第2話
「そんなに慌てて何事?」
レイカさんがその研究員の男に尋ねた。
「次元異常が発生しましたっ! 来ますっもう時間がっ!!」
研究員がそう叫んだ次の瞬間、凄まじい轟音が響き渡った。何か昔見た怪獣映画の咆哮のように聞こえた。
「何なんだいったい……」
正面に居るレイカさんが外に向かって走り出した。
「そんな、まだ猶予はあったはずよ? どうしてこんな急に!?」
「わかりません、微弱な予兆はあったのですが急に時空の歪みが拡大して……」
ものすごくレイカさんが焦っているが見て取れた、俺とミコはその後を追うように外の様子を見に行った。
「なんだ、これ……」
さっきまで晴れていたはずの空は黒く曇り渦を巻くようにうねっていた。
「召喚地点はわかる?」
「今確認中ですっ」
「急いでっ!!」
「ごめんなさい、緊急事態なの、今はビルから出ないで、ここなら安全なはずだから」
訳の分からない俺達を見てそう言うとレイカさんは再び空を見上げた。
「なんだって!?」
連絡を取っている研究員の声にその場にいた全員が注目する。
「主任、来ますっ! 正面ビル街中央」
「皆伏せてっ!」
俺はレイカさんの叫び声に咄嗟にミコを抱きかかえ庇うように倒れ込んだ。次の瞬間さっき聞こえた咆哮のような音と凄まじい衝撃波に襲われた。伏せる瞬間、雲の渦から何かが落ちたように見えた。
「っ痛……ミコ、無事?」
「うん、ありがとうバラット」
ミコに手を貸しながら起き上がり周りを見渡すとウィンディタスク以外のビルの窓が衝撃で砕け人々の悲鳴が響き渡っている。
「皆無事?」
「なんとかっ!」
レイカさんの声に答える。
「熱量増大してます!」
「二人とも急いでビルの中に入って! 炭になっちゃうわよ!!」
レイカさんにそう言われ急いでビルの中へと駆け込んだ。
「緊急シャッター機動、周囲の状況把握急いでっ!」
インカムを付け指示を出し始めるレイカさんに従うよう社員や研究員が慌ただしく動き出す。
「主任、高エネルギー反応増大してます」
「皆来るわよ、衝撃に備えて!」
なにがなんだかわからないでその様子を見ていると背中にすごい衝撃を感じた。
「ぐおっ!?」
「うっ」
俺とミコはその場に思わず座りこんでしまった。
「二人とも生きてるわね? よかったわ」
「いったい何が……」
シャッターの方を見るとさっきの衝撃のせいかグシャりと歪んでいた。
「説明するより見てもらった方が早いわね。一階ロビーのメインモニターに映像出してちょうだい」
レイカさんがそう言うとメインモニターに外の映像が映った。
「何の冗談ですか?」
「正真正銘の現実よ、夢ならどれだけマシだったか」
映像には巨大なクレーターができ、火の海と化していた。そして中心部には巨大な岩の塊のようなものが鎮座している。
「あれって、まさか……」
それはゆっくりと動きだし岩に覆われた巨大な亀のような足、長い尾を振り回し、亀のような巨大な岩の甲羅からゆっくりと首を持ち上げ、ワニのような巨大な口を開き咆哮を上げる。
「ボルガザウラー……?」
「そうよ、むしろ私よりもあなた達の方が詳しいんじゃないかしら?」
ボルガザウラー、亀のような甲羅と足ワニのような頭と尻尾を持ち、全身を岩のように進化した甲殻で覆い内側には超高温の熱エネルギーを蓄えている火山獣と呼ばれる魔獣で臨界点を突破するとその蓄積されたエネルギを一気に放出、解放し周囲を焦土と化す危険度の高い魔獣である。そしてメールドライバーズで何度も戦った敵でもあった。
「確かにこいつは知ってますけど、なんで現実に!?」
「まさかこんなに早く現れるなんて思ってなかったけどね」
それはまるで現れるのは確定していたというような言い方だった。
「現在目標は活動を停止中、自衛隊が出撃した模様です」
「時間稼ぎぐらいは、してくれるかな? こっちの準備どうなっている?」
「急な出現のため想定の50%という状態です」
「急ぎなさい! ザラタン・セカンドとの連絡は?」
「現在通信不能、連絡取れません」
レイカさんはギッと顔をしかめている。必死でこの状況をどうにかしようと考えているのだろう。
「自衛隊到着しました」
再びモニターを見ると戦車や戦闘ヘリなど数多くの兵器達がボルガザウラーを囲んでいる。どうやら攻撃の指示を待っているようだ。
「自衛隊が頼りなく見える……」
ミコが呟いた。無理もない、ゲームと同じ設定なら現代兵器では全く歯が立たない相手のはずだからだ。
「攻撃開始されます」
砲撃が響き自衛隊の集中攻撃が始まった。それに反応するように奴の首がゆっくりと戦車の方を向く。
「まずい!」
ボルガザウラーの口が開き火炎放射が戦車部隊を包み込む。自衛隊の攻撃はむしろ奴の活動を促してしまったらしい。
「自衛隊全滅っ……ボルガザウラー活動再開します」
奴は咆哮を上げ、ゆっくりとクレーターから動き出す。邪魔なビルはその巨体と馬鹿力で薙ぎ倒しながら。
「主任、このままでは……」
「あの、主任、彼らなら動かせるので」
「ダメよっ!!」
一人の研究員が俺らの方を見ながら何かを言おうとしていた。しかしレイカさんがそれを遮ってしまった。
「彼らは一般人、これは関係ないの、関係ないのよ……」
素人でも察せる、ここには奴をどうにかできる物があってそれを俺とミコなら扱えるのだろうということ。つまり……
「メールドロイドが?」
俺が呟くとレイカさんはこっちを見て一瞬固まってしまった。
「あるんですね? そして俺達なら操縦できると?」
少しの沈黙の後、レイカさんはゆっくりと頷いた。
「なら、やりましょう。このままここで見ていてもどうしようもないんでしょ? それなら!」
「乗ったら最後、貴方は今までの現実を失うことになるのよ? 簡単に決めていい事じゃないの……」
「どうせ家族にも見捨てられて、ゲーム以外何もない人生だったんだ……今更」
新卒内定を蹴った時、親とは大喧嘩して勘当されてそれっきり。大切な人すら何もなく毎日ゲームに明け暮れていただけなんだ、今更怖いものか。
「ついてきて」
一瞬考えたが意を決したレイカさんが一言そう呟くとビルの奥へと歩いて行く。
「ミコはここで待ってて」
俺は隣に居るミコにそう言うとレイカさんの後を追おうとした。
「私も、行く」
「でも……」
「私も、大丈夫だから」
本気の目で訴えられてしまった。
「わかった、行こう」
「うん」
こうして俺達はレイカさんの後を追うよう奥へと進んで行った。
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