第5話

「フライキャリアー到着します」

 しばらくすると迎が来たらしい。フライキャリアー機体や物資を輸送する垂直離着陸が可能な支援輸送機でありゲームでもお世話になっていた。

「二人はそのまま機体に乗ったままでお願い、さぁ急ぐわよ! 野次馬が集まってくる前に!」

 確かにゲームをやってない人にとってはフライキャリアーは見たことの無い飛行機だろうしあの怪獣騒動の後だ、何が起こるか知れたものじゃない。

「レイカさん、どうやって荷物を運び出すんですか?」

「ん? 物資はカタパルトで地上へ送ってそれを順次フライキャリアーに運んでもらうのよ」

 どうやらピストン式に物資を運びだしているらしい。

「二人は最後の人員輸送と一緒に連れて行くからちょっと待っててね」

「了解」

 そして自分達を乗せたコンテナが射出され地上で待機していたフライキャリアーと合流し上空へと浮上した。

「レイカさん、ザラタンはどこに居るんですか?」

「太平洋で私達を待ってるわよ、ちょっと時間かかるし何かあったらお願いね?」

 フラグに聞こえた……

「主任! 微弱ですが次元異常が発生、ゲートが開きました。それと、戦闘機が数機接近しています」

「あら、どこの国のかわかる? あとゲートの大きさと何か来た?」

 話を聞きながら発進の準備を俺は始めた、恐らく発進することになりそうな気がした。

「現在はまだ、それと戦闘機の中に別の物が一機、これは……ドロイドです!?」

「はぁ!? なんでドロイドが居るのよ!?」

「わかりません、ですが……ロックオンされました!!」

「んないきなり!? もうっ対空用意!!」

 見事にフラグ回収してくれた。

「後部ハッチオープン、ジェットレクティス行きます!」

 ハッチから飛び出し、背部ウィングを展開、ブースターに点火し俺はフライキャリアーを飛び出した。

「レイカさん敵機体は?」

「ちょっと待ってねぇ……」

「ブラックレイカーです、非公式の仕様で間違いないかと」

 レイカーは空戦に特化したドロイドで機動性運動性共に高く特徴は巨大な一つ目のようなメインカメラとクチバシのようなヘッドユニットだ。ブラックということは非公式、テロリスト仕様ということだろう。

「なんでそんなのがこっちにあるのよ! 聞いてないわよ!!」

 レイカさんが通信で怒っているの聞きながら敵の確認を始める。

「戦闘機はこっちのスタンダードな物だと思います、ん? ブラックレイカー急上昇、戦域を離脱していきます」

「どういうこと? とりあえずバラット君は雑魚を蹴散らして、ブラックレイカーが何を狙っているのか急いで調べて!」

「了解、いきます!」

 俺は正面に迫る戦闘機目掛けて距離を詰めていく。機動性だけなら戦闘機が圧倒的だろう、しかしドロイドには圧倒的な運動性、柔軟性があるため慣れてしまうと敵ではない。

 まずは一機目、正面に捕らえ装備していたサブマシンガンで撃ち抜き撃墜、そのまま次に迫っていた機体を足で踏みつけ機首へし折りそのまま3機、4機と撃ち抜き撃墜し回し蹴りで5機目を中央から真っ二つに砕いて行った。

「流石最高ランクのパイロット、戦闘機なんて相手にならないわねぇ」

 レイカさんは戦闘を見ながら感心していた。

「これはっ!? 主任、見てください」

 驚いた研究員の見せるモニターを見たレイカさんは急に焦りだした。

「バラット君! 急いでブラックレイカーを追って!! ゲートから降ってくるこを奪わせないで、急いで!!」

 その声を聞き俺は急加速で上空のブラックレイカーを追跡した、なにか大事な物が降ってくるのだろうか? とにかく降ってくる物をあれに奪われてはいけないらしい。

「捉えた!」

 サブマシンガンで敵を狙い撃つ。レクティスを空戦仕様にするにあたり今回はサブマシンガン一丁と腕部接続型の短剣、ストライクカタール、予備のマガジンしか装備していないため火力が低い。元々専用機ではないためなるべく機体を軽くする必要があったのだ。

「ちょっと不利かなぁ……」

 対して相手は空戦用ドロイド装備や性能的にも分が悪い、しかし。

「そこだ!」

 急加速を掛けて敵機とすれ違いざまに左腕のカタールで構えていたライフルを腕ごと斬り落とす。機体が不利でもパイロットの腕で十分カバーできる範囲なのだ、そのまま上を取りサブマシンガンをフルオートで浴びせていく。敵も回避行動をしながら反撃を狙うが運が悪かったようだ、フライトユニットに弾が命中し爆発炎上しはじめ高度が下がっていく。

「今なら見逃す、だから帰れ!」

 オープン回線で敵にも聞こえるよう話しかける、どうやら退き際はわきまえているようで撤退してくれたようだ。俺はそのまま次元の歪み、ゲートの周辺で回収して欲しいという物を探し始めた。

「生体反応? 人、女の子!?」

 機体のセンサーに引っかかったそれは生体反応、しかも人間のそれだった。まさに親方、空から女の子が!! という状況だった。

「娘って言ったでしょ! 絶対助けてね!! 絶対よ!!」

 レイカさんからの念押し通信を聞きつつ慎重に機体速度を落下中の彼女に合わせ両手でゆっくりと受け止める。正直戦闘より遥かに難しい操作だ。

「回収完了、でもなんでゲートから……えっ!?」

 俺は機体の手の中で気絶している女の子を見て目を疑った。彼女はぱっと見金髪の綺麗な女性なのだがなんと耳が長く尖がっているのだ、それはまさにファンタジーに出てくる。

「エル、フ?」

 そう、エルフ、妖精人と呼ばれるそれの特徴を持っていたのだった。

「生きてるわよね?」

「生きてますよ、でもこの娘……」

「説明は後でするから、とりあえず戻ってきて! 慎重にね? 怪我させちゃダメよ??」

「わかってます!」

 俺は機体の両手で優しく包み込むようにしながら彼女を運んだ。

「ボルト接続、着艦します」

 俺は機体をコンテナに固定させ、ゆっくりと内部へ入っていく。機体が内部へと格納され後部ハッチが閉まるとレイカさん達がやってくる。

「バラット君、ゆっくりこっちに連れてきて」

 俺は慎重に操作してレイカさん達の元へエルフの女性を連れて行った。まだ意識を失っているようで起き上がる気配はなかった。

「ありがと! あとはこっちに任せて、一応整備班は1番機の補給を、まだ何が起こるかわからないし、バラット君たちももう少しそのままでお願い」

「わかりました」

 そしてレイカさん達はエルフを連れて格納庫を後にした。

「つけ耳とかじゃなかった?」

「うん、そんな感じじゃないし何より見たことないくらい美人だった」

「あっそう」

 なぜかミコがすごく不機嫌になったような気がした。

「とにかく、訳の分からないことだらけだな」

「うん、現実世界なのにボルガザウラーが現れるしドロイドもある理解が追い付かない」

「ゲームにエルフなんて居たっけ?」

「居なかったと思う、アクセサリーで猫耳や尻尾、耳とか角を付けてる人は居たけど、種族としては人間か魔獣しかいなかったはず」

 アバターもだがNPCとしても人間以外に友好関係を結べる相手は存在していなかったのだ。

「でも、ゴブリンやオークみたいな獣人は敵にいた」

「そういえば、敵としてはファンタジー世界の獣人や魔物も居たな、しかもバリエーションもやけに多かった気がする」

 パイロットとしてプレイしていると怪獣や巨人などの相手がメインとなるがソルジャーとしてプレイするとゲリラやテロリストなどの人間以外にも小型の魔獣、ゴブリンやオークなどの獣人の討伐などがあったのだ。俺やミコもソルジャーバトルで遊ぶ際結構な数を倒していた。

「メールドライバーズ、何の疑問も抱かなかったけどSFとファンタジーをごちゃまぜにした世界観だったなぁ」

「そう思うと逆にエルフとかの友好種族が居なかった方が不自然だった」

 確かにゴブリンなどが散々出てきているのにエルフなどメジャーな友好種族が一人も居なかったのは謎だった。

「わかんね、レイカさん達の説明待ちかなぁ」

「どこまで説明してくれるかわからないけど」

 少し不満そうなミコに苦笑いしつつしばらく時間が経った。

「お待たせ、ザラタン・セカンド見えて来たわよ!」

 仮眠してたのだろうか、レイカさんの声にゆっくりと目を開く。目の前には巨大な甲板を広げて俺達を迎え入れるゲームで何度も利用していた超ド級潜水空母ザラタンの姿があった。

「二人とも、悪いんだけど機体だけ外に出しちゃいたいの、いいかしら?」

「了解、どこにいけばいいんです?」

「係りの人が誘導してくれるからそれに従ってちょうだい」

 俺達の機体はゆっくりとコンテナから外へと運ばれ、足が床についたら機体を立ち上がらせ誘導灯を振る係員に従い機体を歩かせていく。すると正面には自分達以外の二機のレクティスが並んで立っていた。

「この二機と向かい合わせるようにお願いします」

 指示に従い機体を立たせ、システムを落としていく。コックピットハッチを開き、ワイヤーに足を引っ掛けゆっくりと下に向かって降りて行く。

「重砲撃型とスタンダードなレクティスか」

 着地し正面に並ぶ機体を見やる。片方はシンプルな機体で装備もシールドとアサルトライフルの基本武装だ、もう片方の機体は分厚い装甲そして何より肩から見える二本の砲身。レクティスキャノンと呼ばれている重装支援型の機体だ。

「バラット」

 隣に機体を置いたミコが走り寄ってきた。

「私達以外にも機体ってあったんだね」

「まぁ、実際この二機だけなわけないよなぁ」

 ザラタンまで製造されているのだ流石に二機だけしか用意できないなんて訳はないだろう。

「おや? もしかしてバラット殿ではないか?」

「え?」

 声のする方を見るとそこには髪を短く刈り上げた筋肉モリモリマッチョマンが笑顔で歩み寄ってきた。

「あれ? ひょっとしてゲンジさん?」

「おう! やはりバラット殿でしたか!!」

 彼はゲンジ、ゲーム仲間の一人で近接格闘から重砲撃支援までそつなくこなす凄腕パイロットでありいい兄貴分である。

「ひょっとしてあのキャノンはゲンジさんが?」

「そうですとも、ボルガザウラー戦見ましたぞ! 流石の腕前でした!」

「ありがとうございます、そっちもなにかあったんですか?」

「こっちはトロールの群れだったので余裕でした」

 トロールは15メートルクラスの巨人の一種で知能が低く人を餌として認識してるため討伐しなければならず数も多いためよく討伐任務が出ていたものだ。

「一人で倒したの?」

「いや、おーい! レミーア殿」

 ゲンジさんは手を振りながら遠くで機体を眺めていたピンク髪の少女を呼んだ。彼女はそれに気づくとこっちへ駆け寄ってきた。

「あ、あのゲンジ、さん……なんでしょうか?」

「紹介しましょう、彼女はレミーア殿、一緒にトロール討伐をした戦友でございますな!」

 少しおどおどしている彼女はレミーアと言うらしい、ミコよりも小柄で可愛い系だろうか? こんな娘もパイロットとしてゲームをプレイしてたとはちょっと新鮮だ。

「バラットだ、こっちはミコッタ、レミーアさんよろしく」

「えっと、レミーアです、よろしくお願いします」

 軽く挨拶しながら握手をする。ちょっとビクビクしているが悪い人ではないだろう。

「ターロス!!!」

 挨拶をしていると歩いてきた方から突然大声が聞こえてきた。

「え、うお!?」

 先程助けたエルフの女性が勢いよく駆け寄ってきて突然胸ぐらを掴まれた。

「フォマリアエ、カルカラッタッタ、ターロス! ターロス!!」

 何かを伝えたいのレクティスを指差しながら怒鳴っている。しかし、何言ってるのか全くわからない……

「エルフ、ですかな? 本物?」

「みたいですよ? さっき助けたんですけど俺らもなにがなんだか……」

「ファフォリカアルアタラ? クアワリオカシス!!」

 何かを聞きたいのか伝えたいのか全く分からない、地球の言語じゃないのは確かだ。

「フォリア!」

 また別の声が突然聞こえた、そっちを見るとレイカさんとその隣に猫耳と尻尾を生やし瞳が縦長の猫目をしたミコと同じくらいの女性が立っていた。

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