第39話 研究結果
〜数刻前、コンサイド〜
「ちっ……!」
まともに喰らいそうになった打撃を上体を思い切り逸らして避けたものの、総一郎からの追撃は止まない。
僕はその追撃を全ていなしながら相手の拳に合わせて後ろへと飛び、距離をとる。
「ふざけるな……」
「これが師匠だと……?」
「お前ごときが…僕の師匠穢すな!!!」
僕は怒りを露わにするように、部屋に炎を発生させて身体から妖力を最大限に放出する。
その様子を総一郎の見た目をした奴は、まじまじと見て楽しそうに笑う。
「お前強くなったなぁ……」
「いやぁ〜嬉しいね」
「口を開くな偽物が!!!!!」
僕がそう叫ぶと、ハクが邪悪な笑みを浮かべながら話し出す。
「まぁ、完全なオリジナルという訳では無い」
「気づいてると思うが、彼は生前私とクラマと戦い、我々に負けた」
「違う!!!貴様たちが姑息な手を使わなければ総一郎は……」
「生きるか死ぬかの勝負事に姑息も何も無いだろう?生き残った者が正義で死んだ者が悪だ」
「…………っ!」
僕は飛びかかりそうになるが、前には偽物が立ち塞がり、ハクは凛を自分の近くに置きこちらは身動きが取れない。
「まぁ最後まで聞け」
「だが、この人間は強かった。だからこそ彼の肉体の情報が欲しかった」
「手始めに彼を連れ帰ったダイダラボッチを殺し、場所を暴き出し彼の遺骨を入手した」
「それを媒体に彼の肉体を再構築し、足りない肉の部分は適当な人間を殺して使う」
「最後に私の魂の一部をこの体に入れて、人格の生成と妖術の付与をし、完成だ」
「君が戦いにくいように、生前の彼らしい人格にしてみたんだが…その動揺っぷりは成功したようだ……」
奴が淡々と話した。まるで他人事のように。
やつは自分の私利私欲のために、あやかしを殺し、人の墓を荒らし、人を殺し続けた。
もはや理解が出来ない。
「何が目的だ……」
「貴様は!他者をなんだと思っている!」
「世界は…貴様の玩具では無い!!!」
僕がそう叫ぶと、奴は当たり前の事を言うかのようにあっけらかんと答える。
「さっきから言ってるだろう?」
「私は君に勝ちたい。君の絶望し、恐怖する顔が見たい」
「ただそれだけだ。それに必要だと思ったことをやってきただけに過ぎない」
「何か問題があるかい?」
意味がわからない。
たったそれだけの理由で多くの他者を蔑ろにしたというのか。
僕はあれが同じあやかしだとは思えない。
理解ができない。あれはあやかしの形をした狂気的な存在に思えた。
僕の様子に奴はニヤリと笑う。
「《恐怖せよ》」
奴の言葉と共に僕の身体から何かが飛び出して、奴の元へと飛んでいく。
奴はそれを掴み飲み込んだ。
そしてこちらを見て手をかざす。
「《跪け》」
「ぐっ……!」
その言葉に、僕は突然身体の自由を奪われ膝をつく。
その様子を嬉しそうに、そして高らかに奴は笑う。
「クックック……成功だ!!遂にやり遂げた!!!」
「私の勝ちだ!!!!!!」
「な…なぜ…!」
幸い拘束の効力はそこまで長くは無く、すぐに身体の自由を手に入れた。
だが、同時に驚愕した。
僕は奴に恐怖した。
「馬鹿な…僕は貴様に恐怖など……」
「強者に抱くのだけが恐怖だと思ったかい?」
「理解が出来ないものに対する畏怖の感情……
「それもまた恐怖だよ」
「貴様…もしやわざと…!」
「ハハハ、全てはこの時の為さ」
「さて、ここでの目的は達した。また会おう」
そう言って、奴は凛を連れたままもう一度闇の中に消えていく。
「逃がすわけが……」
僕は消える前に奴へ距離を詰めるが、やつはこちらを見て命令を下す。
「《止まれ》」
「ぐっ…!」
その言葉に身体が止まり、動かそうともがいていると、その間に偽物が目の前に来ていた。
「俺の事無視しすぎだろ。お前の相手は俺な」
そして、そのまま僕に蹴りを入れ僕はそれをまともにくらい吹き飛ぶ。
「ハク様〜!コンはもう殺してもいいよな?」
「ダメだと言いたい所だが、殺す気でやらねば彼を消耗させるのは無理か……」
「まぁいい。慕っていた師匠の偽物に殺される…それもまたいい絶望が見られそうだ……」
「へーい、なら死ぬギリギリで呼んでやるよ」
そう言って偽物は準備体操を始める。そして、奴は闇の中へと完全に姿を消した。
────────────────────
「さてと……」
偽者が伸びをしながらこちらを見つめる。
見た目も、声も、能力も、全てが総一郎だ。
そんな奴が、あの蛇に付き従って僕を殺そうとしている。
凛を助けなければならない。その為にはこの顔の似た偽者を殺さなければ前に進めない。
しかも、僕は蛇に恐怖の妖術を使用出来る条件をクリアしてしまった。
何もかもが向こうの思惑通りに進んでいるこの状況に焦りしか感じない。
「来ないなら俺から行くぞ?」
そう言って偽者は距離を詰める。だが、僕はその詰めてきた距離を炎を壁のように作り出し防ぐ。
「お前は似ている」
「顔も、声も、能力も全て、師匠とそっくりだ」
「だが、違う…」
「お前は違う!!!!!」
その言葉と共に炎は、虎、龍、亀、孔雀の四体のケモノに姿を変えていく。
「おいおい…なんだこれは……」
偽者は距離を取ってこちらの様子を見る。
「《仙法 四神獣》」
僕を護るようにその炎のケモノたちは偽者の前に立ち塞がった。
「あの人はもっと強かった…!」
「あの人はあんな下衆な奴に操られるような人じゃなかった!!」
「僕の前から消えろ!!偽者風情が!!」
「《龍玄》!《白虎》!」
その言葉と共に炎の龍と虎は偽物に襲いかかる。奴は避けながらも炎に対して、雷を使って攻撃するが、生半可な妖術では退けることが出来ない。
「ちっ……!」
奴は壁を蹴り空中に飛ぶ。そして錬成陣をいくつか生成し、そこから雷の拳を作り出していく。
「《雷よ》」
「《雷鳴 無加撃》」
白虎たちの上空から雷の拳が降り注ぐ。
「護れ。《玄武》」
僕の言葉に炎の亀は白虎たちを護るように、拳と白虎たちに割って入る。
そして全ての攻撃を受け切った。
「嘘だろ…?」
奴は驚愕の声を上げたが、それも束の間。
その間に彼の頭上には炎の孔雀が接近する。
「撃ち落とせ。《朱雀》」
「なっ…!!」
そして朱雀は奴に突っ込んで地面へと叩きつける。
そしてその4体はまた僕に付き従うように周囲に佇む。
「貴様では僕には勝てない」
そう言って僕は少し焦ったような顔をした偽者を睨みつける。
奴は深く息を吐きながら頭を搔く。
「やっぱ妖術の術式を完成させてる状態のお前だと、さすがに今のままじゃキツいか」
「……あんまやりたくはねぇなぁ」
「これをやると、加減ができなくなっちまう」
そう言って、懐から蛇が持っていた魂魄玉よりも一回り以上大きいものを取り出す。
そして、それを飲み込むと身体から先程とは比べ物にならない量の妖力が吹き出す。
「なんだ…何をした…!」
僕は警戒を緩めることなく、目を離さないようにしていると、奴の身体からは雷鳴が轟き、僕が発生させた炎が奴に吸収されるように引っ張られていく。
「なんだ!何が起きてる…!」
『やぁ、九尾。それは私が説明してやろう』
僕が困惑していると、また頭の中に蛇の声が響く。
『彼がいま飲み込んだのは《宝玉》。他者の魂の一つをそのまま封じ込めたものだ』
「魂だと?!なら、今やつは悪神に…!」
『いいや違う。悪神とは、2つの魂をその身に宿し、2つの妖術と二人分の妖力を得ることができる代わりに、自我を失うというものだ』
『だが、もし自我を失うこと無く、その力を制する事が出来ればどうなると思う?』
『それは悪の神ではなく、本当の神へと昇華する!!』
『これが私の研究の最後の成果だよ。九尾』
『私はこれを…《神妖化》と名付けた』
蛇のその言葉に呼応するように、荒れ狂うように吹き出していた妖力や、雷や僕から吸収した炎が、彼を起点に渦巻きだし、徐々に身体に纏わせていく。
額と腕には紋章のような物を浮かべ、目を青く光らせ、身体には羽衣のようなものを纏っている。
そして、右手には雷を、左手には炎を持ち、それを合わせて雷と炎を掛け合わせた刀を作り出し、構えた。そしてこちらへ静かに声を出す。
「《神妖
「さて、第2ラウンドと行こうぜ?コン」
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