第38話 夜を纏い 魔を統べ 王は目醒める

翔は自分の身体を確認するように、腕や脚などを見渡し、少し息を吐く。

その一つ一つの動きがクラマに恐怖を覚えさせる。

だが、クラマはその恐怖を跳ね除けて、辺りに散らばる骨に多種多様な妖術を付与させて翔へと飛ばす。


(まだ自分を把握しきれてはいない…叩くなら今叩かねば…!)


迫り来る骨達を翔は一瞥もすることなく、静かに一言漏らす。


幽霊ゴースト


『はーい!』


「《透過》」


その骨は確かに翔へと当たっている。だが、全てが


「なっ…!」


クラマは驚愕したが、さらに攻撃を続ける。

腕を肥大化させて真上から叩き込むが、何故か、身体をすり抜けて攻撃が当たることは無い。

翔はゆっくりとクラマが生み出した巨大な腕に手を添えて、またぽつりと言葉を漏らす


不死者アンデット


『了解』


「《腐食》」


その言葉と共に、触れられた箇所から骨が腐り落ちていく。


「バカな…!」


クラマは慌てて自分との結合を解くが、腐り落ちた骨たちは操作はおろか、再生させることすらもできない。


「砕かれたり、折られた骨は再生できるけど腐ったものは無理なんだろ?」


翔はそう言ってクラマを見る。

クラマは最早唖然というような素振りで翔を見る。


「なんなんだ…その妖術は…先程までとはまた違う妖術だと…?」

「すり抜ける妖術だと…?腐食させる妖術だと…?そんな馬鹿げたものはあり得ない!!」

「貴方のその妖術は一体なんなん──」


クラマは言い終わる前に、シュビィに頭を掴まれて、頭を地面へと叩きつけられる。


「王の御前よ?頭が高いわ」


「ぐはっ……!」


その様子を見ていた翔はシュビィを少し睨みながら呼んだ。


「おい、シュビィ」


「はい、魔王様♡」


「イス」


「んっ…!仰せのままに♡」


その言葉にシュビィは四つん這いになり翔の元へと飛んでいく。

その様子に翔は呆れながらシュビィに座る。


「はぁ……こんな事がしたかったとかお前ほんとに……」


「うふふ…♡配下達から聞いたのね?そうよ、私はこーゆーのを望んでたの♡」

「その前にどうですか?魔王様。人をやめた感想は」


「そうだな…」


翔は少し考える素振りを見せて、嬉しそうに答えた。


「今ならなんでも出来そうだわ」

「て事で、全力でかかってこいよ。俺は俺の強さを試したい」


そう言って、クラマを挑発するように指で来い来いと手招く。


「……新しい力を手にれたのがそんなに嬉しいのか……」

「人間ごときが…私に勝ったつもりなのか…!」

「ふざけるな!!!お望み通り全力で御相手して差し上げましょう!!!」


クラマは身体に徐々に骨を纏わせ、そしてその骨を圧縮させて身体を固めていく。

そして、体からはいくつもの腕骨を作り出し、その手には火、風、雷など多種多様の妖術を付与させた剣をそれぞれ持つ。


「《百鬼夜行 阿修羅道》」


その見た目はどこまでも禍々しく、本来の翔であれば身震いするほどの妖力を放つが、翔はそれどころか少し笑みを浮かべていた。


「魔王様、私とも同化しとく?」


「いや、お前としたら多分秒殺だから、もうちょい色々試したいし、一旦フウの所で待機」


「魔王様の御心のままに……」


「……その魔王様ってのやめない?なんか、すげぇ気持ち悪いんだけど」


「うふふ、ごめんね?でも、暫くは呼ばせてもらうわ?」


「へいへい」


そう言って、翔はシュビィから腰を上げて、伸びをする。


─────────────────────


シュビィはフウの所まで飛んでいき、そこで待機していた。

フウは戻ってきたシュビィに掴みかかる勢いで話しかける。


「おいどうなってんだ!!翔は無事なんだろうな?!あれは本当に翔なのか?そもそも、さっきからなんの妖術を使って……」


「あ〜はいはい、落ち着いて?1つずつ答えていくから、ちょっと待ってね?」


そう言って、シュビィは掴みかかる腕を下ろして1つずつ答えていく。


「まず翔ちゃんは大丈夫よ?見た目は変わってしまったけど、あの見た目は慣れてきたらオンオフの切り替えができるし、前の見た目に戻れると思うし」

「どうなったかって言うと、ただの「人族」から、「亜種魔人族」に『位級昇格クラスアップ』したって感じね」

「妖術というか、彼の本当の固有能力は《魔王》。彼に忠誠を誓う全ての魔物や魔族の、固有能力の使用、魔力の肩代わりもさせることができる」


「なんだそれ……」


フウは痛む身体のせいで、あまり頭が回っておらず、あまりの情報量を処理しきれない様子だった。


「まぁ、多分聞くより見る方が早いわ?彼の《魔王》を完全に使いこなせれば、この世界で彼が負けることなど有り得ないほどには常識外れの能力よ」


シュビィはとても楽しそうに話す。そして、まるであたらしいおもちゃを手に入れた子供のような目で翔を見る。


「さぁ、見せて?私の主になる貴方の力を」


─────────────────────


クラマと翔はお互いを睨み続ける。

クラマは臨戦態勢と言ったところだが、翔はその場に立ちながら構えるでもなくボーッと立っている。


「……私を舐めすぎだ!!!」


痺れを切らしたクラマが翔に切り掛る。先程よりも遥かに早く、そしてかなりの手数で切りつける。

だが、翔には一切当たらない。全ての攻撃がすり抜けていく。

翔はゆっくりと腕を伸ばして、クラマの腕を掴もうとするが、すり抜けてしまって掴めない。


『魔王様?それは無理だよ〜』

『あたいの能力は《透過》。物理的攻撃を全て無効化するってやつだけど、私からは触れられないの』


「強いのか、弱いのかわかんねぇ能力だなそれ」


「何を1人で喋っている…!!!」


クラマは妖術を込めた剣を1つに束ねて叩きつけた。だが、翔はそれを後ろに飛んで避ける。


「どーすっかなぁ……」


『なら、俺を使えよ!!』

『俺ならあんな骨の攻撃なんぞ聞かねぇ』


「なるほど?じゃあ試してみるか」


炎の魔人イフリート


『やりぃ!任せろ!』


「《火炎化》」


その言葉と共に翔の身体は全身が燃え盛る。

その様子にクラマは戸惑ったが、構わずもう一度斬り掛かる。

だが、今度も身体を攻撃はすり抜けていく。しかし、腕を翔は掴んだ。

その様子にクラマは驚愕する。


「なっ?!」


『俺の力は炎を意のままに操り、そして身体を炎と一体化させるって力だ』

『炎の密度を変えれば、自在に避けることも触れることも可能ってわけさ』


「おー!これはいいな」


クラマは掴んだ腕を振り払おうとするが、ビクともしない。

翔は掴んでない方の手を握り、握った手に炎を集めていく。


燃え盛る拳フレイムバーン


そのままクラマの身体へめり込ませ、吹き飛びそうになるクラマを片手で固定し、殴った拳に炎を更に追加していく。

炎はクラマの身体を貫通するように放出された。


「ぐはっ……!!」


翔に手を離され後ろに吹き飛ぶ。身体は真っ二つに割れていた。


(この状態の私を一撃で砕くだと……?)

(なんなんだ…一体何が起きている…!)


吹き飛んだ先で身体を再生させて、体制を立て直そうとしたが、既に翔が後ろに構えていた。


「なっ…!!」


「これはフウの腕のお返しだ」


風の魔人ミストラル


『王の御心のままに』


「《風化》」


翔はそのまま腕を前に掲げて暴風を起こして、それを腕に付与して、剣のように鋭く尖らせる。


吹き荒れる刃サイクロプスセイバー


その瞬間、クラマは身体を粉々に切り刻まれた。

翔はその様子を眺めながら、ゆっくりとうしろにさがる。

クラマは再生を開始し、瞬く間に元に戻った。


「はぁ…はぁ…なぜ殺さない…」

「貴方なら今の攻撃で私を完全に殺すことも可能だったはずだ……」


「言ったろ?俺は俺の力を試したいって」

「だから、まだ殺さない。もうちょい頑張れよ最上位なんだろ?」


翔は挑発するように鼻で笑った。

クラマは怒りよりも前に恐怖心が勝ってしまった。

。その気になれば殺されてしまうであろうこの状況に身震いした。

クラマは後ろへ飛び逃げの体勢を取った。


「貴方の遊びに付き合う義理はありません!!貴方と言えどこの量を倒して、私を追うことは出来ないでしょう!!」

「《百鬼夜行 亡者の戯れ》!!!」


クラマは先程の数とは比べ物にならない数を使役し、翔に向かわせる。

翔は特に焦る様子も見せずに、静かに目をつぶる。


「こい。死龍カースドラゴン

死霊師ネクロマンサー


『御意』

『仰せのままに』


「《死の瘴気》」

「《死者傀儡化》」


その瞬間全ての骸骨は停止し、翔の身体から吹き出す霧のようなものに包まれて塵と化していく。


「なん…だと…?」


「お前の妖術は骨を操る能力だろ?俺が使ったのは死者の魂を操るって奴だ」

「ここで殺された人間の怨念と魂は微かにでも残っている限り、この骨の主導権は俺にある」

「んで、もう再生出来ねぇように死の瘴気で全ての骨を塵と化した。これでもう魂を入れることは無理だぜ?なんせ完全に死んでるんだからな」

「逃げるってことはこれ以上は戦えねぇってことだし、仕方ねぇけどトドメさすか」


そう言ってクラマを睨みつけて、シュビィの方を見て呼ぶ。


「シュビィ…こい」


「はぁい♡我が主の仰せのままに…!」


シュビィは嬉々として、翔の元へ向かい体の中へと消えていく。


魔王シュビィ

「《魔と夜を統べる者》」


その瞬間、雲が晴れ月明かりが灯される。

まるでこの場に現れた主君を照らすかのように光り輝く。

身体に以前よりも多く、そして濃い色をした夜を纏い、圧倒的な量の魔力を放つ。


「なっ……」


クラマは絶句した。逃げる事すらも許されない。

今までの常識が全て通じない。死者を操る?死をもらたす瘴気?全てがこの世界の理から外れた能力だ。


「なんなんだ……お前は一体なんなんだ!!」

「こんな力ありえない!いや、あってはならない!!ハク様はおろか、九尾すらも凌駕するその力は、人間の1人が持っていい力を完全に超えている!!!!」

「何が目的だ!!その気になれば世界さえも滅ぼす事が可能なその力で何を望む!!」


その問いかけに翔は少し考えるように素振りを見せて答えた。


「俺の望みはただ一つ」

「世界をあやかしと人間が共存する世界にする」

「その為に俺はこの力を使う。俺が望む世界に、お前はいらねぇな」


翔は腕を掲げてると、上空に大きな魔法陣が現れ、その中に魔力と夜が吸い込まれていく。


「い、嫌だ…死にたくない!!ハク様!助けて!!!ハク様!!!」


クラマは必死に身体を動かそうとするが、何故か身体は動かない。

身体には夜と先程まで操っていたはずの骨達が、身体にまとわりつき動けない。


「死んどけクソ骨野郎」


魔王の拳サタンフィスト


魔法陣から巨大な拳が現れ、クラマを押し潰す。

大きなくぼみを作りそこには形すら残らずクラマは消え失せていた。


「終わっ…た…」


翔はその瞬間に徐々に覆われていた外殻や角、翼などが崩れ落ちていく。

そしてそのまま倒れ込みそうになったところを、シュビィに抱き止められる。


「お疲れ様、翔ちゃん」


倒れ込んだ翔の元にフウが駆け寄ってきた。


「おい!翔!大丈夫なのか?!見た目が戻って…!」


「どうやら力を使いすぎて、寝ちゃったみたいね。初めて能力でここまで使えるなら上出来なんてものじゃない」

「私も、翔ちゃんが起きるまではこっち側にはこれない。だから、九尾ちゃんを助けに行こうなんて思わない事ね」


そう言ってシュビィは翔の中に消えていく。

眠ってしまった翔は身体をフウに預けてそのまま眠る。

フウは眠る翔を抱えながら、自分の切れた腕を翼を見る。


「この状態じゃ助けにはいけねぇな……」

「勝てよ。コン」


─────────────────────

〜同時刻コンside〜


コンの身体から滴り落ちる血。身体に貫かれた刀はの先から滴り落ちる血は地面に血溜まりを作っていく。


「ぐはっ……!」


だが、コンはその相手を攻撃することは無い。

刀を握った本人は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、謝り続ける。


「ごめんなさい…ごめんなさい…!」


刀を刺したのは


そして後ろでは不敵な笑みを浮かべるハクの姿があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る