第11話 悪神
「上級か…少し面倒だな。」
僕は、少し煩わしそうに声を出した。
「あの、悪神って……?」
あいつが僕に問いかける。どうやら僕と、フウ以外はこの話についていけてないらしい。
そうか、こいつらは知らないのか。
そう思っていると、フウが僕の隣に座って他の3人の方を向いて説明を始めた。
「俺も、そこの子供の事とか聞きたいとこだが、今はそんな場合じゃねぇ。けど、悪神については軽く説明する。翔も含め、凛ちゃんさえも悪神にはなりうるからな。」
「え、私もですか?でも私は神様でもないですし、妖術だって……」
あいつの疑問にフウは首を振った。
「あやかしは人の魂を食らって、妖力を増すことが出来るって話はわかるな?」
3人ともが頷く。
「それ以外に1つ、爆発的に力を増す方法がある。」
「それは、瀕死の人間に自分の魂を移す。そうすることであやかし側が強制的に主導権を奪うか、本来の妖力が強い方の魂が身体の主導権を握るか、あやかし側が人間に主導権を渡すことでその人間は蘇生、もしくは人間の身体に乗り移ることが出来る。」
「……?それができたとして、なんで強くなるんだ?身体は人間の身体になっちまうんだろ?むしろ弱くなってないか?」
翔が、疑問をこぼした。その問いかけに対してフウは翔の方を向いた。
「違うんだよ、肉体自体は弱くはなる。だが、大きなメリットがあるんだ。」
「それは、妖術の2つ使えるようになるということ。人間の身体に入り込むことによって、その人間が本来秘めていた本質を理解できるんだ。」
「本来は不可能だが、この方法を使えば魂が体の中にふたつあることになる。それは本質を宿すという事と同じ意味を持つ。」
ここまで聞いた3人は驚愕の顔を浮かべた。特に翔は、その脅威を理解したみたいだ。
「ひとついいかしら、天狗さん?」
吸血鬼が、手を挙げフウに問いかける。
フウはそれを見て、少し警戒しながら問いかけに答えた。
「なんだい、お嬢ちゃん。君はおかしな妖力を持ってるようだね。」
そう言われた吸血鬼は翔から離れて、スカートの裾をつかみ軽くお辞儀をしながら自己紹介をする。
「あぁ、軽く自己紹介するわね。私はシュビィ、翔ちゃんの能力によって呼び出された吸血鬼よ。」
それを聞いたフウは驚きそして呆れたような声を出す。
「呼び出されたって、やっぱり規格外の妖術持ってやがったなお前……まぁそれは今はいいか。んで?何が聞きたい?」
「今の話だと、その行為で強くなったものが悪神と呼ばれるって事であってるのかしら。」
その問いにフウは首を振った。
「いいや違う。そこから悪神になってしまう場合が…と言うよりほとんどが悪神化する。」
「簡単な理由だ、身体がふたつの魂を宿している状態に耐えられないんだよ。元が人間の身体だからな。その身体の人間がかなりの妖力を秘めていないと、身体の中にあやかしの魂がある状態に適応できずに、ふたつの魂が反発を始めてどちらかを食いつくそうとする。」
「そうなると、上手く自我を保てずに暴走を始める。それを悪神化って言うんだ。」
3人は静まり返ってしまった。少し気まずい無言が続きそうだったので、僕は口を開いた。
「まぁ、そんなに怯えるな、僕の方が強いからな。」
そういった僕に向かって、あいつは食ってかかるかの勢いで声を上げる。
「そんな…!危険すぎますよ!そんな危険な相手におきつね様が戦わなくても別の人が───」
ここで、フウがあいつの声を遮るようにして諭す。
「凛ちゃん、残念だが今回の相手はコンと俺じゃねぇと多分まともに戦えねぇ。だから俺らが行くしかないんだ。最上位のあやかしは悪神の処理も役目だからな。」
「そんな………」
あいつは悲痛な声をあげる。だが、やはり納得がいかないのか唇を噛みしめて震えている。
僕はそんなあいつの頭に手を置いた。
「おきつね様…?」
「そんなに心配するな、僕は強い。この世界の誰よりもな。上級の悪神ごときに遅れは取らない。」
そう言って頭を少し撫でてやった。そうすると少しだけ安心したのか、心配そうにそして少し寂しげに僕が頭に置いた手を取り握りしめる。
「わかりました。だけど、怪我しないようにしてくださいね?絶対に帰ってきてくださいね?」
心配してくれているようだが、なんだか手を握られていることが気恥ずかしく感じ、目線をフウの方に向けた。
「わ、わかった。フウ、行くぞ。場所はどこだ。」
「よし来た。っと、その前に、翔!」
「な、なんだ?!」
フウは翔を呼ぶと、翔はびっくりしたのか少し上擦った声を出した。
「いいか。お前は無事妖術を習得できたみたいだ。ここから先は如何にその能力を上手く使った戦いができるか、そして自分の力を理解できるかが重要だ。」
「俺とコンはいない。何かあった時に凛ちゃん守れるのはお前しかいないんだ。お前の力信じてるぞ。な!コン!」
そしてフウは僕の方を向く。僕は翔のことを見ないまま九つの尾を解放しながら言った。
「少し開ける、留守は任せたぞ。」
そう言われた翔はとても嬉しそうな声を出した。
「おう!任せとけよ!凛には傷1つ付けさせねぇ!お前らも悪神なんかに負けんなよ!!」
そう言って僕とフウに胸を張った。
僕とフウは鳥居の方に向かいながら翔に答えた。
「ふん。悪神ごときに僕が負けるか。」
「ハハ。違いねぇ。たまには最上位としての威厳ってのを見せてかねぇと弟子に示しつかねぇよな。」
鳥居から抜けて僕は妖力で浮き、フウは風を集めつつ、翼を羽ばたかせた。
「じゃあ行ってくる。頼んだぞ。」
そう言って、飛び去った。
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「ところで、一体どこで悪神が出現したんだ?」
僕はフウに聞くと、フウは苦い顔をしていらだちを特に隠すことなく答えた。
「……八首のところだ。」
僕はそれを聞いて少しため息をついた。
「あいつか…。」
「あの野郎のところに頻発してるみたいでよ。ついに上級が悪神化して俺たちが呼ばれたってわけだ。」
フウは怒りをあらわにした声で吐き捨てたように言った。
「あの蛇。次は何をするつもりだ…」
僕たちは少し嫌な予感を感じながらも悪神の方へと向かって行った。
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