第12話 吸血鬼の力
コン達が悪神の討伐に向かって、2日が経った。
その間、翔は家に帰ることなく神社に居座りながら能力を扱う修行に励んでいた。
「だいぶ感覚が掴めてきたな……」
「お疲れ様、翔ちゃん♡」
翔は、腕から少量の血を流していた。
吸血鬼のシュビィの能力のひとつ、それは自身の血を自在に変化させるという能力だ。
─────────────────────
「まずは、私の能力について説明していくわね。」
シュビィは自分の能力について話し出した。
「まずは、血を扱う能力。これは自分の血を形を変えたり、固めたり、飛ばしたり、血を自在に扱うっていう能力よ。こんなふうにね。」
シュビィは自分の指を少し噛み、血を流した。その血は瞬時に固まっていき、剣のような形に変化していく。
「すげぇ……。」
翔は目を輝かせて驚いた。自分もこれが使えるのかもしれないと思うと胸が踊っていたからだ。
「あとは吸血鬼としてそもそも扱える能力が、自分の体を蝙蝠に変えたりとか、影に溶け込んりもできるわ。」
「でも私自身の能力はこれじゃないの。」
シュビィは少しニヤリと笑いながら、自分の《固有能力》について話し出す。
「私の固有能力は《夜を統べる者》夜が深まれば深まるほどに身体能力が上がっていき、夜を自在に操る能力よ。」
「《夜を統べる者》……?」
翔は不思議そうな顔を浮べる。身体能力が上がるというのはわかったが、夜を自在に操るの意味がよく分からなかったからだ。
「まぁ、こればかりは言葉で説明しても難しいわよね……。でもこの能力は今は使えないわ。そして多分翔くんにもね。」
「え、なんでだよ?!」
翔は驚いたような声を出す。
「翔ちゃんの力でこちらに呼び出されたことで、私の能力を最大限に引き出すには代償が必要みたいなのよ。その代償はあなた自身が支払わないと使えないの。」
「こればっかりはどうしようもないわ。私的にはあなたに全て使って欲しいけど、それをあなたの妖術が許さない。」
「そっか……」
翔は少し落胆し、悔しそうな顔をうかべた。
「で、でも今は使えないけど、いつかは使えるかもしれないじゃない!あなたの能力の練度とあなた自身の成長次第よ!!」
シュビィは慌てて励ますような声を出す。それを聞いた翔は少し安心したような顔をしていた。
「そうだよな!まだまだ修行して強くならなきゃだ!」
「えぇ、そうね!まずはなんの能力が代償無しに使えるか見てみましょうか……」
─────────────────────
夕日が差し掛かり、夜が近づいていく時間。翔は、次は影を移動する修行をしていた。
翔が代償無しに使える能力は2つ、血を扱う能力と、影を移動する能力だ。
そして、シュビィを身体に憑依させた状態でのみ能力が発動をするので、使える妖力がその分上乗せされるため、そもそもの妖力の量が飛躍的に上がっていた。
身体に妖力を纏い自分の身体能力を向上させ、影から影に移動しながら自分の血を辺りに散らしつつ、敵と想定した木に後ろから切りこむ。
そうして細かく切れた木の破片を散らした血を地面から棘のように飛ばし、的確に破片の真ん中を貫いていく。
「よし、だいぶ思うように動けるようになってきたな!」
シュビィは翔の修行に付き合いながら翔のセンスと才能に驚かされていた。
(わずか、2日足らずでここまでの理解度……そして2つの能力を使い分ける器用さ。)
(さっすが私の翔ちゃん♡天才ね♡)
『翔ちゃん、今日はこのぐらいにしましょう。翔ちゃんの妖力もあまりもうないみたいだし、血を結構使ってるから貧血になっちゃうわ。』
「そうだな、凛の飯食べに行くか〜。」
そう言って、翔は憑依を解く。翔の身体からシュビィが出てきて、翔の頭に乗っかる。
「ほんっとうは私が作ってあげたいんだけど、この身体じゃ無理なのが悔しいわ……」
「あの小娘のご飯、そんなに美味しいの?」
シュビィは頭に乗っかりながら、山から戻る翔に聞く。
「お前、凛のこと小娘って呼ぶのやめろよ…?もうちょい仲良くしようぜ?」
「嫌よ、翔ちゃんだってあの小娘のこと好きじゃない。私はこんなにも翔ちゃんを愛してるのに、私より好きな女がいるのはムカつくわ。」
「んな事言われても……だって俺は凛に───」
「知ってるわよ、助けてもらったんでしょ?あんな助けられ方したら好きになるのも分かるから尚更ムカつくの。」
「お前、なんでそれ知って…まぁいいやそういやずっと見てたんだったな……」
そんな話をしながら、歩いていると神社の方まで戻ってきたら、凛が外で待っていて翔が、戻ってきたのを見て駆けよってきた。
「おかえり、翔くん!帰りが遅いから心配したんですよ?お風呂沸いてますから入ってきてください。」
そんな凜を見て、翔は少し怒った。
「おい、凛!あんまり外に出んなあぶねぇだろ!」
「で、でも私心配で………」
「はーい、気安く触ろうとしな〜い。抜け目がないのよ。早くお風呂に行きましょ?」
そう言って、翔とシュビィがお風呂に行こうとすると、凛がシュビィを止める。
「ちょっと待ってください。なんでシュビィちゃんまで行くんですか?貴方はお風呂入らなくてもいいでしょう?身体がないんだから。」
そう言ってニコリと微笑む。が、目は笑っていない。
そんな凛を見て、シュビィもまた微笑みながら返す。
「あらあら、言うようになったわねぇ小娘。私は翔ちゃんの使い魔みたいなものだから片時も離れられないのよ。分かったらご飯でも作りに行きなさい?」
「お前ら仲良くしてくれよ……後、風呂は一人で入るからシュビィは来んな。」
翔は呆れた声を出しながら、シュビィを置いて風呂に向かった。
「も〜恥ずかしがり屋さんなんだから♡」
「普通に嫌なだけだと思いますけどね。」
凛はすかさず悪態をつく。
「口の減らない小娘ね…性格が曲がってるわよ?」
「シュビィちゃんにだけは言われたくありませんよ!大体なんで私にそんなに嫌なことばっか言うんですか?!」
「私の翔ちゃんを誑かしてたからよ。」
「そんなことしてないです!だいたい私は───」
凛がそこまで言った後に、シュビィそれに被せるかのように言った。
「わかってるわよ、キツネちゃんのことが好きなのよね。」
シュビィはそういうと、凛は顔を真っ赤にしながらあからさまにうろたえ出した。
「なっ、ななんでそれが…!」
「見てればわかるし、大体生贄になる話、貴方が自ら志願したんでしょう?村の話じゃ、食べられるって話の生贄に自ら志願なんておかしいわ。」
「翔ちゃんを通して見ていたけど、最後の生贄に向かう前に翔ちゃんに向けた笑顔、あれは自己犠牲の笑顔なんかじゃなかったもの。あとは女の勘ってやつね。」
シュビィがそう言うと、凛は観念したかのようにガックリと項垂れた。
「…そうですよ。私はおきつね様のことが好きです。人間が神様を好きになんて可笑しいですよね……」
凛がそう言うと、シュビィは首を振る。
「恋愛に種族なんて関係ないわ。好きになった人がタイプなのよ。それがたまたま同じ種族じゃなかっただけ。」
「私も吸血鬼でありながら、人間の翔ちゃんの事が好きなのよ?」
「だから、人間の貴方がキツネちゃんに恋をしようとも私はあなたを絶対に笑わない。」
「あなたが本気なら私が協力してあげてもいいわよ?」
シュビィがそう言うと、凛は悲しげな顔しながら首を振った。
「私は、おきつね様のそばにいられるだけで幸せなんです。本当の意味で私はおきつね様の隣を歩くことはおろか、隣に立つこともできません。」
「私は、あの人の中の思い出のひとりになれればそれでいいですから。」
「私、ご飯の用意してきますね。」
凛は悲しげな笑顔を浮かべながら、その場から離れて食材を取りに倉庫の方へ向かった。
「……ほんとにそれでいいと思ってるならそんな顔するんじゃないわよ。調子が狂っちゃうじゃない。」
シュビィはすっかり夜になり、綺麗な満月を見ながら呟いた。
─────────────────────
「まさかバレるなんて思わなかったな……」
凛は今日使う食材を選びながら、1人で呟いた。
おきつね様が好き。この気持ちは生涯誰にも明かすことなく死んでいくつもりだった。
女の勘って怖い。
「さて、あとは卵と……」
そう言いながら倉庫を漁っていると、後ろに影ができた。自分より大きな体躯に耳が生えた影だ。おきつね様への来客かな?そう思った凜は、後ろを振り向きその影の主に話しかける。
「もしかしておきつね様に御用ですか?それなら今いなくて───」
「また来てください」という言葉を遮るかのように、頭を殴られ気を失い、 そいつは凛を担いで一言呟いた。
「ツカマエタ。オウニケンジョウヲ」
人狼は凛を担いだまま、森の中へと駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます