GeM-Hu「いぶき」の成長経過について

レオナルド・D・アルバーン 2000年7月28日



   目的


 ステラ・アルバーンのゲノムを用いたGeM-Hu(注釈1)であるルナ・いぶき・アルバーンが産まれてから一年が経つ。

 染色体異常のあるヒトのゲノムを編集して移植した以上、発育に異常がないか確かめる必要がある。

 遺伝的な疾患はなくとも、試験管ベビーであるため、発育環境によって影響を受ける可能性も否定できない。特に疫学的な疾患などはないか注視したい。


 今回の結果に異常がなくとも、継続的に続けていく積もりだ。




   方法


 摂津大学病院にて、身体測定及び血液検査を実施。着床、出産の際に担当してもらった三宅みやけ医師に、引き続き担当してもらう。三宅とは旧知の仲だし、彼のことは信頼している。

 検査結果の数値に気になる点があれば、重ねて検査をする。




   結果


 各種データについては次項の表A参照。

 俺の主観だがよく発育しており、身長は平均値より1.4センチメートルほど、体重は平均値より0.8キログラム ほど大きいとのことだった。

 また、血球系検査の値で言えば、正常の範囲内ではあるが、ヘマトクリット値や白血球数が平均値より若干高い。

 免疫としてもアレルギーなどの異常は見られなかった。




   考察


 ダンの子だ。健康すぎる。

 血の気も濃いし、免疫も健康的。

 遺伝子工学者として気になる点として、外見上の形質、特に虹彩の色が気になる。

 産まれてから色が安定したが、ただのベビーブルーではなく、やはりブルーの系統だ。ダンはグリーンの眼で、俺はヘーゼルの眼をしているが、それぞれの劣性遺伝が発現したようだ。俺のお父さんもブルーの眼だったから、それがいぶきの代で現れたのだろう。

 また、ベビーブロンドかもしれないから大人になるまで分からないが、髪はゴールデンブロンドのようだ。ダンがサンディブロンドで、俺がライトブラウンだが、俺のお父さんのアッシュブロンドだから、納得はできる。

 あと、肌の色としては栗色と言ったところ。純粋なオーストラロイドほどの色の濃さはなく、ダンほど黒くはない。それでも、やはり暗褐色の肌は優性遺伝で、俺ほど肌が白くなる訳もなく。俺とダンと、どちらの肌の色が近いかで言えば、ダンに近いだろう。瑞穂で生活していると目立つだろうが、ネヴィシアNevisia人としての誇りは持っていて欲しい。

 優生学はまだ根絶できていないが、ガブリエルのようなそこらの人間より有能で優秀なネヴィシア人だっている。心配は杞憂かもしれないが、もし偏見があれば、負けないで欲しい。



 それにしても、我が子が採血されるというのは、こんなに心が痛むのだな。

 思い出すだけで痛ましい。




――――注釈――――

注釈 1) GeM-Huとは、Genetically Modified Humanoidの略称であり、つまりヒトゲノムに編集を加えた生命体の総称

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