第6話

「フィフリアーナ、トラバティト」

「バァナ、ファルガッタ!?」

 猫耳の女性とエルフの女性は理解不能の言語で会話を始めた、お陰で掴んでいた手は放してくれたが。

「レイカさん、これはいったい?」

「あぁ、彼女はティア、獣人猫人族で特殊歩兵部隊ベイルのエースよ」

 確かに気になっていたがそうではない、エルフに続き猫人も出てきてファンタジー感がさらに増した科学の結晶の甲板だった。

「彼女もあのエルフちゃんと同じ世界出身だから通訳お願いするために来てもらったの……ほら、落ち着いたみたいよ?」

 そう言うとレイカさんは会話をしていたエルフと猫娘の方に促す、すると彼女達もこっちを向きティアはお辞儀をして見せた。

「初めましてベイル隊所属のティア・ラビオンと申します。見ての通り異世界人です」

 そう言うと彼女の耳がピクピクと動かして見せた。

「彼女はエルフ族のエミリア、森で採取をしている時にワームホールに飲み込まれこっちの世界に引き込まれてしまったようです」

 確かにエルフの彼女は地球の一般的な服装とは異なるまさにファンタジーという衣装を着ていた。

「どうやらここがどこか、自分を助けたあれは何なのか意味が分からな過ぎて混乱していたようです」

 当の彼女は隣で俯いて落ち込んでいるようだった。

「さて、皆とりあえずついてきて貰っていい? 今何が起きているのか気になっていること教えてあげるわ」

 そう言われ俺達はレイカさんについてザラタンの内部へと進んで行く。しばらくして作戦指令室と書かれた部屋に入っていった。

「好きなとこに座って」

 俺達四人は並んで座り、その後ろにティアとエミリアが座った。

「それじゃあ説明するわね、ティアさん通訳はお願いね」

「お任せください」

 ティアは頷いて見せた。考えると今まで場のノリと勢いで何も知らないままここまで来てしまったのだなと思う。

「まずはそうね、皆がやっていたゲーム、メールドライバーズなんだけどあれは普通のゲームじゃないの。今後起きる大災害の際、いざという時に生き残れる人を増やすシュミレーターだったの。プレイヤーにナノマシンを注入してゲーム内と同じ高い免疫力と身体へと強化する準備をしていたの」

「戦う前に入ったあのカプセルは?」

「あれはナノマシンが密かに改造していた肉体を完全な形へ覚醒させる最後の仕上げみたいなものであれをしないと、現代地球人と何も変わらない状態になるよう制限をかけていたのよ。悪用されても困るしね」

 つまり強化人間製造機といったところだろう。

「続けるわね、数年前から地球はいずれ次元異常を起こし別の世界との融合、もしくは何らかの影響を受けることが判明したの」

 なんだかゲームのチュートリアルを受けてる気分だ。

「そこで我々は異世界の巨獣への対抗手段ゴーレムに現代科学を組み合わせメールドロイドを完成させたの」

「ゲームという形でパイロットの育成をしていたと?」

「簡単に言えばそうね、実際私達が訓練した兵士より明らかに貴方達の方が強かったし」

「気になるのだが、その異常事態が起こるとなぜわかったのですかな?」

 確かに根本的な謎だ、そんな情報間違いなく現代科学では探ることすらできない。むしろ絵空事だと気にも留められない。

「それはワシらが教えたからじゃよ」

 後ろから声が聞こえた、振り向くとそこには年老いた猫人族の女性が立っていた。

「オオカカ様!」

 ティアが立ち上がり近寄ろうとするのを老猫は手で制止しゆっくりと正面に歩いてくる。

「彼女は猫人の一派ラビオン族の族長ケーシス・ラビオンさん、この方との接触のおかげで次元異常への準備ができたの」

「ワシらは元居た世界の紛争に巻き込まれてなぁ、一族途方に暮れていた時に次元の穴を見つけたのじゃ。藁にも縋る思いで生き残った一族全員で飛び込んだ結果、この世界にやってきたのじゃ」

「そこで出会ったのが私達ウィンディタスクの現在の上層部、13人委員の人達ってこと。ちなみに非公式だけどいろんな国の援助も受けてるのよ?」

「ワシらは魔法や錬金術の技術提供の代わりに安全な住処を頂きました、おかげさまで一族は繁栄しております」

「中には私のように部隊に所属して協力している者も居ます」

 ティアは家族の安全のお礼に協力しているとのことだった。エルフ娘に通訳しながら教えてくれた。

「で、ここからが本番。ちゃんと聞いてね? これから地球全土にゲートがランダムに発生するようになるの、正直まだ時間に余裕があるはずだったんだけど……」

「想定外に早く来ちゃったと?」

「そ、ホント予想外。不幸中の幸いは貴方達が対応した事象以外はゴブリンとかの小型で自衛隊で十分対応できたというとこかしらね」

「完全に巻き込まれた感じじゃん、運が悪い……」

「ホント災難だったわね」

 笑い事じゃない!!

「それで、私たちはこれからどうなるの?」

 ミコがそれを聞くとレイカさんは少し目を反らして見せた。

「四人とも、自分の本名今言える?」

「何を、そんなこと言え、る……わけ、ない?」

 ネット関係で本名使う言うなんて基本はないのだがそういう意味ではない、わからない、どういうことだ? 文字どおりあるはずの本名が出てこない、それだけじゃない家族をはじめ現実の身分に関する記憶が無くなっているのだ。

「記憶に制限がかかってるの、貴方達はもう向こうには戻れないわよ」

 一般市民として今までのように平和に暮らすことはできないということなのだろうか。記憶自体が無かったかのような状況だ、怒りすら沸いてこない。

「レクティスに乗る時に言いましたしね」

「覚悟はしてた」

「ごめんなさいね」

 正直意思の問題で物理的に制限がかけられるとは思っていなかった。だが事実後腐れなく今までの現実を捨てれる状態を作られてしまっていた。

「で、俺達はこれからどうすれば?」

「簡単に言うと、ゲームと一緒ね。傭兵部隊として作戦に協力してもらうことになると思うわ、もちろん嫌なのは断ってくれて構わないからね」

 拒否権はあると主張したということはここからは早速依頼があるということなのだろう。ゲームとはそういう物なのだ。

「長老さんが着たということは関係が?」

「やっぱゲーマーは察しが良くて助かるわぁ~」

 そう言うとレイカさんはモニターを操作した。そこにはさっき戦ったブラックレイカーの姿が映し出される。

「さっきのレイカーですよね? それ」

「そ、予想だけど今回の標的の仲間よ。私達以外でドロイドを所有して異世界のエルフを狙ってやってきた、目的は異世界人の持つ錬金術と魔法の技術ね」

「そもそもなのですが、異世界はともかくこちらの世界でも魔法は使えるのですか?」

 ゲンジさんの疑問はもっともだ、異世界はそもそも文字通り別物の世界であり魔法など現代地球に無い技術があっても不思議ではないのだ。しかし現代日本はもとより世界、地球にはそんな技術は小説やアニメ、映画の中以外では存在していないのだから。

「可能よ、地球にも魔法を行使するために必要な魔の源マナが存在しているのよ」

「でも事実地球人には魔法を使える人なんて存在していないはずじゃ?」

「ええ、世界の理とでも言うのかしらね科学が進歩する世界では魔法が、魔法が進歩する世界では科学が廃れる傾向があるらしいの。地球で魔法技術が確立していないのは科学技術が発達した影響かしらね」

 世界は科学と魔法の混成を望まなかったらしい?

「しかしこの世界にもマナは存在しております。しかも太古から蓄積された大量のマナが」

 ケーシスさんが語る。

「そもそもマナとは世界を循環する言うなれば星の血液のような物。地球にもコア、心臓が存在しており高濃度で循環しております。魔法はそのマナを借りて行使する自然の力科学とは似て非なる技術そのものなのですじゃ」

「話を戻すわね、この組織ヨハネはゲートを通って迷い込んだ異世界人を拉致回収し魔法、錬金術を科学と組み合わせて行使し世界征服か何か知らないけど企んでいるの」

 なんとな~く話は読めてきた。要はそのヨハネという組織を倒せって感じの依頼なんだろう。

「先日の事です。我々が暮らしている隠れ里にヨハネ所属と思われる集団が侵入、仲間を拉致誘拐して行ったのです」

 ティアが怒りを押し殺しているのがみてとれた。

「ザラタン・セカンドはその拉致された人々を奪還するために出撃していたのだけど……」

「そこでゲートが開き急遽救援に?」

「そ! 今動けるのがザラタン・セカンドだけだったのよ。それで、そのまま戦闘能力の高い君たちにもこのまま協力してもらおうって魂胆なんだけど……いい?」

「いいも何も、こっちは状況すらまともに把握できてませんよ、話が異次元すぎるってか現実離れしすぎです」

「でもやって欲しいことはわかってる」

「さしずめ強襲任務、拉致された異世界人を奪還せよってところですかな?」

「ゲーム的な言い方するとそんな感じね、引き受けるかどうかは貴方たちに任せます」

「確かにゲーム的な感じには理解できるけど……いいのかなぁ?」

 ゲームと現実をごっちゃにするのはよくない気はするが、現状ごっちゃになっているので肯定するしかなさそうだった。

「あの~、ちなみにこの船が奪還任務を受けているのはわかったんですけど、どこに向かってるんですか?」

 ずっと黙って聞いていたレミーアが小さく手を上げながら質問をした。

「場所的にはここ、東南アジアの密林よ。ここに奴らの研究施設があるのが確認できてるの」

「じゃあ密林強襲作戦、使用可能兵器は?」

「作戦は~」

「作戦はマザーフライヤーに歩兵、陸戦部隊を搭載、夜間一気に強襲を仕掛ける予定です」

 レイカさんが作戦を説明しようとした時に後ろから男性の声が聞こえた。

「やっと来た。彼はレイジ、私の兄でザラタン・セカンドの艦長よ」

「えっ!?」

「確かに顔も似てますな」

 レイジと呼ばれた彼は軍服を纏い、金髪に眼鏡の似合う細いが引き締まった体格をした。確かに名前も似ているが顔の雰囲気もレイカさんと似ていた。

「話を続けさせてもらうね、率直に言うと君たち四人にできるならこの強襲部隊に加わってほしい」

 来て早々レイジは俺達にお願いをしてきた。恐らくさっきの戦闘を見ていたというのもあるのだろう。

「この作戦に向けてそちらでパイロットも用意されていたのでは?」

 実際この大型母艦はドロイドを数十機単位で輸送可能な代物だし俺達が乗っていた四機だけというのはありえないはずだ。

「確かにドロイド部隊も用意している、のだが……君たちの戦闘を見せてもらった結果、戦闘技術が違い過ぎるのだよ」

「プロとして厳しい訓練を受けてきた彼らだが、実戦で君たちのように戦うことは無理だろう。ボルガザウラーをたった二人で撃破なんて無謀な話なんだ」

「ついでに言うとスタンダードなレクティスの訓練を受けているけど練度不足で特殊兵装機、カスタムモデルの扱いになれてないのよ」

 つまりさっきのスカイユニットを装備した戦闘などができないということらしい。

「その点ゲームで膨大な時間をつぎ込んで多くの経験を積んで戦ってきた君たちは喉から手が出るほど欲しい人材なんだ」

「あの~資料とかあったら見せてもらってもいいですか?」

「ええ、いいわよ」

 レミーアはレイカさんからタブレットを受け取り資料を読み始めた。

「バラット殿とミコッタ殿はどうしますか?」

「どうすると言われてもなぁ……」

 正直答えは決まっている、今までの平凡な現実には戻れない、それを承知でここまで来てしまった。それに、記憶が無くなったとはいえ知識や経験、俺という人格はしっかり存在している。生きなければいけないのだ。

「生きるためにはお金を稼がないといけないし、拉致された人たちを助けるのに俺達の力が必要ってことなんですよね?」

「正直に言うと、今回の作戦には特殊戦闘仕様の機体を使う予定なのだが期待値を超えるパイロットが居なかったんだ。そこにやってきた君たちは期待値を優に超える技術を持っている」

「わかりました。俺は引き受けます、異世界なんて夢みたいな話ですけどここまできたんだ、とことんやってやる」

 俺は拳を握りそう誓う。もうここまできたんだ命がけだろうがとことん生きて楽しんでやる。

「吾輩も参加しますぞ」

 ゲンジさんも立ち上がりながらそう言う。

「私も構わない、バラットと行く」

 ミコも付いて来てくれるらしい。正直一人じゃないことがこんなに嬉しいとは思わなかった。

「夜間強襲、レクティスの装備を十分揃ってます。大丈夫、やりましょう皆さん。私も頑張ります!」

 資料を呼んでいたレミーアさんもやる気のようだった。

「ありがとう! 恩に着る、必要な物はできるだけ用意する。よろしく頼む!」

 レイジさんはそう言うと深々とお辞儀する。

「皆の部屋を用意させるわね。ティア、その子もだけど皆への案内お願いしてもいい?」

「了解いたしました」

 ティアさんはそう言うと敬礼してみせ、それを不思議そうにエルフの女性は眺めていた。

「すまない、任せたよ。レイカ、今後のことで話がある。一緒に来てもらっても? ケーシス様もよろしいでしょうか?」

「ああ」

「わかったわ。それじゃあ皆、また後でね!」

 そう言うと三人は部屋を出て行った。

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