第3話
2人は仲は良かったが昔から喧嘩は絶えなかった。
その調子で喧嘩をしてほったらかしだった幽霊がさらに大きくなっていた。2人だった人間からさらに1人、また1人と首が生えてきた。今度は老人。性別は不明だ。
「これはまさか噂の恐怖のコンビニエンスストア!」
コウはスマホを撮影しつつも、思い出したのだ。
「噂の?! 知らん、そんなの」
「恐怖系動画チューバー内界で話題になってた深夜にしか開かないコンビニエンスストアで、もともと酒屋だったが他の有名コンビニに客取られて、頑張ってここもコンビニみたいにしようとしたが失敗して多額の借金を抱えた元酒屋一家が一家心中して、その跡地がここなんだ!」
「てかなんでタイミングよく僕らが出くわしたんだよ!」
「知らん! 俺ら2人出会っちまったから出くわしちまったんだよ!」
「意味わからん! 最悪だー!!!」
「最高の間違いやろ!! 撮れ高最高!!!」
コウは興奮のあまりハイな状態になっている。由貴は相変わらず泣きべそをかく。そんな2人はギャーギャー叫んでる間にもさらに体から猫と犬も出てきた。
「ペットもかーーーー!」
全部おそろしい形相をしている。幽霊とは言えない、化け物である。
「でもあの時のことを考えれば……」
由貴がぽつりと言った。
「……あの時のせいだ、こうなったのも!!!」
近くにあった物を投げるがどうにもならない。
その時だった。
ぴかーーーーー!!!!
と何かが光ったのだ。2人の前で。
『あんたら話が長い、うるさい! こんなところで喧嘩するな!』
さっき由貴の横にいた女の子であった。季節外れのジャックオーランタンを持って2人の前に現れた。
「なんでここにいる!」
『……今はそんな場合じゃない! 私がこの幽霊たちを連れて行く! あんたらは伏せてて!』
女の子は幽霊を抱きついた。ハロウィンの猫の仮装をしているが、ミニスカートでチラッと下着が見えた。
「おお、ラッキー」
コウがスマホで撮影する。ドアを押していた由貴はそんな彼を叩く。
「アホなことするな! この子はあのビルで暴行されて殺されてまだ見つかってないんだ! ハロウィンの格好だから四ヶ月前!」
「で、その幽霊がなんでここにいる?!」
すると彼女は苦しい表情をしつつも恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
『……タイプだったの』
「えっ?!」
由貴は驚く。
『くまさんみたいで……好きになっちゃった』
由貴は突然の告白にドギマギする。コウは自分はどうか? と身を乗り出す。
『メガネのお兄さんは巷で有名なエセ除霊師! お金ふんだくって最近は動画投稿始めた人!』
「なに?! エセ除霊師? お金ふんだくる?!」
コウの目は泳ぐ。
「俺のやってることが胡散臭いって言われてるんだよ! だったらその通りやってやろうって思ったの!」
「詐欺は捕まるぞ! 能力悪用したらいだめだって!!」
『二人ともまた喧嘩して!! 早くなんとかしなさいよ!』
女の子の腕も限界である。いや、それよりも1人でよくあの巨体の数人と数匹が固まっている幽霊に立ち向かってるのがありえないのだが。
すると由貴は何かを思い出した。近くにある女の子の持っていたジャックオーランタン、蝋燭で火が灯されている。それを拾って
「頭下げて! これ投げるから!」
由貴は力いっぱい幽霊に向かって投げた。
ぼふっ!!
幽霊にジャックオーランタンが当たり、中の火が燃え移り一瞬のうちに青い炎が包み込んで消えた。
女の子が幽霊たちから離れて由貴に抱きついた。
「おうっ……」
しっかり受け止めるがやはりその格好にドキッとしてしまう。
『ありがとう……』
「い、いえ、どういたしまして。ジャックオーランタン……燃えちゃった」
『大丈夫だよ。助かったんだもの……』
と女の子は由貴の腕の中からフッと消えた。
「残念だったな、せっかくのチャンスが。鼻の下伸ばしやがって」
「……伸ばしてない! て、ここは??」
2人は気づいたら空き地の上にいた。すっかり薄暗い朝。その足元にはコンビニにあった水中花の鉢植えが転がっていた。2人は見つめあって言った。
「やっぱり噂のコンビニの跡地ーーー!!!」
※※※
2人は架空の通報であのビルで女の子がいるかもしれないと警察に電話し、その日の昼のうちにビルの用水から女の子の遺体が見つかったと緊急速報を由貴とコウがラーメン屋で見たのだ。
「用水か……ブヨブヨだろうなぁ。可愛かっただけに残念だ」
と由貴はデザートの杏仁豆腐を突っつく。横ではスマホと睨めっこしながら昨晩の動画を見直しているコウ。
動画はやはり幽霊たちやコンビニは映ってはいないし、空き地で2人がただ騒いでいるだけであった。
「それを上げるのか?」
「……撮影時間勿体無いだろ。なによりもお前の恐怖に慄く顔が最高だし。これであとは効果音つけて……」
「スマホで全部編集してるの? 通りで雑な感じがした」
雑、と言われてコウはカチンときたがその通りで何も言い返せない。
「今はスマホでなんでもできるんだぞ……簡単簡単。反対に雑なところが素人っぽくてそれも良い」
すると由貴がカバンからノートパソコンを出した。
「これから死にます、ていう人のカバンの中身やないな……」
「他にも小型高性能カメラもあるし、音を出すサンプラーもある。死ぬときはこいつらも一緒だって思ってた……てかこれが自分の荷物の全部……」
と言いながらも勝手に頼んだ杏仁豆腐を口に入れていく。
「コウ、動画の編集は俺に任せてくれ。趣味で知り合いの結婚式のムービーとか作ってた。こういうのとか」
「……趣味だろ? そんなもん。それにお前にそんなことが……」
と、目の前でスマホから流れたのはプロが撮影編集したとしか思えない動画であった。
「トータルプロデュース、由貴! イッツミー」
ドヤ顔する由貴に虹雨は頭を下げた。
「よろしくお願いします……お前にそんな才能あったなんてな。なんで仕事にしなかった」
「趣味を仕事にするとろくなことないよ……まぁこれからはそうするしかないかなぁ。それよりもコウはちんちくりんだがそこそこ顔もいいし、話術もいい」
「ちんちくりん? そこそこ?」
しかめっ面をするコウ。それは事実であるのだが。
「コメント欄見たが一部お前の信者も少なからずはいる、老若男女……お前はタレント性はある、このコンテンツは爆発的に跳ね上がる……て。新卒から落ちこぼれてフリーターになって宿無し金無しに言われてもなぁ」
「そんなことねぇよ。昔から新しい物好きで流行に敏感だったなぁ。こういうのばかり揃えて借金したんだろ?」
「う、うん……てか、コウだって他の人が気づかないところにすぐ気づいてくれる……悪く言えば粗探しだが」
「お前はすぐネガティヴに変換する!」
「ほらプライド高い、自分好き!」
「自分好きで何が悪い!……て、雨が降ってきたな」
「ほら自分が不利になると話逸らす」
一気に外は大雨。そんな予兆もなかったのに。
「天気予報はずれたな……傘持ってないし」
コウはどうやら新しい黒スーツを着ていたため濡れたくないようだ。
「大丈夫、雨雲レーダーだとあと10分で止むらしい。ただの通り雨だ」
由貴はスマホで確認した。
「便利だな、今。その雨雲レーダーがなければあの時も……」
「だよな……」
あの時。
そう、あの時だ。
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