第8話 副団長VS5番隊隊長

「へぇ… セレスト対ピラーサか」


「おもろい組み合わせやな。意外とセレストキツイんちゃう?」


「そうだな。ピラーサの間合いに入れればピラーサの勝ちだな」


「だがよぉ、その間合いにピラーサが入れないんじゃねぇのか?」


腕を組んで座っていたゼーストが会場の中央で剣を構える2人を真剣な眼差しで見つめながらセラスタに問いかける。


「セレストの剣はピラーサの剣と相性が悪いんよ」


「ポルトの言うとおりだ。セレストの剣【ダインスレイヴ】の剣自体の反りを利用して相手のペースを崩してから一撃で仕留めるのがセレストのやり方だ」


「それがどうした?」


「対するピラーサの剣【カルンウェナン】は短剣で間合いは狭いけど、全く反ってないし、一撃が重いからペースを崩しにくいんや」


「なるほどな……」


セラスタとポルトからの説明を受けて、納得したように腕を組み直して中央にいる2人の勝負の結果を見逃さないように真剣に見つめているゼーストを見てセラスタとポルトもいつでも中断できるようにしながら、試合を観戦した


『試合 開始!』


試合開始の声を聞いて先に動いたのはピラーサだった。


早速攻めたピラーサを見て「行けー!」などという歓声が沸き起こった。


(やっぱりな。ピラーサの間合いは狭い。そうなると一気に距離を詰めて間合いを維持することだが……)


「あのセレストがそう簡単に間合い詰められるんを許すとは思えへんな~」


顎に手を添えて考えていたセラスタと同じことを考えていたポルトが口に出して、セラスタも黙って頷いた。


「ピラーサは意外と速攻を仕掛けたのじゃな」


「ん? ノルン『意外』ってどういうことだ?」


「普段ピラーサはデコイを使って自分の間合いを悟られない戦い方なのじゃが、デコイを使わない戦い方をするピラーサは見たことが無いのじゃ」


「ほ~ん。ほんなら尚更結果が分からんな」


事前に申請している武器は決勝戦以外は公表されないためカルエトしか知らない。武器が公表されていないことで観客は次の手を楽しみに、対戦相手は警戒しないといけなくなる。


『おぉっと!? ピラーサ隊長距離を取ったぁ! だがこの間合いはセレスト副団長の間合いだぞぉ!? 何か策があるのかぁ!』


ピラーサが急に間合いを取ったのを見て観客からどよめきが起こったが、友達と次のピラーサの動きを予想している観客もいた。


(上から手を見る限りデコイは持ってない。動揺を誘いたい……わけではなさそうだな)


「う~ん。何がしたいか分からへんけど何か企んどるっつーことは分かるな」


隊長達にも武器は知らされてないため、隊長席に座っている隊長達もピラーサが何を狙っているか分からない。ただ一つ分かるのは


「かなり特殊な戦い方をしてる……」


普段のピラーサとは違う間合い。


普段のピラーサなら絶対に開けない間合い。


「今日の為にかなり練習したんやろなぁ」


『自分の得意な間合いを開けてもらったセレスト副団長! これを誘いと判断したか!? 間合いを保ったまま牽制しています!』


カルエトの実況の通り、セレストは急に与えられた自らの間合いを警戒して逆に間合いの範囲を広げて自分の間合い外まで距離をとる。


「あの距離は2人とも間合いの外なのじゃ」


ノルンがさらに間合いを開けるセレストを不思議そうな顔をして呟いた。


お互いの間合いの外で間合いを図るという状況を理解出来ていない人が多く、観客からもざわめきがしてきた。


「あの間合いは……」

「セレストがもし、あの距離からやるんやったら止めなあかんやろな」


セレストが広くとった間合いの意図を理解して2人が静かに嬉しそうに笑った。


「止めなあかんけど、セレストの掌底久しぶりに見たいな」

「アレストもいれば良かったのにな」


「そういえばアレストさんとツェルンはなんで他の人の試合を見ようとしないたい?」


いつの間にか帰ってきていたマカトが不思議そうな顔をして2人に聞いた。


「前聞いたら、アレストは勝ってから次に当たる相手を楽しみにしたいんだとよ。ツェルンは集中するためだってさ」

「自分が勝つ前提なんがアレストらしいわ~。そんでツェルンもツェルンらしいな」

「すごい自信たい……」


「だがよぉ、アレストは遠距離がメインなんだから今回みたいな近距離前提みてぇな試合じゃ勝てないんじゃねぇのか?」

「じゃが、副団長殿は毎年準決勝までは勝ち進んでるのじゃ」

「あ~そういえばそうだったな……」


ノルンからの返答を聞いてゼーストは何か嫌な記憶を思い出したかのように顔を横に振っていた。


『おぉっとぉ! セレスト副団長が間合いを詰めるために動いたぁ!』


早めに決着をつけた方が良いと判断したセレストが一気に距離を詰めようとした。


セレストが動いたと同時に観客の歓声が大きくなる。


「ピラーサは何か企んでる……早めに決着をつけたいんだろな」


「せやろなぁ。俺があの場にいても速攻仕掛けとるもん」


ピラーサの動きは明らかに何かを狙っている動きが多い。後手に回れば勝機が無くなると判断したセレストの動きはとても早かった。


「相変わらず早ぇな」


「さすが騎士団最速の人なのじゃ」


「あれが一般兵だったらとっくに終わってるたい」


騎士団最速と呼ばれているセレストが仕掛ける速攻をギリギリで防ぎながらも周りの状況を把握しようとピラーサは周囲を見たのをセラスタは見逃さなかった。


(周りを見てる……?)


一気に仕掛けたセレスト。その剣撃をなんとかギリギリで防ぎ続けるピラーサ。一瞬ピラーサの剣閃が鈍る。隙ができる。瞬きをする時間と変わりない隙。その隙を最速の男が見逃す筈はなかった。


『ピラーサ隊長防ぎきれず吹っ飛ばされてしまった! ピラーサ隊長起き上がれるか!?』


「団長、あれは相当ダメージデカイんじゃねぇのか?」


「そうだな。相当なダメージのはずだ」


吹っ飛ばされて壁にぶつかって床に倒れたピラーサを観客が息を飲んで見ていた。


「団長さん? 行かんでええのか? 降参言ってないし気絶してないんやからセレストはまだ続けるで」


「行ける準備だけはする……けど俺らが止めたらあいつらが不完全燃焼で終わるからなるべく行かない」


「りょーかい」


床に倒れたピラーサがふらふらと起き上がって剣を構えた。


『ピラーサ隊長起き上がった! まだ終わってないと言うように! 剣を構えて! セレスト副団長を睨む!』


頭から少し血を流し、腕もぶつかった衝撃で擦り傷だらけになった状況でも剣を握り、セレストを強く睨んでいた。


「僕だったら起きれんったい……」


マカトが感心したように呟いたのを聞きながらセラスタは剣を握っていつでも中断できる準備をした。


(起き上がったのは良いが……長くは持たないな)


ピラーサが構えなおした剣を急に上に投げた。


『んぇ!? ピラーサ隊長まさかの剣を投げた!?』


「何がしてぇんだよピラーサは!?」


「わらわにも分かりかねるのじゃ……」


「全く分からんたい」


「あっはは! ホンマに何がしたいんか分からんなぁ!」


「でも楽しくなってきたな」


突然のピラーサの行動に観客だけでなく、隊長達もとても驚いて動揺したがセラスタとポルトは笑いながら楽しんでいた。


ピラーサが空中で回転する剣を見て、セレストの方に視線を向けてから勢いよく両手を合わせて

『パァン!』と音を鳴らした。


その直後、ステージの隙間から煙が発生した。


「「「煙!?」」」


ゼースト、ノルン、マカトの3人が声を揃えて目を丸くして驚いた。


「へぇ~煙かぁ! 何か企んどる思っとったけどまさかの煙かぁ!」


ポルトが楽しそうに、にやつきながら会場を見つめた。


「煙ってなるとセレスト不利だな」


「だがよぉ煙はピラーサも不利じゃねぇのか?」


セラスタの言葉に反応してゼーストが質問してきた。


「騎士団の中で一番気配の感知が化け物なのがピラーサだ。それを最大限イカす戦いかたにしたんだろう。その証拠に今煙の中でセレストは動けてないからな」


(この位置から煙の中の動きが分かってる団長も相当化け物だよ……)


ゼースト達が心の中でそう思ったことはセラスタは知らない。


(さっすが団長さんやな)


ポルトがこう思ってたこともセラスタは知らない。


『さぁ~て煙で中が分からないが! 金属音がするのでまだ戦闘は続いてるようです!』


「ポルト、すぐに行ける準備しろ」


急にセラスタが立ち上がって剣を構えたのを見てすぐに行けるようにポルトも剣を準備をした。


秋風が吹いていたためすぐに煙がはれ始めた。


『おぉっとぉ! 煙がはれてきたぁ! 勝敗は決まっているのか!? それともまだ決まっていないのか! どっちだぁ!』

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