第4話 変身して暴いて書いて断罪する悪役

銀色小鳩様からいただいた設定:

④あるときは紳士、あるときは少女、あるときは猫、あるときはウニ……変幻自在な体になれる薬を開発し、別人のふりをして人々の前に現れ、勝手な事を言ってるやつを暴いて小説に書いて配布し断罪する。

https://twitter.com/rLYde3rus2cjqSd/status/1591057467441836032?s=20&t=UelNN10t8i9PsnPLmUIItw


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 病室のベットに腰かけ、静かに小説を読んでいた。病院での暮らしを長く続けていると、こうして本だけが自分を支えるものになっていた。

 この本はましろという私の後輩が書いていたものだ。いらないと私がいくら断っても、暇だろうといつも差し入れに持ってきた。自分の身内が書いた本なんて、少し恥ずかしい感じがしてなかなか読めないでいた。昨日は何も読むものがなくなり、仕方なく積んでいたそれ手を出してみた。いまでは、体の痛みを忘れて、彼女の本を読みふけっている。


 コンコン。


 「先輩、失礼しますよ?」

 「ああ、ましろ。ちょうど君が書いていた本を読んでいたんだ」

 「そうなんです? どうでした? 感想が聴きたいです」

 「リアリティがあっていいね。それに痛快だよ。アレなことを言うぎゃふんと言わすところなんかさ。主人公は何者? あるときは紳士、あるときは猫、あるときは中学生の少女、それにウニって何? 棘を飛ばしながらピンチを切り抜けるところは楽しかったけど」


 後輩はそれを聞くと、胸の前で手を握りしめ、ぎゅっと私の言葉を感じ入っているようだった。

 しばらくして目を開くと、私を見つめながらましろはたずねた。


 「先輩は多重世界を信じますか?」

 「わからないけど……」

 「この世の中が映写機で何かを映しているだけの世界だとしたら、映写機とスクリーンの間にプリズムを置けば、いろんな世界が現われるはずです」

 「私が研究していたホログラム理論……」

 「そうです。私達は情報を投影された何かです。通ったレンズが違うだけです。私は紳士だったり、猫だったり、少女だったり。ウニにすらなるかもしれません。みんな私であり、私ではないものです。だから、先輩が先輩のまま、死ぬことはないんです」


 彼女が手を差し出す。手のひらの上には赤と青のふたつのカプセルがあった。


 「先輩は3日後に死にます。この薬をひとつ飲めば、私と一緒に時空を超えて、さまざまな世界へ渡れます」

 「本当に……?」

 「はい。実験した結果は、本に書いた通りです」

 「……ひとつ教えて。本の通りだとしたら、なぜましろは悪役なの?」

 「それはそうです。だって……」


 彼女が微笑む。とてもやさしく、慈しむように、私の心を包むように。


 「先輩を生きたままにさせようとしている大悪人だからです。自然の摂理に反し、先輩だって心安らかになれるのに。私のせいで、生きて一緒に、いろんな出来事や事件に巡り合うんですから」

 「そっか……。それは悪だね」


 私を見つめている彼女から笑みが消える。


 「でも、そんなことのためなら、私はいくらでも悪をします。悪役になります」


 一筋の涙が彼女の頬を伝わる。


 「お願いです、先輩。選んでください。生きることを」


 私は考えるのを止めた。

 なんて必死でかわいい悪役なのだろうか。

 病で細く枯れてしまった手で、私は彼女の頬の涙をぬぐってあげた。


 「ありがとう。私の悪役さん」


 薬をひとつつまむと、思い切りよく呑み込んだ。


 「それでこそ、私の先輩です」


 彼女がいたずらっ子のように笑う。そして、もうひとつの薬をごくん飲んだ。



 それからふたりでいろんな世界を巡る旅に出た。ましろは悪役で私はその被害者。離れなかった。ずっと一緒だった。ひどい目にもたくさん合わされた。それでも……。


 「先輩、どうですか?」

 「ああ、いいよ。とてもいい。悪役なのに好きになっちゃいそうだ」


 そう言って差し出した手を、冬寂ましろは悪役らしいにんまりとした笑顔でしっかりとつかんだ。

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#私が悪役だったらありそうな設定をフォロワーさんが引用リツイートでイメージ3個言ってくれる、っていうのを小さな小説にしてみた! 冬寂ましろ @toujakumasiro

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