第3話

「パイロットが見つかった、すぐに起動準備を! いい? 絶対死なせちゃダメよ!!」

 奥に進み階段を降りて行く途中もレイカさんは指示を飛ばしていた。

「ホントは一般人であるあなた達を巻き込むわけにはいかないんだけど、ごめんなさい……」

「大丈夫です、それよりどこに向かってるんですか?」

 階段を降りて行くと大きな扉が目に入った。

「まずはあなた達の体の中でスリープ状態のナノマシンを起動させます」

 何を言っているのかわからなかった。それを察してかレイカさんは続ける。

「貴方達メールドライバーズのプレイヤーにはね、もしものために体内にナノマシンを注入してあるの」

「いつの間に?」

 全然心当たりがない。

「毎回メディカルユニット接続してたでしょ? あれの中にはナノマシンが入ってていざという時にプレイヤーが戦えるようにしてあったのよ」

「それって……」

「犯罪? バレなきゃっなんたらっていうでしょ? それに現行の化学じゃ見つけることすら不可能よ」

 信じられないような話をされながら扉を開け中に入る、するとそこには人一人が入れるカプセルが用意され数人の研究員達が準備をしていた。

「貴方たちの体はナノマシンによって肉体強化の下準備がすでにされているの、早い話がゲーム内のステータスを現実の肉体に上書きするの」

「確かに、ゲーム内の身体能力なら戦争の中でも生き延びられる」

 ミコの言葉にレイカさんは頷きさらに続ける。

「ゲーム内アバターが現実のものと差異が無いのは犯罪防止のためということにしてあるけど実際はこれの下準備っていうのもあるのよ」

「このカプセルは完全に上書きするための機械ということですか?」

 レイカさんはゆっくりと頷いた。

「これが最後のチャンスよ? ホントにいいの? 今ならまだただのゲーマーで居られるわよ?」

 俺とミコはお互いの顔を見つめる。ミコは強く頷いて見せた。

「やります!」

「まかせて」

「ごめんなさい、ありがとう……」

 レイカに案内されカプセルのある部屋に俺達は入った。

「服を脱いでカプセルに入ってちょうだい。あ、プライバシーは守るから安心してね? ちゃんとサーモのみで裸は見れないようになってるからぁ~」

 さっきまでの真剣さはどこ行った!!

「バラット、見ちゃダメ」

 ミコ、お前もか!!

「わかってます! ミコもこっち見るなよ?」

「うん」

 外からは見えないらしいがカプセルのある部屋は一つしかない、つまりミコとは二人っきりで見ようと思えば見えてしまうのだ。

「ダメ! でも、ちょっとなら……」

「何言ってるの!!」

 彼女いない歴イコール年齢の男にはもちろん女性に免疫などない、戦う前からドット疲れた。チラっと綺麗な白い背中とお尻が見えてドキマギしたのは秘密にしておこう。

「二人とも準備はいいわね? これからバイタルアップグレードを始めます麻酔で意識はなくなるから大丈夫だと思うけど何かあったらすぐに知らせてね?」

「はい」

「うん」

「では、バイタルアップグレード開始!」

 その声を最後に意識を失った。

「リバイブ!」

 声が聞こえた、次の瞬間、胸の辺りから物凄い衝撃が全身に駆け巡り意識が一気に覚醒する。

「ぐはっ!?」

「目は冷めた?」

「どれくらい経った?」

「おはよ、3時間ってところね。体の調子はどお?」

 カプセルが開きゆっくりと起き上がる。

「違和感はないです、むしろ前より馴染んでる不思議な感覚です……」

 そう、違和感と言えば今までの自分の体が偽物なんじゃないかと感じるほどしっくりくるのだ。

「そりゃここ2、3年ゲーム漬けの日々を送ってたハイゲーマーだもの、ゲーム内の肉体の方がしっくりくるでしょ」

 なるほど、今の体はメールドライバーズでずっと使っていた肉体そのものなのだろう、馴染むわけだ。

「パイロットスーツも用意してあるからそれ使って」

 カプセルの横に濃紺に黄色のラインが入ったパイロット用スーツ一式が用意されていた。まずはズボン、太ももと脛の辺りにプロテクターのようなものが取り付けられている、これは高速機動時のGに対応するために血流を操作する機構らしい。そして上着胸部に緊急時のAEDユニットなどが搭載されズボンと同じ用に血流操作機構が搭載されているらしい。着替えたら最後にブーツを履きグローブとしヘッドギアを装着したら準備完了だ。

「起きた……」

「ちょっわっ!?」

 丁度着替え終わったタイミングで隣のカプセルが開き、むくっとミコが起き上がってきた。

「バラットえっち」

「不可抗力ですごめんなさい!」

 手で胸元隠しながらジト目でそんなこと言われても不可抗力としか言いようがないっ!

「私も着替えるからあっち向いてて」

「はい」

 一大決心をしてこれから戦いに行くというのに決まらないものだ……

「お待たせ、こっちも準備できた」

 同じように濃紺のパイロットスーツを身に纏ったミコも準備完了だ。

「二人ともサイズは大丈夫そうね?」

「ゲームと同じ、着慣れた感覚」

「違和感もないし、いつでも行けるよ」

 そう言うと目の前の扉が開いた。

「奥へ来てちょうだい、あ、わかってると思うけどDギアは持ってきてね?」

 Dギアは自分の身分を証明する必須アイテムでゲーム内でもしっかり実装されている、ちなみにパイロットスーツにもDギア用のホルダーがデフォルトで付いているくらいだ。

「とりあえず簡単に現状報告ね、ボルガザウラーはゆっくりだけど確実に街を破壊しながら進行を続けていて自衛隊も迎撃しようとしてるんだけど刺激するだけで攻撃に効果は全くなし」

 奥へと進む間もレイカさんは現状の説明をしてくれていた。そして広いスペースについた、恐らくアレのある格納庫だろう。

「起動準備はできてるわ、あなた達が普段使ってる愛機ではないから細かい調整は任せるわね」

 格納庫に明かりが灯る、そこには15メートルはある人影が二つ現れた。

「レクティスか、大丈夫扱える」

「私も平気、乗ったことある」

 そして俺達は正面にあるリフターに乗り、コックピットまで上がっていく。

「まさか現実でこいつを見ることになるとは思わなかったよ」

「そうね、できれば空想の兵器で居てほしかったんだけどね……」

 そう言いながら俺はコックピットへと乗り込んだ。シートに座りDギアを接続すると機体のシステムが立ち上がっていく。

「システム認証、パイロットコードバラット、接続」

「こっちも接続完了、レイカ、機体設定はDギアのそのまま使える?」

「使えるわ、基本的にはゲームと同じだと思っていいわ……ただし」

 レイカさんはそう言うと少し迷い口にする。

「リトライはないし戦闘中キャパシティオーバーのことが起きれば気絶もするし怪我もする……死ぬのよ」

 あらためて言われると息を吞んでしまう、これはゲームのようでゲームではない現実なのだ。もちろん命のやり取りにもう一度はありえないということなのだ。

「大丈夫、俺達の経験をすべてぶつけて勝利を掴みとります」

「うん、任せて」

「ありがとう、今用意できる武装のリストを送るわね、そこにあるのは準備できるから遠慮なく言ってちょうだい」

 レクティス、メールドライバーズでパイロットを目指す場合最初期に支給される機体の一つで癖の無い素直な操作性から初心者におススメされている機種でその拡張性、安定性の高さからベテランでも好んで使う者が多いほどの名機である。

 頭部はシンプルな形状に4つのメインカメラをバイザーで覆ったシンプルなものがベースでサイドラックにオプションを好みに装備することができる。

「頭部オプション、バルカンポッドを二つ」

 胴体はコックピットを中心にコアユニットなど機体の心臓部が搭載されておりそれを守るようにフレーム、装甲と人体のように構成されている。レクティスの物は薄すぎず厚すぎずスタンダードな物となっている。

 脚部及び腕部、四肢は人のよう可動域を実現しそこに装甲を重ねて改良できる拡張性の広さが売りだ。そして何より腕や脚部など部位単位で規格が合うパーツを交換できるのもメールドロイドの最大の特徴だろう。

「耐熱シールド、ウォールブレイカー……結構特殊装備も揃ってますね」

「機体がこの二機しか用意できないからせめて武装はってね、どうにかできそう?」

 レイカさんの不安はわかる、いくら対魔獣戦闘能力の高いメールドロイドといえどレクティスはバランスタイプ、敵との相性があるのだ。

「大丈夫です、敵が何かわかってるんだからそれに合わせて装備を選べばレクティスは十分対応できますよ」

「シャープブレイカーは何発あるの?」

「ごめんなさいそれは希少金属が足りなくて10発しか用意できてないの」

 シャープブレイカー、スナイパー用の弾丸で特殊金属レイズアダマンを使用する超貫通特化弾頭で主に装甲の分厚い敵や拠点攻略に使用される高級弾である。

「ライフル2マガジン分か……ミコいける?」

「問題ない、私の腕は知ってるでしょ?」

「おっけ、じゃあいつも通りで行こうか」

「了解」

「レイカさん、支援はどのくらいできる?」

「一応このあたり周辺にいろいろ仕込んでるからミサイル支援くらいならいけるわよ」

「じゃあフリージングブレイカーを開幕合図したら撃ち込んで、ゴリ押しでいけないから使える物全部使っていこう」

 フリージングブレイカー着弾地点を中心に瞬間凍結させる弾頭で本来は大規模火災などに使用されるが今回の敵には有効な兵器となるのだ。

「任せて、急いで準備させるわ」

「こっちは機動性重視で、脚部スラスターをハイグランダーの物に交換を、背部高出力バーニアに」

 ハイグランダーとはレクティスのバリエーション機であり陸戦高機動型と呼ばれる仕様のものだ特徴は足の裏にローラーが装備され脚部両サイドのスラスターと合わせ市街地での高速移動を可能としている。

 背部の高出力バーニアは高速戦闘用の加速ユニットであり運動性が低下してしまうが直線の機動力は空戦機にも引けを取らない加速を見せるのだ。

「こっちはヘビィグランダーの足とマルチマウンターをちょうだい」

 ヘビィグランダーの脚部はハイグランダーよりも重量があり射撃の安定性を上げる効果と後部にキャタピラが搭載されていて移動、射撃時のスタンドとして活用できる安定性の高いパーツである。

 マルチマウンターは背部ユニットで各種武装をマウントできる重装備する際に起点とする接続ユニットだ。

「なんで脚部パーツはこんなにそろってるんです?」

「知らないぃ、本部に言ってぇ私もわかんないのよぉ……足ばっかじゃなくて機体よこせっつの!」

 激おこのレイカさんは置いといて、ひとまず装備を整えてしまおう。

「敵はボルガザウラー、大型で硬い甲殻に覆われた火属性の魔獣だ。となるとその甲殻をぶち抜く、もしくは口の中など軟らかい部分から攻めるのがセオリーだよな」

「とりあえず甲殻をどうにかして急所を破壊するって感じだよね?」

「かな、とりあえず敵がわかってて支給装備もいい感じのが揃ってる、どうにかできそうだね」

「だね」

「レイカさん、今送った装備をください」

「任せてぇ!」

 そう言うとレイカさんは指示を出して格納庫の整備士達が慌ただしく動いていく、それもそうだろう二機の脚部換装、追加装備の接続準備おまけに敵は待ってくれないから時間も無い、大急ぎでしかも精確にこなさなければいけないのである。

 しばらくして機体の両腕に大型の武装がマウントされる。右腕には大型の回転式ランスが装填されたパイルバンカー、スパイラルピアッサーを装備し、左腕には展開式の耐熱シールドを装備。

「アイゼンシュナイダー2本ありますか?」

「あるわよ、要る?」

「ください」

 アイゼンシュナイダー、高速振動により切断力の増したドロイド用のスタンダードな片刃の剣型武装であり、取り回し易く初期装備としても優秀な武装で近接戦用に装備するプレイヤーは多かった。

 用意されたアイゼンシュナイダーを腰の両サイドに装備してこっちの準備は一通り完了し、機体に変更したパーツ、装備のデータをインストールすれば準備完了だ。

「こっちもあとインストールでいけるよ」

 しばらくして機体の腰両サイドにアイゼンシュナイダーがマウントされ戦闘準備が完了した。基本的にメールドロイドは魔獣戦を想定して作られた兵器でありコストも掛かるが戦闘機や戦車には無い拡張性、汎用性の高さから国家間の戦争にも運用されるようになったという設定だったはずだがこっちではそういうわけではないらしい。

「そう言えば対人兵装も一通りそろってるんですね」

「ん? まぁ、何が起こるかわからないからねぇ~」

 ドロイドの武装は大きく分けて対人用と対魔獣用に別れている。今回セッティングしているのは対魔獣用の大型武装でこの他にアサルトライフルなど対ドロイド戦闘用武装なども用意されている。つまりそういう可能性もあったということだろう。

「インストール完了、レイカさんいけます!」

「こっちもおっけー」

 格納庫にアラートが鳴り響く。

「総員配置につけ! レクティス1番2番機発進行くよ!!」

 ゆっくりと機体が後方へと移動していく。

「発進は地上にカタパルトで運ぶからその後は二人の判断に任せるわね」

「了解、射出と同時にフリージングブレイカー全弾撃ち込んでください」

「任せて、さぁ二人とも準備はいい? いくわよ~!」

「いつでも!」

「任せて!」

 カタパルトに機体が固定され上部シャッターが開いていく。

「二人ともホントごめんなさいね、でも頼るしかないの……頑張ってね」

 モニター越しに親指を立てて合図を送る。ミコの方も頷いている。

「レクティスリフトアップ!!」

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