第12話

「絶対言霊通りだ。由貴のせいだ!」

 子供のようにコウが由貴に指差しながらワーワー言い始めた。

「すまん……いや、なんで僕謝ってるんだろ」

 コウは頭を抱えた。由貴もシュンとしている。


「いくらなんでも急すぎだって! ひどいぞ!」

 今度は管理人への怒りに移ったようだ。

「このアパート取り壊しだなんて……」

「……まぁな、もともとルームロンダリングだったわけだしこの依頼終わって落ち着いたら次の依頼で他のルームロンダリングなり何かあったら引っ越すかなぁって思ってたけどもさ!」

 怒りが抑えられないコウ。


「次もルームロンダリングだったらいいけど……言霊言霊」

「期待していいかな。もうせめてルームロンダリングじゃなくてちゃんと家とか土地とか誰かにもらえるとかそっちの方がいいけども……贅沢はいけないよなぁ」

 コウは由貴の言霊頼みだが少し控えめだ。しかし手を合わせて由貴を拝む。


「どうすんの、新しいところ見つかる?」

「今から探せって言われても……引越し準備とかしてたら依頼も受けれないし、てか引っ越し費用ー」


 ピコン


 スマホの着信音。コウは慌てて出た。


「所長、どうもですーコウです」

 先ほどの駄々こねた子供のようだったが、電話に出ると猫撫で声だ。


 所長というのはルームロンダリングや心霊現象の依頼を送ってくる事務所らしい。

「はい、はい……報告書書き直しですか。さっきもメールを送りましたよね。あとそれに今の部屋、いやアパート丸ごと取り壊しって。他のルームロンダリングのご依頼とかないんですか……ない? ない? そうですか。はぁ、はい……他の依頼の件も……ない、ないですか」


 2人してガクッと首を下ろす。コウは着信を切った。


「あぁぁぁぁぁ……どうすりゃいいんだよっ! ルームロンダリングは今流行りすぎて他の人たちに案件まかしちまったって!」

「でも管理人さんが取り壊しまでならいてもいい、僕もここに特別に住んでもいいて言ってくれたしね」

「そりゃ当たり前だって。そうでもなきゃダメだろー」

「でも元々入居者もここから前から減ってたのこの部屋の事件のせいだけではないだろ、あのエレベーターといい」

「……だよな。怪しすぎる。ってか、都会でこの部屋と同等のアパートで由貴と男同士の2人暮らしで住むのに絶対今の貯蓄では見つからんぞ。どうすりゃいいんだよ。実家に帰るかどっかで野垂れ……」

「ん、今なんて」


 由貴がコウの顔を覗き込む。


「野垂れ……」

「それは言うな」

「実家に帰る……あ」

「実家……虹雨の」

「でも東京から岐阜に戻るんか……引っ越し費用嵩むし仕事も田舎やしあるかどうか」


 由貴はコウの肩を持つ。そしてしっかりと目を見ながら


「もう僕はあの夜東京では死んだんだ。コウと再会……故郷で再出発したい」

「そか……」

「って僕は岐阜に戻っても実家には戻りたくないし」

「まだ母さんとは仲直りしてないのか」

「してない」

「で、あっち戻っても一緒に暮らすつもりだった?」


 由貴は目を丸くする。コウはスマホでメールを誰かに打っている。


「東京では2人で暮らしてもいいけど誰が岐阜でも一緒に暮らすって言った?」

「え、違うの」

「違う!」

「そんな、僕また野垂れ……」

 コウは寸前のところで由貴の口を塞いで項垂れる由貴を見て笑った。


「んなわけないだろ、冗談」

「冗談きついって、昔から変わらんな」

「あ、母ちゃんから返信来たで……『帰ってきてもええけど、あんたらの住む部屋はない』……へ???」


「「えぇぇぇえっぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!!」」


 コウが部屋の片付けをしている中、由貴は動画の視聴者のコメントを見ていた。エゴサも仕事の一つとコウが由貴に教えていた。だが由貴は少しかったるそうに見ていた。


「やっぱり視聴者にみえない除霊動画よりもラーメン動画の方がコメントも視聴回数もポジティブなんだよなぁ」

 コウは違う動画見てニヤニヤ。

「あと由貴のリアクションが大きいやつも結構回ってんだよ」

「やったね」

「俺にあって由貴にあるもの……はぁ、こっちはずっとやってんのに新参者に負けるとはな」

「でもコウの人気も一部信者的な人もいるわけだし落ち込むことないよ」

「まぁな」

「少しは謙遜して。あとは手を素早く動かしたら? 荷物も多そうだし」

「これでも少ない方だ、ルームロンダリングの依頼がいつきてもいいようにスーツケース二個で住むようにしているんだよ」

「僕は一個で十分かも」


 ふと部屋の片隅に置かれた由貴の荷物。機材がほぼ占めている。


「お前本当にこれだけでよく生きられるな」

「機材があればあとは何もいらない」

 機材に由貴は頬擦りする。他の人には信じられない姿である。まぁ一個かでかい訳だが。

「でもただの宝の持ち腐れだったろ。自分で動画やろうとか思わなかったのか」

「撮ってたよ。でもただこうやってネガティブな意見とかが嫌で自己満だった」

「……って撮っていたやつ見たけど景色とか動物とか……」

「勝手にみるなよ」

「見れる所に置くからだろ」

「で、感想は」

「感想は……」


 コウは片付けに戻った。


「言わないのかよ!」

「……お前のやりたかったことと社会がマッチングしなかっただけだな。もったいない」

「でも今、コウと再会して実現しかけているのに、なぁー」

「あの夜救われなかったことを考えるとよかったじゃんか」

「ほらこうやって自分のやったことを称えようとするのが昔から変わらん、ムカつく」

「ムカつくってそうやって指摘するのがムカつくぞ。もっと感謝しろ、母ちゃんもお前と俺が住める家を探してくれてるし」

「はいはい」


 そうである、コウの母がそのあと冗談だったと電話をかけ直してきて(冗談を言うのは日常茶飯事なコウの母らしい性格である)実家の近くで2人の部屋を探してくれるとのことである。


「家を探してくれるけど、家賃とか引っ越し費用は俺ら持ちだからもっと稼がないとなぁ。所長に報告したら引っ越し代金と家賃を立て替えてくれるって、即答」

「すごい、所長とできてるのか」

「んなわけないだろ、所長は人妻でアラフィフ」

「熟女と不倫……」

「バカかっ!!!」

「はいはいー片付けしようねー」

 いつものように宥める由貴。

「でも即答だなんてなんか裏あるじゃないの」

「うるさーい!!!」


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