1999年12月24日 21:41

 今年は特別な記念日を作る!

 あと数日で2000年。メシア様が産まれて2000年になる。

 レオ君にさっきそんな話をしたら、メシア様は年末とも言える今日1999歳になったところだという話。だから計算法が違うと説明されたけど、細かい話はあとで。

 1999年の前夜祭は、レオ君と愛で満ちた夜を過ごす!



 レオ君は今日も仕事で、電話してもなかなか帰ってこなかった。だから奥の手を。


 熊野副所長に連絡をしたら、割と早く帰ってきた。玄関先でレオくんに凄く睨まれたけど。

 でもこんなことで怯む訳にはいかない!


 今日のために七面鳥も手に入れたし、今日一番重要な例の飲み物もしっかり冷やした。デコレーションしてラベルも隠したし、大丈夫。


 聖夜っぽくレオ君に帽子を被ってもらおうと思ったけど、断固拒否されたので、仕方なくわたしと、ベビーベッドの中で寝ているルナで被った。

 でもルナは違和感があったのかすぐ外しちゃった。



 お母さんが毎年していたように、七面鳥を丸焼きにして、ケーキを用意して……。


「乾杯!!」


 リンゴのスパークリングワイン、シードルを注いだシャンパングラスで乾杯。レオ君がグラスを持ち上げないから、わたしからグラスを当てにいかないといけなかった。

 レオ君が乗り気でないのは――。


「シャンパン?」

「違うよ? リンゴのソーダだから、お酒は入ってないよ」

「……そうか」


 ――下戸だから。

 酒にめっぽう弱いレオ君は、実験以外ではアルコールを避けている。


 お酒じゃないと確認したレオ君は、やっとシードルに口をつけた。


 嘘をついてまでレオ君にお酒を飲ませたことに、ちょっと心が痛むけど、顔に出さないように務める。

 ケーキに飾られる砂糖菓子よりも甘い時間のために。


 シードルは度数が低いし、アルコールをリンゴの香りで誤魔化せるから、舌がバ――味に無頓着なレオ君ならなかなか気づかないと思う。



 七面鳥を平らげた頃には、レオ君はすっかり大人しくなっていた。


「隣、座ってもいい?」


 ダイニングテーブルで向かい合って座っていたけど、顔を赤くしているレオ君の隣の席に移動する。

 耳まで赤いの、可愛い。


 何も言わずにわたしがそばに来るのを許したレオ君は、ケーキをじっと見つめる。


「欲しいの?」


 レオ君が、わたしのほうをちらっと見たかと思えば、こくりと頷いて、わたしの肩にすがってきたぁー!



 この時を待っていた!!

 レオ君は酔うと、ものすごく甘えん坊になるのです!

 いやいや、落ち着きなさい、ダニエル、焦っては駄目。もうちょっと酔わせてあげればとろとろに――。



 ルナが泣き出した。


 反射的に立ち上がってしまい、わたしに体重を預けていたレオ君が転げ落ちた。


「ごめん!!」

「痛てぇよ……」


 力無く抗議するレオ君が、テーブルの下から頭を出してわたしを睨む。

 でもそれは、帰ってきた時みたいな冷たい視線ではなく、寝ているところを起こされた猫のような不機嫌そうな視線だ。

 すぐに抱きしめたいけど……。



 ルナのおしめを替えて、仕切り直し。

 改めてレオ君の隣に座ると、もう一杯分シードルを勧める。


「ダン、お前これに酒が入ってねえって言ったよな?」


 ぎくっ。

 思わず言い訳を考えていたけど、レオ君はまたわたしに寄りかかって、グラスを差し出した。


「もう一杯くらいなら……」


 よし! 出来上がっている!


 お酒を注いであげると、レオ君は機嫌がよさそうにそれを飲む。


「ケーキもいる?」


 黙って頷くのがまたいい。

 ケーキを1口分取って、レオ君の口元に運ぶとパクッと食べた。

 嬉しそうに口角を上げているのが可愛い。


 フフフ……。ここまで堕ちたら、もう抵抗はしないだろう。

 情熱的に燃え上がる聖夜の幕開け――!



 と思ったら、またルナが泣き出した。



 少しは学習したから、レオ君を転げ落とすことはなかったけど……。

 わたしがルナをあやしている内に、レオ君が自分でケーキを食べ始めてしまった。


 わたしの楽しみがぁ……。レオ君にアーンしたかったのにぃ……。

 こうなれば、シードルをもう一本空けて、口移しででもお酒を飲ませなきゃ。

 今夜は長期戦になる!


 でもルナが泣き止まないよー。もうお腹がすいたのかな。おむつも汚れてないけど、どうしたんだろう。


「赤ん坊が夜泣きする理由って、まだ解明されてないらしいぜ。お前が悩んでも仕方ないんじゃないか?」


 ケーキを食べ終えてしまったらしいレオ君が、ルナの顔を覗きに来た。ちょっとふらついた足で。


「そうかもしれないけど、いつまでも泣いていたら心配だよ」

「それもそうだよな。いつもいぶきの世話をありがとうな」


 ……はえ?

 レオ君が褒めてくれた?


 思わずレオ君のほうを向くと、すぐ近くに彼の顔があった。

 そして、唇に温かくて柔らかいものが触れた。


「いつも頑張ってくれているから、ご褒美。もう今日は寝るよ。おやすみ」

「……おや、……すみ」


 まさかレオ君からくれるとは思ってもいなくて、ふわぁーっと昇天しそうになる。


 …………ずるい。

 

 わたしが強引にでも奪おうとしていた唇を、そっちから貰っちゃったら――……。


 ずるい!!


 千鳥足で階段を登っていくレオ君を見つめながら、喜びと怒りを噛み締めた。




 翌朝、すべてを理解したレオ君にしこたま怒られました。

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ヒューマノイド《異端児の追憶》 園山 ルベン @Red7Fox

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