第二巻 ようこそ、オカルトの世界へ


「え⁉︎ 何⁉︎ 何なん⁉︎ はな、離してよ!」


 ガタガタガタガタ。

 体が震える。その手の冷たさに、生者だと思えなかったからだ。

 だが、ここでこの世の者じゃないと認めたらオカルトの世界になってしまう。彼女らを生者として話しかけた。


「俺の言葉、わかる? じゃぱにーず。日本語! 手を離してよ!」


 腕を振り払えないほどの強い力。その指先から悪寒を感じる。まるで皮膚から体に侵入してくるような気持ち悪さがあった。


「だ、だれか、変な人がいます! 変な女子高生がいます!」


 誰も助けには来てくれない。

 向けられる視線が俺の方に集まってくる。


「俺なんか見なくてもいいから誰か助けてよ! 確かに制服が超絶可愛くて、頬擦りしたくなるし、コレクションにとっておきたい気持ちが爆発寸前だけど、これってセクハラとか言われて冤罪されるパターンだよ!」


 半ベソをかいてると、声を顰める会話が聴こえてきた。


「アイツ、何言ってんだ?」

「さあ、女子高生がどーのこーの、て言ってるけど」

「どこにいんだよ」

「知らん。変な女子高生っつーか、あの男子の方がヤバいんじゃねえ?」


 俺は周りを見渡した。


「……誰にも女子高生が見えてない?」


 歩行者信号が点灯し始めた。


「も、もしかしてドッキリとか? 絶対ドッキリだよね! カ、カメラはどこかな〜?」


 周りを見渡す。だが、どこにもカメラやスタッフらしき人はいない。

 信号が赤く点灯する。

 信号の色が変わったというのに動かない俺に対して、車はクラクションを鳴らした。


「ヤバ」


 早く渡らないと。

 そう思っていても、彼女の腕を振り解けなかった。


「離せよ! 何なんだよ! 俺が何したっていうんだ!」


 肩が外れるのではないかと思うくらい、力を込める。男の全力でもピクリともしない。

 すると、黄色い車が走ってきた。運転手は俺の存在に気づいていなかった。スマホを見ながら運転するなんて、非常識過ぎる。


『ワタシ、汚イ? ワタシ、臭イ?』

「はああ⁉︎」


 首の長い女性は急に話し始めた。長い前髪で隠れる目元。しかし、チラリと見えるその目は、明らかに俺を獲物としていた。


『ワタシト友達ニナロ?』


 ぞわっと、全身に悪寒が走る。

 同時に、あの黄色い車が目前に迫っていた。


「し、死ぬ——」


 車に轢かれて死ぬ。

 変な女子高生に絡まれて、痛い思いをして、こんなところで死んでしまうのか。

「死にたくない‼︎」と、心の底から叫んだ。


「やー」


 それは一度も聞いたことのない男の声だった。

 俺の隣に落ちてくる人影。闇を表すような真っ黒な髪が靡く。


「怪異の七人御先しちにんみさき


 彼は白いヘッドホンを首に掛け、複数のベルトを靡かせた、黒いロングパーカー姿だった。


「殺しに来たよ」


 物騒な言葉を吐く男の目は、綺麗な夕焼け色だった。


「君は一体——」


 男は俺の腹を思い切り蹴り飛ばした。

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