空を切り、躱したまま足払いを受けてそのまま転倒してしまう。もう三度目だろうか?
「くそ、くそ、くそ……このやろお!!!」
何度も挑む根性は認めるがそろそろめんどくさい、退場してもらうことにしよう。
「これで終ね」
ステップで滝田機の攻撃を躱し、再び攻めるために振り向いてくる奴の機体に後ろ回し蹴りを食らわす。脇腹に直撃し、メキメキと装甲が歪み鈍い音を立てながら機体は吹き飛び、海へ落下してしまった。
「あ、ヤバ……やりすぎた」
まさに蹴りがクリティカルヒットしてしまったという感じだった。
「た、助けてくれっ機体がっ……浸水してきてっ!?」
ホントに辺りどころが悪かったらしく機体が動かず浸水が始まってしまってるらしい。
「おい! クレーン持ってこい!」
周りも慌ただしく走り回り、しばらくして機体が引き上げられたのであった。
「すみません、ちょっとやりすぎました」
「あはは、まさかあそこまで腕に差があるとは思わなかったわ……」
レイカさんも思わず苦笑いしていた。
「バラットはゲームでもトップ層のプレイヤーだったしNPC程度じゃ時間稼ぎもできないよ」
ミコ達は予想通りという感じであった。
「でも、あれじゃ雑魚相手でも苦労しますよ? 大丈夫なんですか?」
レミーアがレイカさんに質問をした。実際正規パイロットが弱すぎたのは事実であり、とても魔獣に対応できるとは思えなかった。
「彼らは全員多少差はあるけど基本同じくらいの腕に統一されてるの。貴方たちみたいに少数や単機で任務をこなすのでは無く、集団で個を撃破するのが主任務なのよ」
どうやら統率された集団戦で真価を発揮するということらしい。実際ゲームでもNPCが複数機集まって連携されるとものすごくめんどくさかった、そういうことなのだろう。
「流石の腕前でしたな、彼がパイロットとして自信を無くさなければいいのですがな」
ゲンジさんが細い目で奥をチラっと見やる。そこには機体が引き上げられ、救出された滝田准尉が膝から崩れ落ち明らかに落ち込んでいるのが見て取れた。
「鼻どころか心まで完全破壊したわね」
「自業自得ということで」
彼にはいい経験になったということで許してもらおう。ちなみにレクティスはある程度の水中戦にも対応しているが辺りどころが悪かったのだろう機体が歪んで浸水してしまったみたいで不運だった。
「機体は整備しておきますのでお任せください」
アオイさんがそう言いながら敬礼してみせた。
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