第3部
第18話 あやかしと人
「なんで親父が……」
翔は驚いたような顔をして、そのまま外へ飛び出して行った。
僕はその後を追う前に着いてこようとする凛とシュビィの方を振り向いた。
「お前たちはここにいろ。特に凛、お前がここで生きているのが村の人間にバレると面倒だ。」
「やっぱりそうですよね…わかりました。」
「なんで私はダメなのよ〜!」
凛は渋々と言った感じだが了承した。だが、シュビィの方はどうやら嫌らしい。
「お前みたいな見た目のやつが、この世界にいるのはどう考えてもおかしいだろ……」
「それならこれで行くわ。」
シュビィはそう言うと、黒くなり僕の影の中に潜り込んだ。
『これで、中にいるのは分からないでしょう?』
『翔ちゃんのお父様は結構厳しい人だし、ここにいるのがバレた時点で一波乱は確定よ。』
『何かあった時に止めれるようにしないと。あなた達バレずに止めたりとかできないでしょ?』
言い分はご最もだが、ややこしくなりそうな気がしてならない。
そう思っていると、フウが僕の肩に手を置き言った。
「まぁいいじゃねぇか。ていうか、俺たちが出ていくのもどうかと思うしとりあえず隠れて見てようぜ?」
フウがそういうのでぼくらは外に出ずに神社の中から翔を見守ることにした。
─────────────────────
「なんで…どうやって来たんだよ!!!」
翔は自分の父親に向かって荒らげた声を出す。
どこか翔の面影のあり厳格な性格がわかる渋い顔立ち、屈強な体格にそこらの木と変わらない程のに太い腕は、人であれば容易く吹きとばせそうな程に筋肉隆々な人物が、翔の実の父親が腕を組み翔を睨みつける。
「親に向かって、なんて口の聞き方だ!!」
「おまえが1年ほど前からこの山の方に行っているのは知っていた。だが、どういうルートを辿っているのか、なぜこの山に!こんなあやかし共の巣窟に向かうのかは分からずじまいだった!!」
「だが、ココ最近はあの意味の分からない道を使わずに、真正面にここに向かうようになったのを見つけて、後をつけて見れば……」
「ナゼここに入り浸っている!!ちゃんと俺が納得出来る理由を言えるんだろうな!!!言えなければ連れ帰って頭を冷やすまで外には出さん!!」
「ここは…お前の大事な凛ちゃんを奪った場所だぞ!!!」
翔はこの言葉にしまったと思った。最初の方はなるべくあやかしに会わないように自分で見つけた独自のルートを使って来ていた。
だが、ここ最近は自分自身が強くなった事、そしてシュビィという自分の事を守ってくれるであろう存在が出来たことによって、回りくどい道を使わずにこの神社に来ていた。
まさか、ここまで自分の親が自分自身の事をつけているというのは思わなかった。
「俺は…俺は……」
「どうした!なにか後ろめたい事でもあるのか?」
翔はどう説明していいのか、どれを言えばいいのかを迷って言葉を詰まらせる。
「もういい!!家に連れて帰ってからゆっくり話を聞いてやる!!」
そう言って、翔の腕を掴む。
「やめろ!離せ!!」
翔は抵抗し、腕を振りほどいた。
今までなら有り得なかったことに父は少し驚いたが、声を張り上げて翔を叱りつける。
「俺の腕を振りほどいた…?いや、そんなことより何故ここにいたがる!ここはあやかし共の巣窟だぞ!」
「特に、ここはあの九尾の神社だ!女子供の生贄を欲しがり、それ食ってるようなクソ野郎だ!」
「しかも、ゆっくりの嬲り殺すように食うらしい!」
「他のあやかしから守ってやるという適当な理由で私利私欲を満たしているのにもかかわらず、守る気配はおろか、夜に山へ向かったものは帰ってきてなどいない!!」
「きっと夜に行動を始め、山に来た人間をなぶり殺しにしているに違いない!」
「あんな化け物じゃなければ、この手で殺してやりたいと何度も思った奴だ!!」
そう言って、翔の父は苦渋を舐めたかのような顔をして、手に力を込めて、手から血が出るほどに握りこんだ。
だが、その言葉に翔は激昂した。
「コンはそんな奴じゃねぇ!!!何も知らないくせに知ったような口を聞くな!!」
「あいつは人なんて食わないし、俺たちを守ってくれてたんだよ!!」
「夜に襲われるのは、それが最低条件として他のあやかしにつけた約束だ!」
「あやかしにはあやかし達のルールがあるんだよ!!!」
その言葉を聞いた父親は驚きそして何やら可哀想な目を向けた。
「もしかしてお前…操られているのか?」
「目を覚ませ翔!お前は騙されている!」
「あんな化け物に惑わされるんじゃない!!とにかく家に帰るぞ!」
何度も、コン達を化け物呼ばわりしている父に翔は遂に怒りを隠せずに妖力が揺らめき出す。
「コンは…俺の友達だ!!俺の友達を悪くいうならたとえ親父であっても──」
そう言って身体に妖力を拳に纏わせ殴りかかろうとした瞬間──
「そこまでだ。」
「やめとけ、死んじまうぞ。」
コンは翔の前に立ち割って入るように、フウは翔の後ろに立ち肩に手を置いた。
─────────────────────
「フウ、コン!!」
僕らの名を呼び驚く翔を僕とフウは軽くしかる。
「おいおい、お前の力は自分の親を殴り殺すために修行したのか?違うだろ?」
「お前の力はもはや人間に向けていい代物じゃない。一時の感情で気軽に使おうとするな。」
「ごめん…でも俺あんな言い方されて…」
翔は自分が何をしようとしたのかを思い出し、少し俯く。だが、僕たちのために怒ってくれたのだ。あまり言うのも悪いだろう。
そんなやり取りをしていて、忘れかけていた目の前の人間に目を向けた。
「あやかしが2体も…?!」
翔の父である人間は驚いたまま後ろに後ずさったが、踏みとどまりこちらを睨みつける。
「お前ら…俺の息子に何をした!!!」
「翔!お前もなぜそんなに親しげに話しているんだ!!こいつらはあやかしだ!化け物なんだぞ!」
そういう父親にまたもや怒りが戻り出して、妖力が揺れる翔を僕は制止し、翔にだけ聞こえるようには言った。
「あいつの言い分が正しい。僕らは化け物であり、人間では無いのだ。そんなものが実の息子と触れ合っているというのは、どうしても耐え難い事なんだろう。」
「で、でもコン達は何も悪くな──」
そういう翔を遮るように今度はフウがどこか悟ったような声で翔を諭す。
「ま、お前らがいいやつだっただけで、普通の人間様達の認識はこんなもんさ。なんせ人間喰う奴らが多すぎるからな〜しゃあねぇよ。」
「しかも人間側に俺たちへの対抗策が存在しない。」
「俺たちは人間からしたら絶対に勝てないという畏怖と、いつ自分の身内が喰われるか分からない憎悪の対象なんだよ。」
それを聞いた翔は悔しそうな顔をして黙り込んだ。
僕は未だにこちらを睨みつける男に目を向け言った。
「おい、人間の男よ。こいつはここによく迷い込んできた少年だ。僕に少年を喰う趣味など皆無だったので、道楽で遊んでやっていただけだ。」
「だが、そのせいで懐かれてしまってなぁ…面倒だから殺そうかと思っていたが、お前はこの少年の親なのであろう?連れて帰るのなら見逃してやる。」
「は?!お前ら一体何を──」
それを聞いた翔が驚いた顔をして異を唱えようとしてフウに口を遮られた。
「おいやめろ!息子に手を出すんじゃない!!」
「わかった。ここにはもう二度と来させないようにするから、息子の命を取るのだけやめてくれ!!」
「あぁ、今返すさ。」
僕はそう言って、翔の前から横にずれてフウに翔を返すように促す。
仕方ないがこれが最善だ。あれほどまでに強くなったのだ。きっともう僕らがいなくても強くなれる。シュビィも影の中で静かに静観してたが、しれっと翔の方の影に移っている。
少し寂しいような気もするが、僕達が引き止めてしまえば、翔はもう二度と両親とは暮らせなくなる。
あやかしを友達と呼ぶ人間が、村で平穏に過ごせるとは限らない。まだ純粋な子供だからこそあやかしに騙されたと言う認識で通せる部分でもある。
「ふざけんなよコン!!これじゃお前らが誤解されたまんまじゃねぇか!!」
「誤解?さてなんの事やら。早く僕らの前から消えろ少年。」
そう言って、僕は背を向け神社の方へと歩き出す。
「おい、翔!いい加減にしろ!お前はあいつらに騙されてたんだ!言ってたじゃないか!喰おうか迷っていたって!!」
そうやって、翔の肩を持ち制止させる。
その手を振り払おうとしたが、上手く力が使えない。何故か身体に力が入らなかった。
「なんだよこれ……」
(ごめんね翔ちゃん、今はこうするしか無さそうなの。)
『
シュビィが影の中から翔を支配し、動かないようにしていた。
後で翔に怒られるんだろうな。などとぼーっと思っていたが、翔は背むけてる僕らに向かって声を張り上げる。
「お前…くっそ!こんなの納得できっかよ!!コン!!フウ!!!」
「これでいいのかよ!俺はお前らともっと一緒にいたいんだよ!友達だろうが!!」
「お前らが何したってんだよ!!なんであやかしってだけでこんなに言われなきゃならないんだ!!」
「お前らは俺を助けてくれたし、俺を強くしてくれた!!なぁ!!おい!!こっち向いてくれよ!!」
フウは少し肩を震わせている。どうやら少し泣いているようだ。僕以上に翔を気に入っていたようだし、本当の弟子のように、弟のように思っていた節がある。
だが、それを見たあいつの父はこちらを睨みながらも、見当違いな事を言い出す。
「おい見てみるんだ!あの天狗の方は肩を震わせているだろう!きっとお前の言葉を聞いて笑ってんいるんだよ!!早く目を覚ませ翔!!」
僕ら自身は何もしてないにも関わらず、こんな言われようは少し腹が立つ。だが、仕方がない。これが人間とあやかしの本来あるべき関係性だ。
僕は深く溜息をつきぽつりと呟いた。
「やはり人間は嫌いだ。」
「ちょっと待ってください!!!!」
そのつぶやきが掻き消える程の大きな声が響き渡った。
聞き覚えのある声に顔向けると、凛が怒った顔でこちらに歩いてくる。
「この声は…凛ちゃん…凛ちゃんなのかい?!」
翔の父は驚いた声をあげた。
僕はこちらに向かって歩いてくる凛に声をかけた。
「お、おいここに来るなと言ったはず──」
「コン様、私今すごく怒ってるのでちょっと黙って下さい。」
だが、その言葉は遮られ僕らの前に立つ。
「凛ちゃん…まさか生きていたなんて…ど、どうして村に戻らずにこんなところに…?」
男は少し口角を上げて歪な笑顔を見せる。
驚きが勝ちすぎてとても変な顔をしていた。
「えぇ、隼人さん。お久しぶりですね。」
「そんなことより前に私は言いたいことがあります。」
そう言って凛は息を大きく吸い、まくし立てるように声を張り上げた。
「女子供を喰らう?嬲り殺すように?村を守っていない?何も見ていない、なにもしらない貴方に何がわかるというのですか。」
「私たち村の勝手な勘違いでここに生贄を送り付け、勝手に村を守ってもらうように頼んでおきながらなぜそんな酷いこと言えるんですか。」
「コン様は、フウ様はそんなことしません!!!私は生きています!!食べれてません!!それが何よりの証拠です!!」
「さっきまでの言葉を全て撤回してください!!そしてコン様とフウ様に謝ってください!!!」
そう言って男を指さしながら怒りの声をあげた。
僕はむせかえるような暑さのせいなのか、凛が出てきたせいなのか分からないが、少し目眩を起こしそうになった。
今年も夏が始まる。
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