第9話 第壱試合 【セレスト】

騒がしい会場。そこで挨拶をしたセレスに見惚れた。


「やっぱ……好きだな」


思わずそう呟くほどにセレスに目を奪われている。


『第壱試合! 早速面白い組み合わせだぁ! 

 セラスタ騎士団副団長セレスト・パッセ!

         VS

 セラスタ騎士団5番隊隊長ピラーサ・フラン!』


カルエトの声を聞いて自分の両頬を叩く。


「切り替えろセレスト。セレスへの思いは留めろ」


さっきセレスが挨拶した騒がしい会場。

そこに一歩ずつ進む。


「頼むぞ。ダインスレイヴ」


鞘から出した相棒の柄を撫でながら会場に進む。


(相手はピラーサ……ピラーサの相棒は俺の相棒との相性が悪いな)


セレスはこの試合はどっちが勝つと思っているんだろう。


「簡単には勝てないだろうな」


そう思いながら目をつぶって大きく息を吐いて自分の両頬を叩いた。


「今回こそお前に剣を抜かせてみせる」


会場に入場した途端セレスの挨拶で盛り上がりきった観客の声が雨のように降り注ぐ。


「ーー見てろよセレス。勝ってみせる」


俺より少し遅れてやってきたピラーサにも歓声の雨が降り注いだ。


(ピラーサの動きは多分……)



『試合 開始!』


カルエトの開始の声を聞いてピラーサが速攻を仕掛けに一気に距離を詰めてきた。


(やっぱりな!)


カルンウェナンはリーチが無い。だったら距離を詰めて短期で決着をつけるのがピラーサの勝ち筋だ。


「そう簡単に間合いに入らせる訳ねぇだろ!」


ピラーサから距離を取ろうとしてダインスレイヴで牽制しようとする。

だが、ピラーサがいきなり後ろに飛んで間合いを開いた。


『おぉっと!? ピラーサ隊長距離を取ったぁ! だがこの間合いはセレスト副団長の間合いだぞぉ!? 何か策があるのかぁ!』


カルエトも観客も急に開いた間合いに驚いている。


「この間合い……」


この間合いは俺の一番得意な間合い

一番安定してる間合い


(デコイは持ってない……カウンター狙いか? だとしたらかなり過去の記録見てんな。そうなると……)


ピラーサが俺に与えた間合いのアドバンテージを捨ててさらに後ろに下がる。


さらに下がった俺を見てピラーサは驚いたように少し目を開いた。

ダインスレイヴを強く握る。

俺がさらに間合いを開けることは想定外らしい。


(ピラーサも動揺してるな……この間合いは数人しか知らないからな)


一気に距離を詰めてから掌底を確実に打てる間合いを探る。

俺が掌底を狙っているのが分かったセレスとポルトが止めに入れるようにしていた。


掌底をすぐにでも狙える間合いに入った。

タイミングを見計らって掌底を仕掛けようとしたが少し考えて止めた。


(掌底はいざって時に使おう。あんまり手の内を晒すのもよくないな)


掌底を使わないとなると俺が取れる選択肢は一つ


(早めに決着をつけた方が良いな……)


『おぉっとぉ! セレスト副団長が間合いを詰めるために動いたぁ!』


ピラーサが何かを狙ってるのは分かるがピラーサを舐めてかかって痛い目を見た奴らは多い。


「速攻仕掛けて終わらせる!」


速攻を仕掛けるがピラーサはギリギリで俺の剣を防ぐ


(やっぱり俺の剣の癖を理解してる)


かなり時間を掛けて俺の剣の癖を研究したんだろう。

ギリギリとはいえ確実に俺の剣を防いでくる。


「やっぱやりずれぇな!」


一筋縄では行かない相手ということは分かっていたがそれでもやりずらい。


それでも冷静に確実にピラーサの体力を減らす為に速攻を仕掛け続けた。


(あんまり長引かせても俺の体力も削られる……)


ピラーサの狙いが今でも分からない。

それに速攻を防いでいる時にやけに床を気にしてた理由が分からない。


その思考が常に頭をよぎる。


もし長期戦を狙ってるんだとしたら、今すぐ決着をつけた方がいいか?

それを読んでカウンター狙いだったらどうする?

この思考そのものが奴の狙いだったら?


(落ち着け。俺。ここは通過点だ。お前の目標は誰だ)


自分自身に問いかける。


ーー俺の目標。


セレスとセラスタの背中を思い浮かべてすぐに切り替えた。


(ピラーサをしっかり見ろ。考えさせるな。攻めろ)


速攻をギリギリで防ぐピラーサに思考する余裕を与えないように絶えず仕掛ける。


(剣先が鈍った瞬間を逃すな)


ギリギリで俺の速攻を防ぎ続けるピラーサその攻防の中で瞬きほどの一瞬だった。

ピラーサの剣先が一瞬鈍った。

もちろんそれを見逃さなかった。


「今!」


瞬時に剣の腹でピラーサを壁に吹っ飛ばす。 


『ピラーサ隊長防ぎきれず吹っ飛ばされてしまった! ピラーサ隊長起き上がれるか!?』


カルエトの声がする。


(久しぶりにカルエトの声聞いたな。実況してたのか?)


そう思うほどに集中してたらしい。

けど、その集中を切らすわけにはいかない。

その場で軽く跳ねて自分の中のリズムを整える。


「集中しろ。セレストまだ終わってないぞ」


まだピラーサは降参を言ってないし気絶してない。

吹っ飛んだピラーサの方を見て剣を改めて構えなおす。


ピラーサがふらつきながら立ち上がる。


「やっぱりまだだよな」


頭から少し血を流して、腕も擦り傷だらけだったがそれでも『まだ終わってない』そう言うようにこっちを睨みながら剣を構える。


「やっぱピラーサは強いな」


ピラーサが強いことは分かってた。

誰よりも努力してるピラーサは隊長の中だと一番相手にしにくい。


(ピラーサが強いのは分かってたはずだ。リセットしろ)


ゆっくり長く息を吐いて、思考をリセットする。

ピラーサとの少しの間のにらみ合い。

そのにらみ合いの後にもう一度間合いの読み合いが始まると思っていたが、ピラーサは全然違う行動をとった。


『んぇ!? ピラーサ隊長まさかの剣を投げた!?』


カルエトの間抜けな声が響く。


剣を投げるピラーサはまったく予想してない。

予想できない。


(自分の獲物を投げるなんて想像出来るわけねぇよ!)


心の内ではすごく驚いて動揺した。

それでも上に投げたピラーサの剣を見ることはしなかった。



[何があっても相手から目を離さない]


セレスとアレストと俺が小さい時に決めたことだ。


当たり前のことだが俺達の原点の言葉。



自分で投げた剣を見ているピラーサを見て様子を伺っていたらピラーサがこっちに顔を向けて勢いよく両手を合わせて『パァン!』と音を鳴らす。


その瞬間足元から煙が発生した。


(あの時ピラーサがやけに周りを見てた理由はこれか……!)


気配探知に優れたピラーサ相手に煙内の勝負は不利だと思って煙の薄い場所に行こうとしたら距離を詰めてきたピラーサが攻めてきた。


なんとか防いでピラーサから距離を取ったはいいが、それでも俺が不利なのは変わらない。


「攻守交代ってか!?」


ピラーサの攻撃を防ぎながら距離を取る。

それがしばらくの間続いた。


「くそ! 煙が厄介だ!」


(次ピラーサが攻めてきた瞬間に一気にカウンターで決着を付けるべきだな)


そう思ってカウンターができるように剣を構えなおしてピラーサを待ち構えてた時に秋風が吹いて煙が晴れ始めた。


それと同時にピラーサが姿勢を低くして一気に距離を詰めてきた。


(まずい……反応遅れた)


『おぉっとぉ! 煙がはれてきたぁ! 勝敗は決まっているのか!? それともまだ決まっていないのか! どっちだぁ!』


そう言うカルエトの声が秋風に乗って会場に響く。

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