第三章 真新しいエレベーター
第11話
数日経った夕方。
「はぁ」
「ふぅ」
と同時に、二種類のため息が。由貴とコウは顔を合わせる。由貴はヘッドホンをしていたため視線で気付いたようだ。
「なんだー」
気が抜けたような由貴。画面と睨めっこで目がしゅわしゅわするのか目を擦らながらコウに言う。
「なんでもない。由貴はどうなの」
とコウは大あくび。
2人ノートパソコンを突き合わせてブランチの後からずっと作業をしている。毎日ダラダラと過ごすから夜も遅いし朝もゆっくり。
幼馴染同士、気がしれてるのかどちらかの生活リズムなのか。ご飯もあのギャル幽霊が用意してくれる。
そしてまた……かれこれ二、三時間経つ。
「動画三本目の作業中」
「手際良いな」
「ありがとう。部屋の環境がええからや。コウは」
「……まぁそこそこ」
「……」
「なんだよ!」
由貴はコウのパソコンを見るとネットサーフィンをしていた。自分のエゴサーチ。
「……俺に動画作らせておいて何やってんだよ」
「息抜きだって、息抜き。ちゃんとサーチやメールチェックしてますー」
「自分一人でできる除霊作業を僕も巻き込んで……ほんといやになるなぁー。メールチェックもずっとしてるじゃん」
「メールチェックも大事なの。あと動画コメントの返答もしなきゃだし」
「……そんなにないだろ」
「いますー」
「……『また相変わらず胡散臭いことやってる』」
由貴がコメントを読み上げるとコウはそのページを閉じた。
コウは言い訳をしながらもタイピングを始める。どうやら本格的に打ち込み始めたようだ。
由貴は音のチェックをし、三本目も終わらせた。
「由貴はほんと早いなぁ、なんで動画作るのを仕事にしなかったんだよ」
「なんでだろうなー……生活のために、お金稼ぐために働いてたような気もする」
「所謂、ライスワークか」
「ライスワーク? ライフワークじゃなくて?」
由貴は考える。
「そ、お金稼ぐため、飯食うための仕事。で、俺は今ライフワーク。お金にならんが生き甲斐になってる」
「……除霊して動画作成して……稼げない」
「ルームロンダリングもそこまで稼げないし、って興味持ったんか」
由貴はコクリと頷いた。コーヒーが尽きかけたことに気づかずコップに口をつけてコーヒーがないことに気づいた。
そのコップをコウが取り上げコーヒーを入れに行く。
「悪い」
「もう二杯ぐらいやってる」
「気づかなかったわ……ありがとう」
「お前という奴は。ほんと昔と変わらん」
由貴は集中してしまうと周りが見えなくなる。子供の頃その世話焼きを虹雨がしていた。
「……コウもかわらんわぁ」
「そうか?」
「にしてもその仕事……どこから依頼が来るんだよ」
「やっぱり興味あるんじゃん」
「あるある、もう俺に残ってるのは幽霊みえる力しかない……」
と由貴はノートパソコンを閉じてヘッドホンを置き、立ち上がって両腕を上げて伸びをした。
「でかくなったよなぁー」
「そうか、お前がチビのままだろ」
「るせぇよ。ミニマムサイズの方が動きやすいんだって」
とコウも、立ち上がって伸びをするが由貴には届かない。頑張ってさらに伸びても届かないのに由貴はさらに伸びる。
「足が短いから無理やな」
「くそっ」
休憩もほどほどにし、由貴は噂のコンビニの動画をネット上にアップした。
「よし、これでオッケーや」
「おつかれさん、疲れたやろ」
「コウが労いの言葉なんて雨が降る、ひどい話……雪、猛吹雪、雹霰」
「んなことあるかい」
と虹雨が鼻で笑った瞬間、外は急に暗くなり、けたたましい音が。
「ほらーっ!」
由貴は指差して笑った。
「うわーっ、すげー言霊」
コウは驚く。
「言霊とかゆうな、うさんくさい」
由貴は自覚がなさそうだ。
「なんだよ、うさんくさいって……本当に言霊は存在するんだ」
「へぇ、って……あ、下着干したままだよた。飛ぶかもなー」
「うわ、早くしてよ、ほんとーに飛んでいったらどうするんだー」
コウは慌ててベランダに行った。
「……下に落ちてしまったー」
下を覗き込んで二人は雨に濡れた。
「言霊、すっご。お前、そんな力あったっけ」
「んー? ……それよりも下取りにこうよ」
やはり由貴には言霊の自覚なさそうだ。
「おう、てか下って……」
由貴と虹雨はベランダを見た。
「これ以上言うな」
「言霊、だろ」
2人はエレベーターに乗る。
「このエレベーターもなんか新しいな」
「やっぱ気づいたか」
「あぁ、外観の割には真新しい……って」
「これ以上いうのはよそうか、今日はなんとなく」
「うん、なんとなく今はやめとく。なんとなく」
同じ言葉を繰り返す由貴。だが絶対何かあるかと察する。エレベーターは1階に着いた。洗濯物が落ちた場所は一階住人のベランダと駐車場の間の植え込みであった。
「綺麗に剪定されているな」
「でもここにあの男が落ちたんだろ」
「そうだな、でも誰も花束とか置かないのか」
「まぁ家族全員死んじゃったし……知り合いもいなかったんだろうね。せめて誰かアパートの人とか花でも置いてくれたらねぇ」
と言いながら手を伸ばすがコウは洗濯物に届かない。すると手の長い由貴がひょいと取り上げる。
「ありがと」
「おう、って下着汚れちゃったなぁ……また洗濯しなおしだな」
「買いに行くか、ついでにこの街案内してやる」
なぜか偉そうなコウ。
「そうだな。他に行くアテもないしなんならここの街をもっと知りたいし」
「おおう。あ、ここは悪くない、お前のいたところはどうか知らんけど。都会だけども落ち着いとる。管理人さんに連絡してお前も住めるか聞いてみなきゃなぁ」
「住めないこともあるの」
「そうだな、一応申請しないとな……曰く付きの部屋だったらそれくらい多めに見てくれるだろうけども」
「じゃないと困る」
すると2人の元に頭のはげた中年の男がやってきた。
「あっどうも」
「管理人さん」
その男はアパートの管理人だった。偶然である。彼は掃除道具を持っている。この辺りの掃除に来たのだろう。
「ちょうどよかった。ここに落ちたあの例の男の部屋、家族丸ごと除霊させていただきましたことをご報告します」
「あー、ほんとかね。それはよかった。こんなにも早くやって下さるとは」
「いえいえ、あと料金は後日請求されるかと思います。予算内で済みましたよ」
「……そうかい、そうかい」
予算内? と由貴は首を傾げる。依頼をしたのはこの管理人だが、少し浮かない顔をしている。
「あとしばらくこの男も同居する予定なんですが……」
由貴は頭を下げた。しかしまだ浮かない顔をする管理人。
「すまない、実は……」
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