第19話 笑う巫女の目は
「コン様達に謝ってください!!早く!!」
凛の声が神社中に響き渡る。
隼人と呼ばれた翔の父親は今もやはり事情が把握できないのか固まってしまった。その隙に翔は父を振りほどき凛の横に立つ。
「そうだそうだ!謝れよ親父!!」
「こいつらは全く……」
僕は呆れ声を出して額を抑える。僕の迫真の演技が台無しじゃないか。
だが、やはり内心は嬉しく感じてしまう自分が彼らのと離れたくないと思っていた事に苦笑した。
フウの方を見ると、泣いていた目を拭いながら、嬉しそうに笑っていた。
「たくっ…しょうがねぇ奴らだなぁ…」
フウはそう言うと、翔達の方に向かっていき後ろから抱きついた。
「ふ、フウ様?!」
「お、お前急にどしたんだよ。」
凛と翔が驚いた顔をしてフウ見る。
フウはそんな2人の頭をワシャワシャと撫でながら言った。
「ありがとな、お前ら大好きだわ。」
「人間全員がお前らみたいな奴らだったら良かったのになぁ……」
「フウ……」
「フウ様……」
傍から見れば仲のいい兄妹にしか見えない3人を見て翔の父は騙されていた訳ではなく、本当に仲がいいことを理解したのか困惑の表情を浮かべる。
「な、なんで…どうして…」
「あやかしと人間が仲良く暮らしていたなんてそんなこと……」
僕はゆっくりと父の方に向き直った。
「穏便に済ませたかったが、こいつらはどうやら僕達あやかしの事が好きらしい。」
「僕らはほんとに人間を食べる気はない。」
その言葉に父は困惑しながらも疑問を投げてきた。
「で、でも他の生贄達はどうしたって言うんだ!!」
「それに夜になって森に入ったものはみんな帰ってきていない!!あれはどう説明するつもりだ!!」
僕は静かに答えていく。
「お前らが送ってきた人間も食べる事もなく、適当な村に送っていた。」
「今も元気に暮らしていたり、寿命終えていたり様々だ。」
「ずっと襲うなと言うのはあやかしには無理な話だからな。夜に森に入ってきた人間は好きにしていいという契約を交わし、その代わりに人間の村に降りて襲うことを禁じていた。」
「そもそも夜に入ることの無いように、結界や妖力の威圧などしていたが、それを跳ね除けて勝手に入って来たもののことまでは知らん。」
「ま、信じるか信じないかはお前次第だがな。」
「そ、そんな話が信じられるわけが……」
そう言ったものの、どうやら心当たりがあるようで悩むような素振りを見せる。
「……仮にお前たちが人を本当に襲ってなかったとしても俺はお前らを信じることは出来ない。」
「おい、親父!まだそんなこと言って──」
「お前らあやかしは俺の親父を殺しやがった……!」
「……!」
翔は苦虫を噛み潰したような顔をして顔を伏せた。そういえば数年前に凛が言っていたな……
「実際にあやかしに襲われて死んだ人達を沢山見てきた。そんな中人を襲わないあやかしがいるなんて、突然言われてどうすれば信じられるんだ…?」
「親父……」
「しかも、生き残ってるの凛ちゃんしか証拠がない。やっぱり凛ちゃんは──」
その言葉を遮るように、翔が父親を殴り飛ばした。こちらが止める間もなく一気に距離をつめて、顔を思い切り殴る。
父親は反動で吹っ飛んで意識を失う。
「おい、翔……」
「妖力なんて込めてねぇよ素の筋力だけで殴った。」
その顔は僕達を差別した時よりも遥かに怒り狂った顔した翔はもはや侮蔑の目と言っても過言では無い程の目を向けていた。
「おい親父、お前は今なんて言おうとしたんだ?あ?!」
「凛はなぁ!普通の人間より遥かに高い妖力を持ってんだ!だからあやかしを引き付けてたんだよ!それが理由だ!二度と言おうとすんじゃねぇぞ!いくら親でもぜってぇ許さねぇ…」
翔は親に向けていい顔をしてはいなかったが、何を言おうとしたのかが僕は気になった。
僕は凛の方を見て疑問を投げようとしたがやめた。いつも感情豊かに煌めいていた目が一瞬、光を失った目をしていたからだ。
「凛…大丈夫か…?」
僕がそう聞くと、すぐに我に返った顔をしてこちらをにこやかに微笑む。
「大丈夫です、心配しないでください。」
「そうか……」
僕は触れない方がいいと判断してそれ以上は追求しなかった。
激昂してまだ殴りかかろうとする翔を抑えていたフウの方を見た。
「おま!やめとけよ!普通に死んじまうぞ!どんだけ鍛えたと思ってんだ!妖力纏わせなくても吹っ飛ばす勢いもってんだぞ!」
「で、でもこいつフウ達だけじゃなく凛の事も……」
「その辺にしとけ。もう意識がないぞその男は。」
「あ、まじじゃん!おい、翔やりすぎだぞほんとに!!もっと自分の力を理解しとけ!」
「どんどん人から離れていくわねぇ翔ちゃん……」
「ご、ごめん……」
翔は少し反省した顔をしていた。
「さて、色々とバレてしまったがどうしようか……」
そうやって考えていると後ろから凛が手を上げて元気のいい声を出す。
「はいはい!私にいい考えがあります!」
その声に全員が凛の方を向いた。
「何かいい案が思いついたのか?」
「はい!みんなで村に行きましょう!そしてコン様達がいいあやかしだって証明してやるんです!!」
「きっと、みんな話せばコン様達がいいあやかしだとわかって貰えます!」
「「「えぇ……」」」
僕含めて、全員が嫌な顔をした。
─────────────────────
「あやかしが!あやかしが来たぞ〜!!!」
村の人たちはその言葉に慌てふためいて急いで自分の家へと隠れる。
村長らしき老人と、この村の門番らしき屈強な男2人が剣や防具を携えて臨戦態勢をとっていた。
「いやはや…これはおきつね様…。此度は何用で……」
「ご友人の天狗様もお連れとは…」
老人は僕を見て頭を下げる。
「いや、まぁ…用というか別に何もないんだが…」
「とりあえずはこの男を返しに…」
そう言ってフウに担いでいる男を下ろさせる。
「こ、これは……」
「す、すぐに処置を…!」
そう言って、後ろの門番らしき男二人は翔の父親を運んでいった。
「これは大変申し訳ありません…!うちの村のものが貴方様にご迷惑を……」
「何がお望みでしょうか……。女子供の生贄であれば直ぐに準備致しますので、どうかこの村を焼き払うのだけはお許しを…」
「いや、いらない。というか、何も望みでもなければあれをやったのは僕じゃなくて…」
僕は正直すごくめんどくさかった。ていうか何を話していいのかがまるで分からない。
そう思って早々に翔と凛を前に出した。
「き、君たちは、隼人君の息子とそして君は……」
「えーっと、村長さんお久しぶりです…私はとても元気です!」
「よう、村長!あの親父ぶっ飛ばしたの俺だからコンとフウは何もしてないぞ!!」
村長と呼ばれた老人は呆気に取られた顔をしていた。
「しょ、翔君、にわかに信じ難いがそうなのか…それよりも君はなぜ生きて……」
どうやら翔の事よりも凛のことが気になるようで、凛の方を見ていた。
それもそうだ。彼の中では生きていることは有り得るはずのない事だからだ。
生贄として送った人間が生きている。そして送ったあやかしと共に村へと戻ってきたその事実が全てがありえない話だから。
「私は生きてます。おきつね様は…コン様は…人など食べません。だから私は死んでない。」
「今日はコン様達の誤解を解く為に一緒に村に帰ってきちゃいました!」
そう言ってにこやかに笑った元生贄の巫女の言葉に驚愕というか唖然というか老人にしては表情豊かな顔をしていて、僕は少し笑ってしまった。
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