第2話

 2人はとあるコンビニに寄った。チェーン店ではない、見た目からして古いコンビニである。

「他にコンビニはないのか」

「何故かないけど……とりあえずここに入ろう」

 コウが先陣を切って入っていく。由貴は嫌な予感しかないような顔して店内を見渡す。


「なんとなくここに足が向いてしまったけども……てかなんでコウはあそこにいたんだ?」


 コンビニの内装を見ると昔酒屋だったところがコンビニ風にしたようなお店であった。棚には何故か水中花やぬいぐるみが飾ってて蛍光灯も薄暗い。チカチカする。


「……あのビルにお化けが出るって噂で聞いてな。撮影に来てたんだ……」

「撮影?」

「由貴、少し盾になれ。お前の大きさはちょうどいい」

「え。なに。撮影? ねぇ、教えてよ」

「しっ、黙っとけ」

 由貴の体の大きさを生かしてコウは身体の隙間からスマホのカメラをどこかに向けている。由貴は気になって見ようとするがコウにつねられる。


「撮影ってなんだ、てかなんか寒気する。冷房効きすぎなのか?」

「……俺、恐怖系動画チューバーやってるんだ」

「まじかよ……まさかお前、あれを利用して」

 コウはコクリと頷いた。


「そこまで金にならんがあれの力でな」

「うまくやってんなぁ、その手があったか」

「それしか俺には能がない」

「でも見たことない、恐怖系動画チューバーだなんて」

「まだまだこれから、これから伸びてく」

「何年やってるんだ、実家の居酒屋で働いてたんじゃないのか。それにずーっと気になってたけどその怪しい格好」

 明らかに由貴のラフな格好と不釣り合いな全身黒スーツにサングラス、おかしいということをようやく伝えられた。


「居酒屋辞めて上京してもう8年、これでやってる」

「てか8年前から東京にいたのか? うまくいってるのか」

「さっきも言ったろ、金にならん。うまくいってたらいまさらこんなことしてねぇだろ」

「……スカひいた」

「スカって、ひどいな。でもお前と再会したからうまくいきそうな気もする。感じたよな、この冷たさ。そしてさっきのカラッとした空気からじめっとした空気感」

「もうさっきから気づいてる……」


 由貴はコンビニに売られている商品を見ながらもスマホで『恐怖系動画チューバー』と検索して探す。コウがいうよりかは意外と多かった。いつもKPOPアイドルとブラックミュージックと子犬の動画しか見てないことに世界の狭さを感じた由貴。


「あ、あった。……何、コウ先生の除霊教室……幽霊に説教?!」

「今、鼻で笑っただろ。てかよく見つけたな」

「映像には何も映ってない。やばい黒尽くめのお前が説教してるだけや」

「実際にはいたんだぞ。動画にしたら映らん。でもなそこの地縛霊に苦しめられてる視聴者からメールもらって行って幽霊見つけて説教したら成仏するんだよ……まぁその様子は一部ユーザーからも人気なの~」

 にこーっと嬉しそうにコウは笑う。その笑顔は昔と変わらない。


「多分僕も立ち会えば見えたかもしれないけどみえない人にとってはコウはやばい人だよ。てかコメントもヤバい、通報案件だとか、アンチ……コメント数の割には登録者少なっ、てあれ?」

 この冷めた由貴の返しも変わらない。


 2人は子供の頃と同じような掛け合いをしていく。

「コウ?」

 由貴の横にはいつのまにかコウがいない。ふとさっきから寒気がする右腕の方を触ると鳥肌が立つほど冷えている。真後ろにチルドコーナーがあるからなのか? 

 いや違う、と由貴は現実逃避してるのではと右を向く。


「……まさか……ってうわああああああっ!!!」


 さっきまでレジに座っていた店員らしき人が由貴の横で立っていて、顔が真っ青で尚且つ首が横に折れている。すかさず由貴に向かって襲いかかってきたのだ。


「うわあああああっ、僕は何もしてない! 何も!!!」

 腰が抜けてカゴごと床に落として商品が散らばる。


 由貴は昔から幽霊はみえはするが、ビビリで良く泣いていた。

「コウーっ!! どこいったんだぁ! たすけてくれって!!!」

 ガチャっ


 と音がした。さっきまでいなかったコウが持っていたスマートフォンをどこからか出した長い三脚を取り出して組み立て置いた。


「さすが、由貴。いいリアクションありがとう。あとは俺がなんとかする……」

 冷静沈着なコウが由貴の目の前に立つ。


「まさか僕の驚いてたところ撮影してたのか!!!」

「その通り! 普通の素人じゃ取れないリアクション」

「ひどっ。でもヤバいよ、だんだん大きくなってる!」


 店員の折れた首からまた人の首が出てきた。女性くらいの大きさが男性の体に変化してさらに大きくなる。


「え、これなんだ……?」

「コウ、なんとかするんじゃないのか? ほら、昔みたいに……それにあの動画みたいに幽霊に説教して……」

「ヤバい、これは逃げろ」

「は?」

「これはダメなやつだ、撤収!」

「だめなやつって? 置いてくな!」


 だだだんんんん!


 店自体が揺れる。警報が鳴らないから地震ではない……。


「ドア開かない!」

「嘘だろ! おい、誰か開けてくれ!」

「こんな人通りの少ないところ、だれがたすけてくれる!? てか由貴がここ入ったんだろ?! もっと有名なチェーン店のコンビニ入ればっ!」

「お前が俺の能力使って面白半分でくっだらねぇ動画をふざけて撮影したからこの幽霊は暴れとるんだろうが! そもそもあのビルも面白半分で入ったんだろ!」

「あん? お前を助けたのは誰だと思ってる? 俺が動画撮ろうとしてなかったらお前はあの暗い通りで中途半端な高さから飛び降りたのに死ぬことできずに苦しみながらのたれ死んでたんだぞ!」

「るせぇ!! 話がこうなったのはな、解雇した会社の責任であって……」

「……ておい、なんかさらに大きくなってないか」

 変な音がする。メキメキ……と。

 


 

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