第20話 温泉 #1

 俺たちがクリドランに向けて出発したのは、それから二十日ほど経ってからだった。思いのほか準備に手間取ったのと、北方が随分ときな臭くなって、小競り合いが起きるという噂が流れたからだ。


 幸い情勢は落ち着いて、戦争の可能性はなくなったが、ワラフは出発の直前まで情報の収集に当たった。


 クリドランに行くのもチコとミーナで、ワラフはレースの直前に合流する手筈だった。慎重すぎるような気もするが、それがこっちのやり方なんだろう。


 で、俺たちはそろってクリドランに向かったわけだが、面白いのは俺を運ぶために馬車を使ったってこと。


 馬運車ってやつだな。


 馬車の荷台に俺を乗せて、二頭のウマで引っぱっていく。馭者はミーヤが勤め、チコは俺の面倒に専念する。


 足に負担をかけないためで、競走馬の輸送にはよくあることらしいが、ウマでウマを運ぶというのはたまげたね。随分と手間をかけるが、それだけフィオーノブ賞に賭ける意気込みが強いってことだな。


 ただ、俺が荷台に載る時、馬車馬の二頭は変な顔をしていたなあ。


 三日ほど旅をして、俺たちはクリドランの町に到着した。


 王国第二都市と言われているだけあって華やかで、人の数も多かった。大きな市が町の南で開かれていて、そこには町の住民だけでなく、王国各地から来た行商人が集まって、盛んに商売をしていた。


 ウマの売り買いもしていたよ。ばんえい競馬の輓馬よりも大きなウマがいて、正直、驚いた。ありゃあ、二トン近くあるんじゃないかね。


 俺が市場の端っこで待っていると、道行く連中にさかんに声をかけられた。


 いい馬体だねとか、走りそうな脚をしているとか言われた。


 バカっぽいのが玉に傷だがと言った爺さんがいたが、まったく何もわかっていないね。ていうか、ミーナ、笑って同意するな。


 フィオーノブ賞に出走すると言うと、皆が声をあげて驚き、賞賛の声をかけてくれた。お前に賭けるぜという声をかけてくれる者もいて、関心の高さをうかがわせた。すごいね。


 この国は遊牧の民が打ちたてたというのは、本当なんだな。


 ウマに対する興味と審美眼が半端ねえ。


 買物を終えて、俺たちは町外れの温泉宿に移動した。


 さあ、行くぞ。混浴だ。



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